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「私は、がん患者」発症から6年後のカミングアウト―病とキャリアvol.4(中編)

2019年7月26日

がん患者であることの現実や不安と向き合う一方で、その事実を周囲にひた隠しにしていた田所先生。あることを機に、カミングアウトすることを決意します。中編では、カミングアウト当時の気付きと疾病受容に対する考え、そして緩和ケアへの真摯な思いを話していただきました。(取材日:2019年6月10日)

取材中のカミングアウト

——がんであることを隠し続ける中で、突如カミングアウトをされたそうですね。その時のことを教えてください。

2年前に、あるWeb媒体の取材を受ける機会がありました。テーマは仕事と子育ての両立。そのため、がん患者であることは隠すつもりでいました。けれども、がんであることを伏せて仕事や普段の生活のことを説明しようとすると、言葉に詰まるんです。本来、何事も偽りなく話すことができる性格なのですが、どの方向から話そうとしても、がんのことに行き当たってしまう。
その時、自分は医者であると同時に、やはりがん患者なのだと思い知ったのです。隠すことは嘘をつくことであり、自分に嘘をつく苦しさは、がんを隠している限り続くのだと痛感しました。インタビューの中で突然がんの告白をしたことに、取材陣の方も驚かれていましたね。
その取材記事には、多くの反響がありました。同じがん患者さんからは「勇気付けられました」「救われました」といった言葉をたくさんいただいて――。どの部分が響いたのかはわかりませんが、私の言葉で誰かを励ますことができることを知り、一歩前へ進むことができたように感じられました。

がんにならない人生を選びたかった

——カミングアウトは、がんになってから6年後のことだったのですね。現在は、病を受け入れられていますか。

受け入れているように見えるかもしれませんが、自分としては、決してそうではありません。
健診結果すらも気にしていなかった41歳の頃は、自分が死ぬことなんて考えたこともなく、嫌なことをいかに排除して楽しく生きるかを考えていました。
それが突然、自分で道を選べない状況になってしまった。自分の力ではどうにもならず、何がいけなかったのかと原因を探っても、何も思い当たらない。それでも時間が経てば、体の回復とともに病気の記憶も薄れて気持ちも楽になる、手術や検査も一つずつクリアすれば、終わりに近付くと思っていました。けれども、終わりはないんです。どれだけ克服しても再発の可能性はゼロとは言い切れない。その現実が、時間が経つほどのしかかってくるんです。排尿障害のせいか、トイレに行くたびに溜息が出ます。がん発症から8年経った今も、1週間のうち何回トイレで涙ぐむことか・・・。

講演などで理性を持って話すことも、前向きで明るい話をすることもできます。一方で、泣いていいよと言われたら、今でも3秒で泣けます。「なぜ私が、がんなのですか」と。がんにならない人生を選びたかったけれど、そこには絶対に戻れない。今も悔しくて怖いですが、もう受け入れるしかないと、自ら奮い立たせているところはあります。

——どうにか受け入れるしかない、ということなのですね。

疾病受容について患者仲間に話すと、「受け入れることなんてできないよ」と言われ、本当に救われます。30年近くもがんと付き合い、10回の手術を経験し、積極的に患者さんの支援活動をされている方でも「そう見えるだけだよね」と。だから、そういうスタンスでいいのかな、とも思います。

麻酔科医には戻らない

——現在、先生は緩和ケア医としてご活躍されていますが、麻酔科への未練はありませんか。

がんになっていなければ、麻酔科医としての比重を増やしていたかもしれません。ただ、今、麻酔科医に戻りたいかと聞かれたら、戻らないと答えます。

麻酔科は、患者さんと関わるのは手術のときだけ。それに対して、緩和ケアは、患者さんの予後を追いかけ、引き継ぐ仕事です。今までできたことが少しずつできなくなる不安や漠然とした問いかけを抱いている患者さんの気持ちに、時間が許す限り、腰を落ち着けて向きあえる人間でいたいと思っています。
かつて、知人の医師に「死んでいく人の世話をしていて楽しいですか」と聞かれたことがありました。患者さんは死んでいくわけではなく、残された時間を生きていくんです。そういった方々が望む生き方や死に方を、医師の立場で汲み取り、手伝ってあげたい。患者さんを治して元気にする医療もあれば、そうではない医療もある。正しい、間違っているという話ではないんです。

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