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企業(産業医・MD・社医)

「産業医は精神科で無くても大丈夫」企業のメンタルヘルス解決法

2025年5月22日

近年、メンタルヘルス対策は人事・労務担当者の喫緊の課題となっており、その重要性は刻々と増しています。この傾向は日本全国で見られ、厚生労働省が発表した令和5年度の「過労死等の労災補償状況」では、「精神障害に関する事案の労災認定」件数は3,575件、前年度比で892件も増加するなど、その影響は深刻化の一途を辿っています。これらの問題を解決するために、産業医の専門的な知識やサポートが重要な役割を果たします。本稿では産業医との効果的な対策法や誤解されがちなポイントをご紹介していきます。

メンタルヘルス対策において産業医が果たす重要な役割

産業医とは、企業で従業員の健康管理や労働環境を専門的立場から指導・助言をする役割を持った医師のことです。より簡単に言うと、職場や働き方・組織などを治す専門知識を持った医師になります。企業内で起こるメンタル不調の主因は、仕事内容や量、人間関係などを起因とするものが多いでしょう。

そのため、担当を含め事業者だけで解決を図りたくなりますが、なかなか利害関係の調整を含めて難しいのが現実です。時として対立しやすい組織と従業員個人の間に入ることで、担当者自身がメンタル不調に陥ってしまうというケースも少なくありません。社内で発生している個別のメンタルヘルス案件を解決しながら、組織課題を洗い出して根本解決へと導いていく。これが産業医の主な業務の一つです。

「その場限り」にしない対策を産業医と

メンタルヘルス対策は、不調者の予防、休復職対応など個別対応が多くなりがちです。これらを丁寧に行っていくのも大切ですが、これだけに終止してしまうと、その場限りの対応が増えてしまい、企業としての一貫した姿勢を示せなくなってしまいます。まず対策を取ることを決めたなら、産業医とともにメンタルヘルス対策の計画を立てていきましょう。

一般的にメンタルヘルス対策は4つのケアと3つの予防が重要とされています。産業医は、このいずれの予防の場面でも力を発揮します。具体的には、早期発見・早期解決に向けての面談を通して、社内で発生している過重労働やハラスメントを含む人間関係、問題のある職場環境などを客観的な視点から確認し、優先順位を定めながら解決を促します。

3つの予防と4つのケアのマトリクス表

一時的な不調者増加は見込んで根本解決

実際にメンタルヘルス対策をスタートさせ、産業医による面談を開始すると一時的にメンタルヘルス不調者が増加するケースがあります。多くの担当者は数字の急進を目にすると慌ててしまい、新規の対策や、EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)などの外部相談サービスに頼ってしまいたくなります。しかし、なんの検討もなく進められる施策は往々にして失敗しがちで、コスト増加の原因になります。この数字増加は、対策が始まったことによって問題点が表面化してきた結果だと捉え、産業医とともに根本原因を突き止めていくことが大事です。

また、原因が判明した際に、解決に向けて社内改革を含む対策が必要になることがあります。企業が創業から培ってきた文化や、逃れ得ぬ大きな負荷の業務などを大胆に変える際には、社内からの反発は必至です。特に企業のトップを動かし、コミットメントを求めるには客観的なデータと専門家からの適切なアドバイスは欠かせません。ここでも産業医の知見が大いに役に立ちます。個別案件を通した会社状況の把握と、産業保健領域の専門家としての意見を合わせることで、納得のいくアドバイスを提供することができるでしょう。

企業のメンタルヘルスは精神科・心療内科が最適解ではない

メンタルヘルス対策を産業医とともに進めていくことを決意した企業が陥りやすい失敗に、精神科・心療内科を専門とする産業医を強く求めてしまうことがあります。たしかに精神科が専門の医師は、メンタルヘルス不調そのものに対しては他の専門科の医師よりも優れた対応が可能な場合が多いでしょう。一方で、企業のメンタルヘルスに求められるのは、予防と早期発見、事後ケアの充実など、仕組みの部分がメインとなることを忘れてはいけません。

前述した通り、個別の事案のクオリティがいくら上がっても、根本原因の解決に至らなければ、場当たり的な対応になってしまいます。職場に潜むメンタル不調要因を見極め、企業の状況を踏まえながらアドバイスをしたり、仕組みを作っていくのは産業保健を知り尽くした産業医の得意分野です。従業員の不安解決につながる面談を、単なる相談の場に留めず、企業全体の施策につなげていきたい場合には、経験豊富な産業医に頼ることをおすすめします。

また、メンタルヘルス不調以外の従業員の健康問題や職場・職場環境の問題もバランスよく解決していくことも忘れてはいけません。時としてメンタルヘルスの要因が自身の健康問題であったというケースは少なくありません。だからこそ産業保健全体の施策を並行して進められる力が重要になってきます。産業医を新たに専任するところから始める際には、このような視点を持って臨むようにしましょう。

何から手をつける? 担当者がすべきこと

産業医とメンタルヘルス対策を進めていく方法が見えてきたかと思いますが、そのために必要なのが企業内でのコミットメント獲得と産業医との密な連携です。具体的には下記の流れを作り出すことが重要です。

  1. トップのコミットメントを得る
  2. スモールスタートを意識して対応する
  3. データを収集する
  4. 目処がついた後の格段施策の準備

最初にして最も重要なのが、「トップコミットメントの獲得」です。どんなに産業医が面談に熱心に取り組んでも、担当が良い施策を考えても、トップが了承し、投資をしなければ動けません。また、企業全体として解決する姿勢を打ち出さないと、継続的に対応することが不可能になってしまいます。まずはトップに対して、メンタルヘルス対策を行う重要性とメリットを伝えて、同意を得るようにしましょう。

同意を得た後は、原因の追求が必要になります。これは実際の案件を解決していくことで、データが蓄積していきます。小さい動きに見えてしまいますが、産業医面談を増やし、対象者の状況確認と原因の追求を行いましょう。1点注意点としては、産業医だけにデータ収集を任せてしまうと、従業員の視点のみになってしまいます。周辺情報の収集などを合わせて行うことで多角的に問題を把握することをおすすめします。

原因がある程度見えてきたら、その解決に向けた施策を考えていきましょう。相談先が少ないのであれば、社内に産業保健師や公認心理師などを常駐させて相談対応に割り当てる、外部相談窓口を設置するなど、根本解決につながる施策が重要です。さまざまなサービスがありますので、自社の問題解決にはどのような形のものがいいのかを産業医にアドバイスを貰いながら詰めていくと施策迷子になりにくいでしょう。特に外部サービスに関しては、つい目移りしてしまい高頻度でサービスを替えてしまう例が散見されます。

いずれにせよ、産業医との打ち合わせ時間をしっかり確保し、今までのデータを踏まえながら話を進めてください。

まとめ

企業のメンタルヘルス対策を推進する第一歩として、産業医に頼り、また活用することは、現実的で効果的な選択肢です。また、必ずしも精神科・心療内科のように心の専門の先生だけを求めるのは、選択肢の幅を狭めるだけでなく、施策の幅も狭める可能性があることに留意しましょう。

産業医と連携し、企業全体の健康管理を包括的に行うことで、継続的なメンタルヘルス対策を実現できます。メンタルヘルスを単なる一問題として捉えるのではなく、「組織全体の健康対策」として捉えることで、企業の持続的な発展につなげていけることを願っています。

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