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企業(産業医・MD・社医)

「元気です」に潜むSOSを見抜く!メンタル不調社員を救うには―産業医インタビューvol.1後編

2025年8月21日

前編では、産業医・一里塚先生(仮名)が産業医を志した背景や、健康診断結果を活用した具体的な取り組みなどを伺いました。後編では、現代の企業が抱える大きな課題の一つであるメンタルヘルス対策に焦点を当て、実践されている面談方法などについて深掘りします。

※本稿は、人事労務担当者向けの記事を一部編集して掲載しています。

産業医インタビュー・一里塚先生プロフィール画像 産業医資格のほか、血液専門医や内科専門医などの資格を持つ。これまでにIT、人材派遣、メーカー、不動産など、多岐にわたる業種で約20社の嘱託産業医を務める。活動歴は8年。従業員50人未満から999人まで幅広い事業場での経験を持つ。現在は週1回、嘱託産業医として活動中。「働く人の役に立ちたい」という思いを胸に、企業と社員の「幸せな着地点」を探ることをモットーとしている。趣味は読書とミュージカル観劇。

※本稿は、人事労務担当者向けのインタビュー記事を一部編集して掲載しております。

「病識がない人」をいかに医療につなげるか?メンタル面談の難しさ

――産業医として特に力を入れている分野、今後力を入れたい分野はありますか?

2つあります。1つは、内科医として「生活習慣病対策」です。私の担当していない企業での話になりますが、最近、メンタルが原因ではない突然死のケースや、「もっとケアしていれば防げたかもしれない」という生活習慣病の事例を聞く機会が増えました。生活習慣病は自覚症状がないことが多く、忙しいと受診しない方が多くいます。しかし健康は失って初めてありがたみがわかるもの。受診に向けたサポートを通して、不幸を未然に防ぎたいと考えています。ただ、これがうまくいくかどうかには企業の意欲が大きく影響するので、その温度感を探りながら、できる企業から取り組んでいきたいですね。

もう1つは、“メンタル面談”の技術です。これが非常に難しいと感じています。いかに相手を慮りながら面談を進めるか、日々自分でも研鑽を積んでいます。特に、自分が病気であるという認識がない方を、いかに医療につなげるか。これは非常に重要な課題です。一人ひとりを、取りこぼしなくサポートできるようになりたいと思っています。

――メンタル面談の技術を磨くために、何か実践されていることはありますか?

産業医の講習会では、精神科医の先生方がメンタルヘルスに関する講座を多く開いてくださるので、そこで学んでいます。あとは、面談前に頭の中でシミュレーションをすることですね。事前に企業から得られる情報を元に、「こんな流れで話を進めよう」とシナリオを立ててから面談に臨んでいます。

メンタルに問題を抱えている社員の場合、企業側も多くの情報を提供してくれます。ただ、最初からこちらが一方的に話すのではなく、最初の10分くらいは、質問しつつもご本人の口から色々引き出すようにしています。「なるほど、そうなんですね」と受け身の姿勢で話を聞き、徐々にこちらから話していく、という感じです。

「元気です」を真に受けない。隠れた疲労を見抜く視点

――ときには「産業医は会社の味方なのか?社員の味方なのか?」と、社員の方が不安を抱えることもあるようです。先生はどのようなスタンスで臨まれていますか?

私は「従業員の味方になりたい」と考えていますし、ご本人が言いたいけど言えないことを代弁する立場だと考えています。たとえば、うつ病になる方は真面目な方も多く、最初は自分がメンタルを弱っていることに気づかないまま頑張ってしまいます。その結果、疲弊してしまっても、なかなか「辛い」と言い出せない。そうした言えないことを、私が代わりに言う、という立場です。

究極的には「従業員の方が自殺してしまわない」ということを常に念頭に置いています。心身ともに従業員を守れる立場でありたいですし、それを人事に伝えられるように心がけています。ただ、最終的に従業員の去就を決めるのは企業なので、結果として「会社の味方」と思われるのはやむを得ないのかもしれません。難しいところですね。

企業に雇われている身でもありますから、完全にどちらかの味方というわけではありません。しかし、守秘義務は絶対に守るようにしています。従業員の方が「これだけは言わないでほしい」と望むことは、会社側には伝えません。報告書を渡す際も、「言わないでと言われている内容なので、ここは記載していません」とお伝えしています。

――「フライング復帰」で再発するケースも多いと聞きます。

そうですね、メンタル不調の復職では焦らないことが大切です。うつ病の場合、私は最低でも2~3ヶ月は休むべきだと考えています。2ヶ月でも早い方です。眠れていない方が多いので、私の感覚ですと、まず1ヶ月で睡眠が整い、その後に食欲が戻り、楽しいことを楽しめるようになる、といったステップを踏むので、最短でも1ヶ月半から2ヶ月は必要だと思います。焦って復帰して再発してしまうと、人事の方にとっても負担になってしまいますし、なにより本人の負担も大きくなります。

中には、主治医が本人の強い希望で1ヶ月といった短めの診断書を出されているケースもあります。その場合、私としては「もう少し休んだ方が良いのでは」と思っても、会社の負荷がそこまで高くないと判断されると、強くは言いづらく、難しいところです。

――非精神科医として、メンタル不調の社員と面談する際に気をつけていることはありますか?

うつ病かどうかの“身体症状”を必ず確認するようにしています。面談で「元気です」と訴える方でも、よくよく聞くと睡眠障害、食欲不振などの身体症状を確認できる場合があります。長時間労働は特に落とし穴で、「大丈夫だろう」と思って面談すると、実際にうつ病が発見されるケースも少なくありません。

また、話している中で「すごく真面目な人だな」と感じたら、その言葉を真に受けすぎないようにしています。「元気です」「働けます」と言っても、ご自身に厳しい傾向があるので、本音はどうなのだろう、と常に思いながら質問を重ねています。ご本人が真面目であればあるほど、自分に厳しいので、疲れていても無理をしてしまうんです。少しオーバーに拾うような気持ちで話を聞いています。

ご本人が「受診したくない」とおっしゃる場合もあります。しかし、最終的には「産業医や会社に言われたから仕方なく…と言って、受診してみては」と伝え、必ず受診を促します。こうしたケースは自ずと面談の時間も長くなってしまうのですが、初回面談で涙を流される方も多く、それだけ心がいっぱいの状態で面談に臨まれているのだと思います。だからこそ、初回面談は特に大切にしていますね。

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