企業(産業医・MD・社医)

産業医として企業を関わるときのポイント

2025年9月1日

臨床医として第一線でご活躍されている皆様の中には、「産業医」というキャリアに関心をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、「企業の中で医師がどのように働いているのか」というイメージが付きづらいこともあるでしょう。本記事では、臨床医の皆様が産業医として働く際に知っておくべき、民間企業との関わり方の要点を解説します。

産業医の役割は「組織」を意識した健康管理

臨床医の先生方は、患者様の健康問題に直接向き合い、基本的には診断・治療を通じて「個」の健康を最優先されているかと思います。

これに対し、産業医は企業という「組織」の健康を支える役割を担う存在といえます。

産業医面談などを通じて個々の労働者と関わる場面もありますが、それらの活動を通じて職場全体の健康管理、安全衛生体制の構築、労働環境の改善提案など組織に対するアクションを行っていきます。

つまり、臨床医と患者が築く「主治医・患者関係」とは少し異なり、産業医は企業の経営層、人事労務部門、現場の管理職、そして個々の労働者と、多層的なコミュニケーションを築くことも大切です。

産業医は、労働者の健康と安全を守る専門家であり、その根幹は「仕事を人に適合させていく」と言い換えることもできます。

業務内容や職場環境を個々の労働者の健康状態や能力に合わせて調整し、心身の不調を未然に防ぐ。これにより、労働者が健康に、最大限のパフォーマンスを発揮できるようサポートします。

民間企業との関わり方のポイント

産業医として円滑に関わっていくためには以下の点がポイントになると考えられます。この機会におさらいしておきましょう。c 企業の文化と事業内容をくわしく知る

企業にはそれぞれ独自の文化、事業内容、働き方があります。

例えば、製造業とIT企業では、発生する健康問題も働き方も大きく異なります。製造業であれば、機械や化学物質の取り扱いによる騒音、重労働による腰痛などが問題になりやすいと考えられます。

一方のIT企業では、長時間労働、ディスプレイ作業による眼精疲労、精神的なストレスが主な課題となります。

このような背景から、産業医としては顧問先企業の事業内容を深く理解することが大切になります。

具体的には、生産ラインを巡視することや、衛生管理者、管理職と直接話をすることで、マニュアルやデータだけでは見えてこない「生きた情報」を得ることができます。

この理解があって初めて、その企業に合った健康管理施策を提案できるようになるでしょう。

人事労務部門との連携がポイントに

産業医の活動は、人事労務部門との連携なくしては成り立ちません。

人事労務部門は、労働者の健康情報に詳しく、現場の問題も把握している担当者です。

人事労務担当者との密なコミュニケーションを通じてさまざまな情報を入手し、産業医は医療の専門家として知見を持って課題に対応していくことが欠かせないといわれています。

この連携において重要なのは、「お互いの専門性を尊重する」ことです。

産業医は、医学的な判断や改善案を伝える一方で、人事労務部門の持つ労務管理上の制約や、会社の就業規則を尊重し、現実的な解決策を共同で探求する姿勢が求められます。

労働者にとって「身近な医師」になるには

組織の健康維持のためには、労働者個々人との信頼関係は活動の基盤です。

しかし、多くの労働者は医師を必要以上に遠い存在と捉えてしまうこともあります。そのため、産業医を身近に感じてもらうためのコミュニケーションも大切といえるでしょう。

例えば、職場巡視の場面を活用して労働者と少し話してみることや、社内報に「産業医だより」等を載せることも効果がありそうです。

産業医が身近に感じられることは、面談や健康相談の場面で労働者が安心して自身のことを打ち明けられる関係性につながり、結果として職場の健康維持に寄与します。

産業医は、臨床とは異なるやりがいとスキルが求められる職域です。企業という「社会」の中で、医師として新たな価値を生み出す、挑戦的なキャリアパスとして、ぜひご検討ください。

産業医としてのキャリアをご検討中の先生へ

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