前回は、私が臨床医から産業医になった理由と仕事のやりがいについてお話ししました。今回からは、産業医の具体的な仕事に焦点を当てていきたいと思います。 第2回となる今回は、産業医の仕事の中でも特に機会の多い「面談」について、よくあるシチュエーションと、私が実務で行っていることをお伝えします。あくまで一例として、参考になればうれしいです。 ※内容はあくまで私の経験に基づくものです。産業保健に絶対的な正解はなく、状況に応じて対応は変わるためあくまで一つの事例として読んでいただけると幸いです。
片方の意見だけで判断は難しい
「同僚の〇〇さんのせいで体調を崩してしまった」こういった相談を受けることはよくあるケースです。そんな時に私が大切にしているのは、片方の意見だけで安易に言葉をかけたりせず、時には判断をしないということです。
面談の対象者の発言だけではなく、本人の同意を得てから、必ず人事担当者や上長などの他の方にも話を聞くようにしています。そうすることで、より正確な情報に基づいた公平な判断ができるようになると考えているからです。
人間関係のトラブルはすごくデリケートな問題だからこそ、産業医は「被害者」と「加害者」というレッテルを貼らず、あくまで目の前の従業員の健康状態と向き合うことが大切だと思っています。
産業医の立場をハッキリ伝える
面談時に私が心がけていることも紹介してみます。
まずは、産業医というものが中立的な存在であり、会社と従業員のどちらにも片寄った立場ではないことをお伝えしています(伝え方は空気を読みながらですが!)。
産業医の立場をあらかじめ伝えることで、多くの従業員の方は「公平に話を聞いてくれそう」と感じてくれるからです。
公正な視点で話を聞くことを最初に約束するのは、信頼関係を築くための第一歩と考えています。
面談のゴールを最初に共有する
次に、「今日の面談で何について話すか」を最初に話し合っておくと、話が脱線しにくくなり、結果として面談の長時間化を防ぐことができます。
面談が盛り上がってしまい話が逸れるというのはよくあることですが、面談の時間も会社にとってはコストであるということを意識しています。
ですので、産業医面談は30分程度を目処に、話し合うべきことと時間を意識しながら取り組むように心がけています。
「会社が悪い!」と言われたら?
面談で「先生、これって会社のせいですよね?」と聞かれることもよくあります。こういったケースではハラスメントや労災などが関連するため、かなり注意が必要です。
産業医として安易に意見を述べてしまうことは危険なため、人事担当者などに対してもしっかりと事実を確認し、産業医ひとりで判断することは避けています。
その上で、場合によってはハラスメント相談窓口などの専門部署へ引き継ぐなど慎重に対応します。そのためにも、社内の関係部署などを事前に確認しておくことも大切といえます。
続きは第2ラウンドにすることも
一度の面談で判断が難しいときは、無理に結論を出さなくても良い気がします。「また後日お話を聞かせてください」と伝えて、一度時間を置いてみるのも手だと考えます。
私の場合、時間的な余裕がある際は、その間に人事担当者などにも話を聞き、あらためて客観的な状況を把握するようにしています。その内容を踏まえ、次回の産業医面談を行っています。
また、面談者の感情面などは、時間を置くことで解決することも意外とあったりします。
産業医面談に苦手意識をお持ちの方へ
最後になりますが、面談業務に苦手意識をお持ちの産業医の方も少なくないと聞きます。
しかし、面談の場面では診察をはじめとした臨床現場で培ったコミュニケーション力を活かすことが出来ます。
また、産業保健について外部のセミナーなどを利用して自ら学ぶことや、他社の産業医と積極的に交流して情報やTips得るといったことは、臨床医とも共通していますし、社内で孤立しやすい産業医には特に重要です。
このようなことは、苦手意識をお持ちの方にもぜひ知っていただきたいです。
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