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医学生から育児を両立して約10年… 支えとなった言葉 ─女医キャリアの壁vol.1(後編)

2020年8月11日

二人のお子さんが就学し、育児から少し手が離れてきた林安奈先生。現在は、クリニックや大学病院での診療のほか、産業医業務にも注力されています。今日に至るまで、さまざまな壁を乗り越えてきた林先生の支えとなったのは家族の存在、そして、ある医師に言われた言葉でした。(取材日:2020年7月8日)

現在勤務されている、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の前で(写真:林先生提供)

クリニックでの診療を柱に、産業医、訪問診療にも従事

——現在の働き方を教えてください。

2020年6月末まで女子医大の常勤医でしたが、7月からは非常勤で月1回の初診外来のみを受け持っています。週4日はビジネスパーソンのメンタルに寄り添う「VISION PARTNERメンタルクリニック四谷」で診療し、週1日は産業医として働いています。 ほかに、月1回ほど内科クリニックで訪問診療の精神科領域に携わっています。訪問診療は精神科のニーズが高いんです。具体的には、認知症高齢者の不眠や不穏、てんかんのコントロールなどを担っています。訪問診療は後期研修医のとき以来ですが、当時よりもできることが増えていました。医学部から育児と両立して約10年、医師としてしっかり成長できていることを実感できていることがうれしいですね。

——仕事と家庭の両立で工夫していることはありますか?

子どもたちが小学校に上がったので、以前に比べるとラクになった部分があります。ただ、新型コロナウイルス感染症の影響で、学童保育の時間が短くなりました。夕方の早い時間に、私も子どもたちも帰宅して、みんなで夕食をとっています。本当はあと1~2時間遅くまで仕事をするつもりでしたが、この状況ですから仕方がありません。一方で、子どもと過ごす時間が増えたので、それについては良かったと思っています。

家事は夫婦で分担しており、夫は掃除、私は料理の担当です。週末の作り置きと、出勤前の下ごしらえで、帰宅したらすぐ食べられるようにしています。 最近は子どもたちが洗濯や掃除を手伝ってくれるようになったので、とても助かっています。なんとなく、家事や育児は私がするものと思っていましたが、もっと家族に頼っていいんだなと、考え方が変わってきました。自分自身が子どもだった頃を振り返ると、共働きの両親を手伝って、姉妹3人で料理や家事をしていました。当時の自分にできたので、子どもたちにも教えればできるかもしれません。今はまだ料理を教えるほどの時間はないのですが、徐々にできることを増やして、みんなで協力して家庭を回していけたらいいな、と思っています。

「保育園の確保」と「発熱時の対応」が育児中の2大テーマ

2人のお子さんと七五三のお参りに(写真:林先生提供)

——これから家庭を持つ医師から、相談を受けることも多いそうですね。

そうですね。同世代の医師は2年ほど前から結婚出産ラッシュで、相談が入るようになりました。また、実妹も女子医大出身なので、そのつながりで学生から相談を受けることもあります。皆さん、とにかく手探り状態で「何をどうしたらいいの?」というざっくりした質問が多いですね。私のように出産後すぐ復職したいケースはまれで、1年くらい育休を取得してから仕事や学業を再開したい方が大半です。

いずれにしても、まずは「保育園の確保をどうするか」をアドバイスするようにしています。保育園に子どもを預けられなければ、仕事も勉強もできません。私は自分がこの問題に直面するまで、保育園と幼稚園の違いもわからなかったので、相談を受けた時は「幼稚園だと仕事するのは難しい」という基本的なこともお話ししています。

もう一つの重要なポイントは、「子どもが熱を出したらどうするか?」です。家族のサポートは受けられるのか。それがあまり期待できないなら、ファミリーサポートや病児保育、病児対応のベビーシッターもうまく活用するようにお伝えしています。また、いざとなれば病院の福利厚生で休むことだってできます。有給休暇を使い果たしていれば無給の休みになりますが、子どもが熱を出しやすい時期は延々と続くわけではありません。とにかく、さまざまなリソースを使って、周囲に頼ることを勧めています。

——林先生は、医局の子育て環境の改善にも尽力されているそうですね。

私が入局した当時は、幼い子どもがいる医師が少なく、全員一律で当直業務が必須でした。何とか周囲の助けを受けながら乗り越えましたが、本音を言えばかなりきつかったです。ある時、それを上の先生に伝えると、教授や当直係の先生が「どうしたらいいか、考えよう」と言ってくださって──。当直できないぶん、他にどんなことができるかなどを話し合ったり、提案したりしました。その結果、就学前の子どもがいる医師に当直業務は課さないという制度に変わりました。医師本人が希望すれば当直もOKですが、必須ではなくなったのです。

また、子どもがいると夜の勉強会に出席できないことも悩みの種の一つ。そこも医局にかけあって、子連れ参加が可能になりました。医局の一室をおむつ替えや授乳スペースにするなど、子育て中の医師に配慮した整備が進められました。

私の悩みや希望を柔軟に受け入れてくださった医局の先生方には、感謝の気持ちでいっぱいです。こうした先生方がいらっしゃるおかげで、みんなにとって働きやすい環境になっていったのだと思います。

壁に直面している最中も、「きっと誰か見ていてくれる」

——今後のキャリアの展望をお聞かせください。

クリニックの診療も好きですが、女子医大での勤務日数を今より増やすかもしれません。大学病院の精神科は身体合併症のある患者さんが多く、私は精神科リエゾンチーム(多科・多職種のチーム)で診療することがよくありました。大変な反面、やりがいも大きいので、もう少し経験したいと思っています。また、直近の1年は緩和ケアの精神科領域に携わっており、「精神腫瘍学の基本教育に関する指導者研修」を修了しました。今後は自分で講習会を開くことができるので、精神腫瘍学を広めることにも貢献していきたいですね。

並行して、産業医にも今以上に注力しようと考えており、労働衛生コンサルタントの資格取得を目指しています。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で受験準備講習会が中止になり、例年よりは不利な状況ですが、それでも受験するつもりです。

——最後に、「女性のキャリアの壁」にぶつかっている医師に向けて、アドバイスをお願いします。

私が医師になる時、昔からかかりつけ医としてお世話になっていた先生から、ある言葉をいただきました。「これから嫌なことがいっぱいあるかもしれない。でも、真面目にこつこつやっていれば、必ず誰か見ていてくれる」と。私は医師として、女性として、キャリアの壁にぶつかった時にこの言葉をかみしめ、できることを淡々と続けてきました。無我夢中で駆け抜けてきましたが、そうした自分を評価してくださる人は本当にいて、現在の仕事につながっています。今まさに壁に直面している医師にも、「自分が頑張っている姿を、きっと誰か見ていてくれる」とお伝えしたいですね。

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