最近では当たり前になりつつある、夫婦共働き。千葉大学病院脳神経内科准教授の三澤園子先生は出産のタイミングに悩み、34歳、40歳で2児を出産。今も仕事と家庭の両立方法を探り続けています。後編では出産・育児にまつわるエピソードと、共働き夫婦でキャリアアップするための秘訣を聞きました。(取材日:2020年11月2日)
出産時期はノープラン、産後は即復帰
——現在は千葉大学病院 脳神経内科で准教授を務める三澤先生ですが、結婚や出産のタイミングは医学生や研修医の頃から考えていたのでしょうか。
まったく何も考えていませんでした。私たちの時代は両立している女性医師のロールモデルがそれほどいませんでしたし、「家事・育児は女性の仕事だから、女性は家庭に入り男性についていく」という先入観が自分自身に残っていたのも事実です。女性医師がしっかりキャリアアップをするために、理解あるパートナー選びがとても大切だと思います。
結果的に、私の結婚のタイミングは29歳で、第1子が34歳、第2子が40歳でした。私自身が一人っ子でいとこもいなかったので、子どもは2人以上と決めていました。
——それぞれの出産のタイミング、産休をどれくらい取られたかを教えてください。
第1子の34歳は、教授の退官に伴って助教になれたタイミングでした。今はだいぶ変わってきていますが、当時は研究を続けるには何かしらのポストを得ないと居場所がなくなるような雰囲気があったので、このタイミングはありがたかったです。第1子は産休(※)のことを何も知らなかったので、産前6週間、産後8週間フルに休み、産後9週で復帰しました。事前に、産前や産後6週間以降の休暇は本人の希望次第だということを知っていたら、ギリギリまで働いていたと思います。
第2子出産の時期は新薬の開発プロジェクトを2つ担当していて、1つが一段落して、もう1つが始まるかなというタイミングでした。キャリア的には現場から離れる不安がありましたが、このまま年齢を重ねて、産めなかったら後悔しそうと思い、プライベートを優先させました。この時は物理的に仕事が多かったので、産前休暇はとらずに入院日まで仕事、産後は6週間後に診断書を書いてもらって産後7週には復帰しました。
※産前産後休暇:産前・産後休業(通称:産休)は、労働基準法における母性保護規定で定められており、産前休暇期間は6週間、産後休暇期間は8週間となります。産前休暇は本人の希望があり、産前休暇を申請しない場合は出産前日まで働くことが可能です。産後休暇は本人の希望があったとしても産後6週間は法律上就業禁止となり、産後6週以降、希望を出し、医師が支障ないと判断した場合は就業が可能です。
——第1子、第2子とも産休のみで復帰されたようですが、医師が育休をとることは難しいのでしょうか。
私たちの教室では、出産後に一定期間お休みすることは可能です。ただ、若手の場合、着任から出産までの期間や勤務先の状況により、いわゆる産・育休が取得できるか、無職となってしまうかが異なります。ここは1~2年ごとに勤務先が変わる若手医師の身分の不安定さであり、辛いところだと思います。少ない人員で各診療科を運営している各病院の限界などの問題もはらんでいます。
出産後にしばらくお休みすることは、自分の優先順位で決めて良いと思います。私は、研究者として論文数が評価される分、休めば休むだけハンデになると考えて、すぐに復帰しました。実際、育児はとても大変なので、優先したい時や大変な時は、あまり心配せずに1年程度休んでも後のキャリアに差し支えないのではと思います。「臨床から離れる」という点では、留学に行くのと変わらないと考えていただくと楽になるかもしれません。育休中に医師としての学びを得ることはなかなか難しいかもしれませんが、人としてたくさんのことを学べると思います。
——お子さんが産まれてから、価値観の変化はありましたか。
今まで仕事一辺倒だったのが、育児をするようになり、時間の使い方を考えるようになりました。あとは「母の状況や気持ち」が理解できるようになったので、特に女性の患者さんへの接し方が変わり、医師として成長できたと思います。
その反面、いつも時間に追われて毎日フウフウ言っています。最初の10年は育児に時間を取られても自分の睡眠時間を削ったり、土日に巻き返したりできましたが、ここ最近は体力・気力がいつもギリギリです。「何か新しいことをやろう」とする時はエネルギーがいるので、本当はもう少し余裕を持ちたいのですが……。
この状況をどうにかしたいと思い、最近はマインドフルネスの講座を受けました。人間ぼーっとしていると、常に過去か未来のことを考えてしまいがちですが、今現在に集中する大切さを教えてもらいました。特に育児では「今現在に集中」が大事ですね。
変えるべきは女性医師への負担の偏り
——ご家庭での家事分担はどのようにされていますか。
夫は洗濯、部屋の掃除、ベランダ掃除、ゴミ出しを担当していて、その他のことや子どものことの多くは私です。また、近隣に住む叔母から食事の手助けをしてもらっています。
できれば、家事・育児の分担はもう少し公平にしたいと思っています。夫は「家事・育児は女性の仕事」と刷り込まれている世代なので、最近は分担の話し合いすらできていません。本当はお互いもう少し助け合う関係性ができたらいいと思うのですが……。
——夫婦円満のためには、何か大切だと思いますか。
コミュニケーションをとることに尽きます。我が家は「最近はあまり助け合えていないかも」と思うことが多いです。
本来、お互いに協力して、支援し合えれば共働きは最強だと思います。金銭的なメリットももちろんありますが、仕事でもプライベートでも、お互いの考えをシェアすることで化学反応が起き、新たなソリューションが見つかりやすくなるからです。ただ、忙しさを理由にすれ違っていると衝突が生まれたり、いつの間にか外注費などにお金を使いすぎたりしがちなので、そういった意味でもコミュニケーションは大事だと思います。
——今後、共働き医師でもキャリアアップを実現するためには、どんな課題があり、どんな解決策があると思いますか。
価値観の変化でも話しましたが、女性側に体力・気力と時間のハンディキャップが偏ってしまいがちなところに課題があると思います。その偏りが1~2年で済めばいいのですが、育児では通常10年以上に及びますよね。そうなると日々更新される最新情報をキャッチアップするのに限界が生まれます。今後、出産後の女性医師が活躍するためには、この偏りを是正しなくてはならないと思います。
夫婦内での家事・育児の分担もそうですが、職場で男性が家事・育児にコミットしやすい雰囲気をつくるなど、2つの側面で変えていけたらいいのではと思っています。
- 准教授のママ医が、常勤にこだわる理由―共働き医師のキャリアvol.1(前編)
- 不公平?2児の女性医師が抱える家庭事情―共働き医師のキャリアvol.1(後編)【本記事】
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