千葉大学病院 脳神経内科で特任助教を務める荒木信之先生。2010年に子どもが産まれてからは、産婦人科医の妻よりも多くの家事・育児を引き受け、時には非常勤勤務に切り替えるなど、仕事と家庭を両立する働き方を探り続けてきました。医師の研鑽を積みながら、共働き・子育て生活を10年続けて、今思うこととは。(取材日:2021年2月27日)
医師3年目でパパに。同期よりも少し遅れて学位・専門医を取得
——2007年に医学部卒業後、2010年6月には娘さんが誕生されたと伺いました。この時のキャリアとプライベートの状況を教えてください。
医学部で知り合った産婦人科医の妻とは、卒業後から同居していましたが、正直、私たちは結婚や子どもにあまり関心がなく、当初は生涯2人で過ごすことも考えていたので、妻の妊娠はまったく意図しないタイミングでした。彼女の妊娠がわかったのは、私が初期研修修了後、千葉大学神経内科に入局し、医局の関連病院で働いていた医師3年目のことでした。
妻からは「産むのは私だけど、育てるのはあなた」と言われ、産むか産まないかは自分が子育てしながらやっていけるか次第だったので、当時の上司に相談し、「どうにもならなかったら自分が雇ってあげる」と言ってもらえたことで、子育てと両立していく決意をしました。
——奥様の産休・育休、職場復帰はどのようなかたちだったのでしょうか。
妻は里帰り出産で、産休・育休として3カ月間は仕事をお休みしていました。私はその間、常勤医として変わらず勤務を続けています。
妻は「働いていた方が精神的に安定するから」と、育休直後から、当直や待機ありの常勤医として働く意思がありました。私もその方が良いだろうと思い、私は、妻の育休明けから半年間は大学病院から民間総合病院に異動させていただき、非常勤で週4日、外来のみという働き方で家事・育児をメインで担うことにしました。
——半年後は、常勤に戻ったのでしょうか。
はい。異動当初から「半年後には常勤に」という話だったので、仕事と家庭の両立は手探りのまま週5日で外来、病棟、救急、当直ありの常勤になりました。妻とはお互いの当直が重ならないよう、また、子どもの急病対応を分担していましたが、私の勤務先は人手不足で、救急が来たり、病棟で急変があったりすれば外来は止めて対応するなど、時に1人3役をこなす必要があり、妻の帰宅後に病院に戻ることもしばしばありました。
それが体力的にしんどかったことと、娘が病気を繰り返す時期が重なり、点滴を受けながら仕事をした日もありました。最終的には2012年の冬に髄膜炎、インフルエンザと立て続けに体調を崩し、自信を無くして再び非常勤にしてもらいました。大袈裟かもしれませんが、大分弱っていたためかインフルエンザで死ぬかもしれないと思ったのはこの時が初めてです。
——その後、非常勤から常勤に戻ったのはいつのタイミングでしたか。
2013年4月、大学院に入学するタイミングです。脳神経内科医として学位を取り、症例経験を積んで専門医も取りたいと思っていたので、同期よりも2年ほど遅れての入学でした。
その時は週5日、当直・待機ありでしたが、子どもが3歳になって体調が安定してきたのと、マンパワーの比較的豊富な大学ではグループで入院診療にあたり、急なお休みもカバーしてもらえたため、大きなトラブルなく勤務できました。結果、2014年には認定医、2015年には専門医を取得できました。妻も2014年には専門医を取得しています。
——お子さんが3歳になったタイミングで、勤務も落ち着いてきたのですね。その後、現在に至るまではどのような働き方だったのでしょうか。
2016年10月からは大学院を半年残して、慢性期病院に異動しました。娘が小学校に入学する頃で、子育て経験者の上司から色々教えていただけて助かりました。勤務時間は8~18時で大学より負担は減りましたが、月2~3回の当直は忙しかったです。また、学会に毎年演題を出したり、総説の執筆も行ったり、卒業論文になかなか手が回らず、指導教官の先生方には大変ご迷惑をおかけしていました。
この頃は妻も変わらず常勤医として働いていたので、家事配分が大変でした。私が担当していたのは掃除と洗濯を毎日と、週4日、子どものお迎えを兼ねた食事当番です。一時期、子どものお弁当が半年間必要になった時は、当直の日以外すべて自分がお弁当を作りました。
2019年10月に再度大学に異動してからも家事配分は同様でしたが、2020年3月に妻が病院勤務を辞めて、今は常勤で、週4日のクリニック勤務になりました。そこで「平日の食事当番はやる」と言ってくれ、大分楽になりましたね。これまで妻は医局に所属していましたが、研究よりも臨床がしたくて医局にいるメリットがなくなったことと、月10回程度の当直に疲れてしまったことが、転職のきっかけだったようです。
物理的に働けないうちは非常勤のメリットも
——荒木先生はお子さんが小さい時に常勤、非常勤ともに経験されましたが、それぞれのメリット・デメリットは何でしたか。
常勤は雇用が安定していますが、その分、多くの仕事量が求められます。書面上での雇用条件と実態に差があるところがほとんどで、子育てがあることで求められるだけの仕事量をこなせず、「居づらい」と感じることも多いと思います。
逆に、非常勤は給料の保障が薄弱な印象ですが、健康に働き続けている限りは大きなデメリットは感じず、ある意味気楽だと思いました。無理に常勤にこだわるより、非常勤は「やりやすい」と思いました。
——今後の展望を教えてください。
特任助教という研究に挑戦できるポストをいただいているので、足掻いているところです。これから研究者として若手のうちに研究を生み出せなければ、将来的に主夫になるのも悪くはないと思いますが、私が所属する自律神経系のグループはそれほど人数がいないので、今後も積極的に研究や症例発表を行っていきたいと思います。
- 非常勤も経験 パパ脳神経内科医の処世術―共働き医師のキャリアvol.2(前編)【本記事】
- 7割の家事を担う、常勤パパ医師の胸中―共働き医師のキャリアvol.2(後編)
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