1. m3.comトップ
  2. キャリアデザインラボ
  3. キャリア事例
  4. 事例
  5. あの患者に「食生活改善を」が響かないわけ―医師と2足のわらじvol.14(後編)
事例

あの患者に「食生活改善を」が響かないわけ―医師と2足のわらじvol.14(後編)

2019年4月24日

麻酔科医として働き育児をこなす一方で、料理家としてレシピ開発にも取り組んでいる河埜玲子先生。手軽で体にいいレシピを追求する河埜先生が思う、料理への苦手意識を払しょくするコツとは?また、河埜先生は現在、子どもへの食育にも注力しているそう。きっかけは、臨床の現場で患者さんの言葉にびっくりした経験だったといいます。医師と料理家、2つの職業をつないだ思いについて聞きました。多忙な医師のための時短レシピもご紹介します。(取材日:2019年3月8日)前編はこちら

“ラク=手抜き”とは考えなくていい

――先生自身はもともと料理好きだったとのことですが、料理に苦手意識のある人も少なくないと思います。特に多忙な医師は時間的な側面からも、よりハードルが高いのでは。どうすれば気軽に取り組めるのでしょうか。

やる前から、“料理=すごく面倒なもの”だと思いすぎてしまっているのかもしれません。最初のハードルが結構高いと思うので、私のレシピではなるべくとっつきやすいよう、「包丁不要」「フライパン1つだけ」など、作ってみようかな、と思ってもらえそうなタイトルをつけることを意識しています。

それに、凝ったものでなくても美味しくて栄養バランスのいい食事はつくれます。一汁三菜でないといけない、といった刷り込みがあるかもしれませんが、極端な話、お味噌汁に野菜と肉を入れるだけでもバランスは取れるわけです。そういう、「こうしなきゃダメ」という思い込みみたいなものも、料理に対する抵抗感になっているのかもしれないですね。

カット野菜や冷凍野菜を使うことに「手抜きをしている」「新鮮なものを使わなくては」などと感じてしまう人もいると思いますが、特に医師のような忙しい職業なら、そういう便利なものを活用して栄養を摂取するのはすごくいいと思うんです。たとえばレトルトのカレーに冷凍ブロッコリーなどを入れるだけでも野菜がとれますよね。簡単に麻婆豆腐などが作れる合わせ調味料や、パスタソースに抵抗感のある人もいるようですが、パスタソースと肉や野菜を鍋に入れて煮込むだけでも、結構美味しくできたりします。

時間がなかったり、既製品を利用することで野菜を美味しくとれるなら、使えばいい。ラクすることを引け目に感じると、余計に料理から遠ざかってしまうと思うんですよね。あまり気負わず、自分ができる範囲で工夫してみるといいんじゃないでしょうか。

食育は大人の方が難しい?

――今後、注力していきたいことはありますか?
料理の仕事を始めてから、予防医学もやりたいという思いが高まって、いまは病院でも週1日、健診センターで仕事をさせていただいています。これからしばらくは麻酔科と並行して予防医学に携わっていくつもりです。

健診センターでは、食生活の指導なども行いますが、大人になってからだとそもそも本人に直す気がないことも多く、考え方を変えてもらうのはなかなか難しいです。ですから、子どものうちからちゃんと食事の大切さを知ってもらいたいという気持ちで子どもの食育に関する活動もしています。

――食育が予防医学につながるということですね。
子どものうちに食の大切さを学び、料理ができるようになっておくと、自炊に対するハードルが低い。だから、親元を離れ忙しくなっても食生活が大きく乱れることはありません。これは私自身の経験としても感じていることです。

子ども向けの料理教室をすると女の子の参加者が多いのですが、本当は男の子にこそ来てほしい。病院でも高齢男性で一人暮らしの患者さんは、食生活がすごく乱れていることが多いんです。自分で作れないからジャンクフードのようなものばかり食べていたり、食事に関心がなかったり、お酒ばかり飲んでいたり。そういう実態を目の当たりにすると、男女問わず健やかな将来のために食育は必要だなと感じます。

――臨床で、食育の大切さを感じることは他にもありますか。

健診の仕事をしていると、食べたもので自分の体が作られていることを知らない人が意外と
多くて驚かされます。たとえば、コレステロールが高いという結果に対して「え、食事のせいなの? 何で?」という反応を示す人は珍しくありません。医師からすれば食と健康の相関関係は明白ですが、食事の大切さを知らない方も一定数いるということ。食生活の指導に対して「あ、そうか」とすんなり理解できる人の多くは、食事が大切という教育に人生のどこかで触れています。

本当に伝えたい人になかなか伝わらないもどかしさ

大人を対象にした食育の講座には、元々意識が高く、さらに知識を深めたいというような理由で足を運んでくれる人が多いです。でも本当に食育が必要な人は、そういう講座があることも知らないし、そもそも興味がない。

それに食事って個人の家庭や家計に関わることでもあるので、そこに介入するのは難しいです。外食で栄養バランスを取ろうとするとお金がかかるので、経済的に困窮している人が栄養バランスのとれた食事をするためには家で作るのが一番いいんですが、そういう人ほど自炊をしません。

――食生活が乱れていて、生活習慣病のリスクが高い人ほど届きづらいんですね。

そういう意味でも、子どもたちなら身構えずに話を受け入れられます。昨年、宮城県の小学校で行った授業では小学5年生を対象に、食生活が乱れると生活習慣病につながるし、子どものうちからカルシウムを取らないと骨粗鬆症になるよ、というような話をしてきました。少し難しいかなと思ったのですがみんなきちんと聞いてくれて、授業後には「両親に教えてあげようと思った」「ジュースはあんまり飲まないようにしようと思った」などと素直な感想を寄せてくれました。

それに、食育の話をすると、給食を食べるモチベーションにもつながります。闇雲に「給食は残すな、食べろ」と言われても子どもは食べませんが、なぜ食べた方がいいか納得できれば自分から食べてくれるようになるんです。

子どものうちにこうした教育に触れていれば、のちに食生活が乱れることがあったとしても軌道修正しやすいはず。だから、多くの人を健康にしたいと考えたら、子どもたちへの食育は一見遠回りのようで、実は一番の近道なんじゃないかなと思っています。今後も子ども達に分け隔てなく教えることを続けたいですね。医師と料理家、形は違えど根っこにある思いは同じ。それぞれの分野で自分ができることにチャレンジしていきたいです。

特別企画 医師に贈るレシピ(独身でとにかく時間がないけれど健康的な食事がしたい医師向け) 時短! さば缶と豆のトマト煮

缶詰など長期保存・常備できる食材のみ使用。さっと煮るだけ・短時間で、誰でも美味しくできるレシピです。一人暮らしで不足しがちな、魚・豆類がとれます。料理をあまりしない人や買い物に行く時間がない人にもおすすめ。作り置きも可能です。

材料(2人分)
さば缶(味噌煮) 1缶(190g)
トマト缶(カット) 1缶(400g)
ミックスビーンズ(水煮) 100g
固形コンソメ 1個
  • フライパンに、さば缶(味噌煮)を汁ごと全て入れ、トマト缶(カット)、水気を切ったミックスビーンズ、固形コンソメを入れる
  • .時々混ぜながら強めの中火で7~8分煮る

◆レシピのポイント◆

  1. 味噌煮缶の甘味でトマト缶の酸味が消え、さっと煮るだけでも美味しくできます
  2. さば味噌煮缶は煮汁ごと全て使ってください

 

河埜 玲子
こうの・れいこ

麻酔科医・料理家・キッズ食育マスタートレーナー。8歳の娘をもつ医師。
滋賀医科大学医学部卒業後、大阪大学医学部附属病院麻酔科などを経て、現在は済生会松坂総合病院にて麻酔科・健診科に勤務。医師として臨床に携わるなかで、身体と心の健康のためには、毎日の食事がいかに大切かを痛感。今、まさに子育て中である自身の経験から、働くママを応援するため料理家として活動をスタート。身近な食材を使った簡単、時短レシピを提案。ブログや著書『忙しい人のための“一品で”栄養バランスが取れるレシピ―女性医師が教える体と心が喜ぶ食事』(SBクリエイティブ)などでレシピを紹介。また、予防医学の観点から、子どもの食育を推進する活動も行っている。
ブログ http://balance-kitchen-reiko.blog.jp/

従来の価値観に とらわれない働き方をしたい先生へ

先生の「やりたい」を叶えるためには、従来の働き方のままでは難しいとお悩みではありませんか。

  • 医師業と、自分のやりたいことを兼業したい
  • 病院・クリニック以外で医師免許を生かして働きたい

もし上記のようなお考えをお持ちでしたら、エムスリーキャリアのコンサルタントにご相談ください。

エムスリーキャリアは全国10,000以上の医療機関と提携して、多数の求人をお預かりしているほか、コンサルタントの条件交渉によって求人を作り出すことが可能です。

この記事の関連キーワード

  1. キャリア事例
  2. 事例

この記事の関連記事

  • 事例

    オリンピック出場を目指す研修医の思い―医師と2足のわらじvol.19(後編)

    初期研修医と世界クラスの山岳ランナーという二つの顔を持つ髙村貴子先生。今シーズンからは山岳スキーも始め、年間を通じて山を駆ける髙村先生は、将来にどんなビジョンを描いているのでしょうか。医師として、山岳ランナーとして目指している場所を伺いました。

  • 事例

    研修病院決定の決め手は「そこに山があったから」―医師と2足のわらじvol.19(中編)

    長野県で初期研修医として働いている髙村貴子先生は、国内では敵なしの実力をもつ山岳ランナーでもあります。初出場したレースでいきなり3位に入賞したのが医学部2年生のとき。ときには海外にも転戦する山岳ランナーと医学生をどのように両立してきたのでしょうか。卒試・国試を控えた6年生のときの過酷なエピソードや研修医生活との両立についても伺いました。

  • 事例

    国試の前は地獄…山岳ランナーと医学生の両立―医師と2足のわらじvol.19(前編)

    長野県で初期研修医として働いている髙村貴子先生は、国内では敵なしの実力をもつ山岳ランナーでもあります。初出場したレースでいきなり3位に入賞したのが医学部2年生のとき。ときには海外にも転戦する山岳ランナーと医学生をどのように両立してきたのでしょうか。卒試・国試を控えた6年生のときの過酷なエピソードや研修医生活との両立についても伺いました。

  • 事例

    エンジニア、研究者を経て“ゴール志向じゃない自分“を肯定―医師と2足のわらじvol.18(後編)

    医学部を卒業後、ゲノム研究者とエンジニアを両立する日々を送っていた鈴木晋氏。「臨床がわからないと研究も深まらない」と考え、スキップしていた初期臨床研修を受けようと決意しました。その後、大学院でのプログラミングを用いた医学研究を経て、「治療アプリ」を研究・開発する株式会社CureAppの創業メンバーに。現在は、臨床を続けながら、同社の最高開発責任者(CDO)として開発全般を指揮しています。実は少し前まで、“ゴール志向”でない自身のキャリア観を肯定できずにいたとか。CDOとして働く現在は、どのように捉えているのでしょうか。

  • 事例

    保険適用アプリ開発までに模索した、医師兼エンジニアの道―医師と2足のわらじvol.18(前編)

    病気を治療するアプリ”の保険適用に向け、日本で治験が進められていることをご存知ですか?「治療アプリ」の研究開発を行う株式会社CureAppで、最高開発責任者(CDO)としてアプリ開発を牽引するのは、現在も臨床を続ける医師であり、エンジニアでもある鈴木晋氏です。独学でプログラミングを始めたのは、医学部在学中。その後、エンジニアとしての腕を磨きつつ、ゲノム研究者としての道を歩み始めました。鈴木氏はそのユニークなキャリアをどのように模索し、治療アプリの開発にたどり着いたのでしょうか?

  • 事例

    「外科医に未練なし」バーテン医師の決意―医師と2足のわらじvol.17(後編)

    外科医兼バーテンダーの江原悠先生。医師としてのキャリア観に加えて、お店に来るお客さん、診療する患者さんに向き合う際に気を配っていることについても伺いました。

  • 事例

    30代で常勤医から離脱 バーテンダーの道へ―医師と2足のわらじvol.17(前編)

    東京都杉並区に2019年5月、「BAR Hoya」というお店がオープンしました。オーナー兼バーテンダーは、外科医でもある江原悠先生。30代で常勤医のキャリアから離れ、自分のバーを始めた経緯や、現在のワークスタイルについて伺いました。

  • 事例

    「アニサキス」も曲に メタル女医の徹底ぶり ―医師と2足のわらじvol.16(後編)

    形成外科医と医療系メタルバンドのボーカルという二足の草鞋を履くババロア先生によると、医学部とメタルには、意外な親和性があるそうです。医師とバンドマン、双方のプロとして多忙な毎日を送る先生に、今後の展望を伺いました。

  • 事例

    メタルバンド女医「人一倍頑張ってきた」―医師と2足のわらじvol.16(前編)

    形成外科医であるババロア先生のもう一つの顔は、医療系メタルバンド「Anatomy」のボーカリスト。3月にリリースしたミニアルバムが、発売週にディスクユニオンヘヴィメタルチャートで1位を獲得するなど、バンドの注目度も上がっています。医師兼バンドマンというユニークなキャリアを歩み始めたババロア先生に、医師を志したきっかけやバンド活動への思いを伺いました。

  • 事例

    視点の“ズレ”はむしろアドバンテージ―医師と二足のわらじvol.15(後編)

    産業医・スポーツドクターとして活動する傍ら、テニスプレーヤーとしてもトップを目指し研鑽を重ねている岩井勇策先生。先生が自分自身に実践している“整形外科的集学的治療”とは、一体どのようなものなのでしょうか。医療とテニス、どちらにも全力で向き合う原動力を教えてくれました。

  • 人気記事ランキング