企業における産業保健活動の主軸となる「衛生委員会」。 衛生委員会は活動を推進するための意思決定を行う場でもあるため、産業医と企業の双方にとって重要です。 本記事では、「衛生委員会とは?」という基礎的な知識から、委員会にて求められる産業医の役割についても紹介していますので、ぜひチェックしておきましょう。
衛生委員会の基礎知識
まずは衛生委員会についてです。
衛生委員会とは、労働者と使用者そして産業医などのメンバーで構成される委員会のことで、1か月1回程度開催されることが一般的です。
衛生委員会の設置と適切な運営は法律で定められており、企業にとって義務となっているため、産業医であれば必ずと言っていいほど関わることがあります。
この衛生委員会では、職場における衛生状態の報告・情報共有が行われたり、産業医による衛生講話が実施されたり、今後の産業保健活動の方針策定などが行われます。
なお、衛生委員会は事業主と従業員が条件交渉等を行う場ではありません。あくまで従業員が安全かつ健康的に働くための討議の場として位置づけられます。
そこで産業医は医学の専門家という立場から助言を行い、企業の活動に寄与できるよう努めましょう。
衛生委員会を構成するメンバーと役割
続いて衛生委員会を構成するメンバーについてです。構成員の選出についてもルールがあるため注意が必要であり、一般的に以下のような人物で構成されます。
- 議長(総括安全衛生管理者等)
- 衛生管理者(人事担当者等)
- 産業医
- 各部署から選出された複数のメンバー など
1.議長
衛生委員会の議長を務めるのは、統括安全衛生責任者や事業の実施を統括管理する人等が挙げられます。議長が司会進行を行うことが多いです。
2.衛生管理者
衛生管理者は、企業等において衛生全般の管理を担う有資格者のこと。従業員50人以上の事業場では衛生管理者を選任する義務があり、この衛生管理者が産業医と企業との間で窓口の役割を果たしているケースも多いです。
3.産業医
医師免許および産業医の認定資格を持ち、専門家の立場から職場の安全・健康に関するアドバイスを行います。また、衛生講話等を行うこともあります。4.各部署から選出された複数のメンバー
その他のメンバーについては、事業者から指名されるなどして選出された人物が衛生委員会の構成員として参加し、委員として積極的に発言等を行うこと、委員会を活性化することも重要になります。なお、産業医等を除く衛生委員会のメンバーは1~2年悌夫で入れ替わることが多いと言われています。
衛生委員会の審議内容
衛生委員会では、従業員の衛生に関する課題の評価・対策について審議が行われます。具体的な審議内容は以下のとおりです。
- 1. 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
- 2. 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
- 3. 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
- 4. 衛生に関する規程の作成に関すること。
- 5. 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること。
- 6. 安全衛生に関する計画(衛生に係る部分)の作成、実施、評価及び改善に関すること。
- 7. 衛生教育の実施計画の作成に関すること。
- 8. 化学物質の有害性の調査並びにその結果に対する対策の樹立に関すること。
- 9. 作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立に関すること。
- 10. 定期健康診断等の結果並びにその結果に対する対策の樹立に関すること。
- 11. 労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成に関すること。
- 12. 長時間労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること。
- 13. 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること。
- 14. 厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官又は労働衛生専門官から文書により命令、指示、勧告又は指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること。
【参考】厚生労働省「安全委員会、衛生委員会について教えてください」
衛生委員会における産業医の役割
衛生委員会における産業医の役割は、職場環境や労働災害、メンタルヘルス対策などのさまざまな課題や相談に対して、医学の専門家として指導・助言を行うというものです。
それだけでなく、衛生講話を通じて、委員に医学知識の啓発や教育を行い、事業者全体の健康意識を高めることも大切な役割です。
産業医の衛生委員会の参加については法で定められているわけではありませんが、産業医が参加することで議論の活性化や方針の策定などがスムーズに進むことが考えられます。
ちなみに、衛生委員会に産業医が出席できなかった場合には、衛生委員会の議事録を追って確認しておくことが大切になります。
衛生講話のテーマについて
衛生委員会では、産業医による衛生講話を行うケースが一般的です。
衛生講話のテーマは企業側が選ぶこともあれば、企業と産業医が一緒になって検討することもあるでしょう。
テーマは社内の事情や季節に合わせて選ばれることが多いのですが、医師によっては専門科ではないテーマになることもありますので、事前に情報収集しておくことが大切になります。
以下はよく取り上げられる衛生講話のテーマの一例です。
- 1月:腰痛予防
- 2月:活習慣病予防
- 3月:労災対策
- 4月:禁煙について
- 5月:メンタルヘルスケア
- 6月:食中毒予防
- 7月:熱中症対策
- 8月:過重労働対策
- 9月:ハラスメント対策
- 10月:ストレスチェックの活用
- 11月:感染症予防
- 12月:がん予防・検診について
衛生講話のテーマはどのように選ばれるのか
衛生講話で取り上げるテーマは上に述べたように季節に合ったものを選ぶこともあれば、社会で話題になっているテーマが取り上げられることもあります。
例として、パワーハラスメントはニュースで取り上げられることも多いと思いますが、職場環境改善という観点から選出することが効果的です。
各種のハラスメントが及ぼす身体的・精神的な影響について産業医から講話を行い、職場におけるハラスメント対策につなげることも大切になります。
また、メンタルヘルス不調対策は多くの企業で興味関心が高いテーマですので、さまざまな切り口で講話が行われるケースも多いです。
社内の実情にあわせて衛生講話のテーマが決まる
衛生講話では、その企業が抱えている課題をテーマにすることで職場改善につなげることが大切になります。
例えば、喫煙率が高い職場では禁煙に関する衛生講話を行うこと。
健康診断の受診率が低い場合では健診の重要性等について講話を行うことが効果的です。
そして、ストレスチェックの結果や健康診断の結果が思わしくない場合、安全衛生委員会の議題として討議することもあります。
また、社内の課題については現場で働く従業員の方が課題を実感しているケースも多いでしょう。
ですので衛生講話のテーマを社内公募することもあるようです。
衛生委員会を有効的な場にするために
衛生委員会の役割と運営について紹介しました。
産業医として、衛生委員会を有効的な場にしていくためには、構成メンバーと連携し社内の健康課題に向き合うことが大切になります。
産業医には専門家としての役割を求められていますので、職場のヘルスリテラシーが向上するよう、労働衛生に関する情報収集を行うことも行っていきましょう。
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