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7割の家事を担う、常勤パパ医師の胸中―共働き医師のキャリアvol.2(後編)

2021年3月29日

千葉大学病院 脳神経内科で特任助教を務める荒木信之先生は、産婦人科医の妻とともに、2010年からキャリアと家事・育児の両立を試みてきました。お子さんが10歳になった今も、荒木先生は大学病院で働きつつ、家事の7割を担当しています。子持ち医師のプライベートを、夫目線でお話いただきました。(取材日:2021年2月27日)

夫が7割。価値観の違いを踏まえた家事分担

ウェブ取材に応じる荒木信之先生

——荒木先生と産婦人科医の奥様は、現在2人とも常勤医として働いていらっしゃいますが、家事・育児の分担はどのような考え方なのですか。

2人とも「家事は半々でやるべき」という共通認識を持っています。ただ、どこまでが生活に必須の家事なのか、どこまで基準を緩められるか、その価値観が違います。

例えば、食事は、できる限り自炊が良い(あるいは自炊してほしい)と思う人もいれば、毎日外食や買ってきたお惣菜で良い人もいるでしょう。掃除も毎日やらないと気が済まない人もいれば、週1日で良い人もいます。我が家の場合、それぞれの前者が妻、後者が私です。いつも家事の分担から喧嘩が始まるので、こういった価値観の差はなかなか理解し合えないと感じています。

——確かに家事の許容範囲は人によって異なりますね。現在はどのような家事分担なのでしょうか。

先ほど述べた通り、必須の家事基準が違い、話し合っても解決しないことが続いたので、「自分が必須とは思えない家事」はすべて妻に任せ、代わりに「毎日決まっている家事」をやっています。

これが毎日洗濯と掃除、週4日の子どものお迎え兼食事当番(2020年4月以降、平日の食事担当は妻のため、週2日)、子どものお弁当もすべて作るという相当不均等と思える分担に至った背景です。「明らかに自分の方が家事を多くやるから、文句は言わないでくれ」という意思表示でもあります。

——荒木先生が「自分が必須とは思えない家事」とは、具体的にどのような家事ですか。

妻はストレスが溜まると、模様替えや引っ越しをしたくなる性格で、これが彼女には必須の家事となっています。子どもが産まれてから、異動や通勤に関係ない、200~500m圏内の引っ越しを2回しています。引っ越しの準備を妻がすべて行えば文句はないのですが、食器の梱包や家具の移動など、一番大変なところを任されたこともあり、仕事が忙しい中、相当寿命が削られている気がしました。

妻の実行力には助けられることも多い反面、インターネットのプロバイダーを変えては不具合があって戻すなど、必須とは思えないことにも手を出して負担が増えている時もあります。とはいえ、話し合っても、模様替えや引っ越し、契約関係の見直しは妻の中では必須家事として不動なので、私が日常の家事を多く行って何とかバランスを保っています。

——家事は基本的に自分たちで回しているのでしょうか。

妻がクリニック勤務になって少し余裕が出てきたのも大きいですが、今は自分たちだけです。

とはいえ、研修医の頃からお互い時間が取れないことは見込んでいたので、週2~3日、シルバー人材センターを利用し、料理、掃除、洗濯を頼んでいました。ただ、担当いただいていた方が、子どもが9歳の頃に体調を理由に辞めてしまい、別の方に何回かお願いしたものの妻との相性が合わず、そのままです。今はコロナ禍で、夫婦共に医療従事者なので外部のサービスは少し使いづらいですね。その他、子どもが小さい時は、延長保育、病児保育、ベビーシッターにもお世話になりました。

——仕事に家事・育児にお忙しい日々と思いますが、夫婦共働きのメリット・デメリットは何だと感じますか。

メリットはダブルインカムです。我が家はお互い口座を別にして、生活費は共同口座に入金して諸々やりくりをしています。これまでお伝えしてきた通り、引っ越しがあるので住居費には毎回お金がかかっています。デメリットは余裕がなく、時間がないことでしょうか。正直、その間くらいが一番幸せかなとは思います。

荒木先生一家の平日1日のスケジュール

臨機応変の限界。具体的、段階的な支援策を

0歳の頃の娘さんと荒木先生(提供:荒木信之先生)

——さまざまな病院勤務を経て、子育てしやすいなど、仕事と家庭の両立がしやすい職場を見つけるにはどうしたら良いと思いますか。

私も一応、初期研修後の入局前には「育休は取れますか」と聞きました。その時、「取れるし、両立しやすいよ」と言われたのでそれを鵜呑みにしていましたが、「働ける」と「働きやすい」には大きな隔たりを感じたので、もう少ししっかり聞いておけば良かったと思いました。

話を聞く時は、仕事と家庭の両立についてうまい話に安心するのではなく、具体的に「子育て医師に職場が期待すること」が出てくるかどうかが要だと思います。実際に子育て医師として働き始めてから、人事担当の医師はさまざまな希望を実現させてくれた一方で、子育て医師が抜けた分の仕事をそのまま同僚医師に横流しする構図をよく見かけました。

結果、子育て医師は現場では白い目で見られたり、お荷物扱いされたりして、「子育てしながら働ける」ことに間違いはないけれど「子育てしながら働きやすい」とは思えませんでした。この差は結構重要だと思っています。「子育てしながら働きやすい」職場が実現できないと、いつまでたっても第一線で働く子育て医師の数は増えないと思います。

——荒木先生の所属医局は、どのような対応をされていますか。

当医局は子育て医師が来たら、その時の人員状況に応じて考える体制です。しかし、それだと入職のタイミングで待遇に差が出てしまうので、裏で「私はこうだったのに」という不満が出やすい。そうならないように、家庭との両立を希望する医師の勤務体制やキャリア形成は、ある程度医局の方針として考えておいた方が良いとも思います。もちろん背景は人それぞれなので、一律のルール化は難しいと思いますが。

一方で医局も苦しい立場です。毎年の入・退局者数は予測困難で、与えられる職場環境にはどうしても波が出てしまいます。そんな難しい状況でも、子育て医師の働きやすさを模索しているか、否かでは大きな違いがあるでしょう。個人的に「子育てしながら働きやすい」職場とは、子育て医師でも大切な役割を担える職場だと思います。つまり、「月1回でいいから当直は続けないか」といった提案や、病児保育やベビーシッターの紹介もできるといった両立のサポートがあるかどうかは、「子育て医師が働きやすい」職場を目指しているかどうかの、ひとつの判断材料になると思います。

——最後に、医師が仕事と家庭を両立していくために、組織や業界全体で取り組むべきと思うことはありますか。

そもそも仕事と家庭と両立が難しいのは、残業が当たり前の仕事量、拘束時間といった医師の働き方に問題があると思います。そんな中、私たちより下の世代は我々以上に自らの権利意識が強いと思います。今後その肩代わりをしていくのは主に管理職の方たち。私自身も忙しい職場では、上司が毎日オンコールをこなしながら、時には私ができない分の仕事を引き受けてくださり、とても助けられた反面、特定の人に負担が集中する危うさを感じました。権利を主張した子育て医師の権利が守られ、一方は管理職のブラックな働き方が続いてしまうと、今後、管理職になりたい医師はいなくなり、医療の量・質が担保されなくなる懸念もあります。その影響は直接患者さんや家族に降りかかります。

もともと日本の医療はブラックな働き方に支えられてきたので、「医師の働き方改革」を真面目に実行すれば、当然、提供できる医療の量・質ともにがた落ちします。一方で、より丁寧な説明や患者の意志に寄り添った医療が求められています。働く時間を制限しつつ、質を落とさないとなれば、一日の対応患者数を減らさざるを得ません。しかし、それでは病院経営が成り立たない。すべての両立は不可能です。

働き方改革も寄り添う医療の実現も振り出しに戻すべきではないと思います。ただ医療費は削られるのに、落ちる医療の質と量への対策は現場任せというのは厳しいです。AIなどのテクノロジーの導入などはブレイクスルーになりうるとも思いますが、導入にはやはり資金が必要です。多くの国民は今後も質の高い医療やサービスが安価に受け続けられるという幻想を抱いており、現実とのギャップから生じるクレームに現場は疲弊しています。

医師が仕事と家庭を両立していくためには働き方改革が欠かせないと思いますが、トップダウンで「医師の働き方改革」を推進するなら、同時に現場の問題点を吸い上げて、それぞれに対策を打っていく必要があると思います。

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