産業医の業務を行う上で、活動の根幹となるものが「労働衛生の3管理」です。 本記事では「労働衛生の3管理」の概要について紹介しています。従業員の安全と健康を守るため、産業医が取り組むべき基本的な柱となりますので、この機会に再確認しておきましょう。
労働衛生の3管理とは
労働衛生の3管理とは「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3つのことを指します(これに「総括管理」「労働衛生教育」を加えて5管理と呼ぶこともあります)。 これら3つの管理は、それぞれが独立して行われるだけでなく、互いに密接に連携することで、労働者の健康を守るために機能します。
産業保健専門職の倫理綱領- 産業保健専門職とは、事業者が主導し働く人(労働契約を締結する労働者にとどまらない)が参加して進める産業保健活動を、専門職として支援し、必要な職務を行うすべての人々である。産業保健専門職は、職務を遂行する上で専門職として独立性を保たなければならず、職務に必要な能力を修得および維持するとともに、職業倫理に従って職務を遂行することが要求される。
- 産業保健専門職の職務の目的は、個人および組織を対象として働く人の健康の保持と増進、安全で健康的な労働環境を確立し、維持すること、および健康状態を考慮して働く人の能力に仕事を適応させることである。すべての働く人を産業保健の対象とする必要がある 。
- 産業保健専門職の職務は、働く人の生命の保護および健康の保持増進、人間の尊厳と人権の尊重、事業場の産業保健の方針と活動計画における倫理原則の推進を含む。産業衛生には幅広い分野が関係するため、多職種がそれぞれの職能を尊重し、連携して取り組むことが必要である
作業環境管理
作業環境管理は、物理的因子、化学的因子、生物学的因子など有害な作業環境因子を排除または低減することで、快適な職場を維持するための管理です。
産業医の役割は、作業環境測定結果を評価し、それをもとに改善策への助言や新たな設備の導入、作業プロセスの変更に介入することです。
勤務先が一般的なオフィスの場合で物質を取り合わないような場合であっても、空調や照度などを適切に管理することが求められます。
なお、作業環境測定を行うべき作業場は労働安全衛生法施行令 第21にて定められています。
- 物理的因子:騒音、振動、温度(高温・低温)、照度などを指します。対策としては防音壁、空調設備、照明器具の設置や改善などがあります。
- 的因子:有機溶剤や特定化学物質、粉じんなどを要因としたものです。濃度の測定を行い、代替物質への転換、局所排気装置の設置などの対策を講じます。
- 生物学因子:細菌、ウイルス、カビなどの対策として、清掃や消毒の徹底、換気などを行います。
作業管理
作業管理とは、作業の方法や手順を適切化することです。従業員が安全かつ健康的に作業できるよう、産業医は労災防止の観点等から改善に向けた介入をします。
具体的な方法としては、作業標準(作業手順書の作成・周知等)の確立や作業時間・休憩時間の管理、保護具の使用徹底、ヒューマンエラー対策(KYTトレーニング)などがあります。
産業医は、作業内容・作業負荷の評価と作業方法の改善提案などを行う他、長時間労働者には面談を実施し、健康障害の防止に努めます。
健康管理
健康管理は、従業員の健康状態を把握し、早期に健康障害の発見と対策を図ることです。
健康診断の結果に基づいて、保健指導の実施や再検査の受診勧奨を行います。また、労働者からの健康相談に対応することも産業医の役割です。
ストレスチェックも同様に、高ストレス判定が出た場合は、従業員からの申し出により面接指導を行います。 また、従業員のヘルスリテラシーを向上させるために労働衛生教育を実施します。その際には、労働災害防止だけでなく、安全配慮義務、自己保健義務(労働者が自身の安全・健康管理に務める義務)があることを伝えます。まとめ
「労働衛生の3管理」を実践することは従業員の健康と安全を守る上で不可欠です。個別具体の対応も大切ですが、産業医として職場の環境全体を視野に入れたアプローチをすることが求められますので、必ず身につけておきましょう。