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コラム

高給なのに資産形成は困難?医師のふところ事情―知らなきゃ損?!Dr大見の資産形成塾(1)

2017年7月2日

大見貴秀(おおみ・たかひで)
医師は世間一般的に高給な職業だと考えられています。平均年収で言えば、パイロットに次ぐ全職業中の第2位と言われていますし(「平成28年賃金構造基本統計調査」)、パイロットに定年退職があるのに対し、医師は基本的に定年後もアルバイトや介護老人保健施設などで働けることを考慮すると、生涯所得では全職種トップである可能性もあります。
しかし、順調に資産形成できている医師は少ないのではないでしょうか。今回は制度的な側面から、医師の資産形成の事情について解説していきたいと思います。

所得税で大きく減る医師の給与

現在の日本では「累進課税制度」を採用しています。累進課税制度はその名の通り、所得が増えれば増えるほど納税金額も上昇するシステムです。累進課税制度が採用されている理由は、「富の再分配」のため。高所得者だけに富を独占させるのではなく、一旦税金として国で預かり、インフラの整備や社会保障に回すことで、国民全体に広く分配することを目的としています。そのため高所得者ほど所得税は高くなっていき、反対に収入が低ければ所得税は低くなっていきます。

詳細はまた別の機会に解説していきますが、2015年度以降の累進課税制度の税率は以下のようになっています。

<所得税の速算表>

課税される所得金額 税率 控除額
 195万円以下 5% 0円
 195万円を超え、330万円以下 10%  9万7500円
 330万円を超え、695万円以下 20%  42万7500円
 695万円を超え、900万円以下 23%  63万6000円
 900万円を超え、1800万円以下 33%  153万6000円
 1800万円を超え、4000万円以下 40%  279万6000円
 4000万円超 45%  479万6000円

課税される所得金額が「900万円を超え、1800万円以下」という水準では、所得税33%と一律10%の住民税を合わせて43%、「1800万円を超え、4000万円以下」の医師は40%と住民税で50%、4000万円超の所得水準にある医師は45%と住民税で55%の税率となります。つまり、ほとんどの医師は、課税所得に対して30-50%もの税金を支払っていることになるのです(消費税も含めればもっと上がるのではないでしょうか)。

このように圧倒的な税率を見ると、所得のほとんどを税金に持っていかれているように感じるかもしれません。ただ注意しておきたいのは、実際に税率を計算する際に対象となるのが「総所得」ではなく「課税所得」である点。ここでは課税所得がどのように算出されるかを見ていきましょう。話を単純化するために、総所得ではなく給与所得(病院や企業からもらう給与のみの所得)で見ていきます。

まず、給与所得は年間の総給与収入から給与所得控除を差し引いて算出されます。例えば年間1200万円の給与所得がある医師の場合は1200万円から下記の表で赤のハイライトをされている金額を差し引きます。なお、以下の控除額は2016年のものですので、ご注意ください。

<給与所得控除額> ※2016年分の場合

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
180万円以下 収入金額×40%
65万円に満たない場合には65万円
180万円超、360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超、660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超、1000万円以下 収入金額×10%+120万円
1000万円超、1200万円以下 収入金額×5%+170万円
1200万円超 230万円(上限)

 

控除後の給与所得
1200万円-(1200万円×5%+170万円=230万円)=970万円

課税所得はこうして計算された給与所得から社会保険料(年金・健康保険料)や配偶者控除、医療費控除、基礎控除などをさらに引いていきます。先ほどの例が独身で特に生命保険や住宅ローン、寄付などをしていない場合の課税所得は、以下のように求められます。

課税所得

970万円-38万円(基礎控除)-168万円(社会保険料 年収の14%ほど)=764万円

課税所得が764万円のため<所得税の速算表>の黄色くハイライトされた部分が支払う所得税率となります。

再掲:<所得税の速算表>

課税される所得金額 税率 控除額
 195万円以下 5% 0円
 195万円を超え、330万円以下 10%  9万7500円
 330万円を超え、695万円以下 20%  42万7500円
 695万円を超え、900万円以下 23%  63万6000円
 900万円を超え、1800万円以下 33%  153万6000円
 1800万円を超え、4000万円以下 40%  279万6000円
 4000万円超 45%  479万6000円

以上をもとに、実際に支払う所得税は、

所得税支払額

764万円円×23%=175万7200円
175万7200円-63万6000円(表右側 控除額)=112万1200円

となります。

今回のケースでは、年間1200万円の給与所得のうち、所得税だけで約112万円を支払っていることが分かりました。さらに住民税や社会保険料なども差し引かれると当然、給与の手取り額は少なくなります。こうした背景を理解していないと、「収入は増えているはずなのに、思っていたより手元のお金が増えない」という事態が往々にして起こります。

資産形成のために、税制の理解を

このように日本の税制はとても複雑です。今回はかなりシンプルに算出しましたが、独身か否か、生命保険への加入有無、住宅ローンを組んでいるのかいないのか、開業医なのか勤務医なのかで大きく異なり、自力で調べるのは骨の折れる作業です。

勤務医や医療法人を経営している医師にとっては、所得税や住民税は源泉徴収され病院側で計算してくれるため、大きな負担にならないかもしれません。しかしもし、アルバイトをしていたり不動産収入があったりするならば確定申告が必要になり、納税額は一筋縄に計算できません。また特にフリーランスの医師や開業医は自分で税金を納めなければならないため、納税額の把握は重要かつ大きな負担となります。

多くの所得税を納めている医師という職業の場合、どの程度を納税する必要があり、残った収入からどの程度が生活費として必要で、どの程度を貯金や投資に回すべきか、納税への理解を持った上で考慮していけると、資産形成がはかどります。常勤医であろうと開業医であろうとフリーランス医師であろうと、長期的な視点でライフビジョンを組み立てるためにも、最低限の税知識は知っておくとよいでしょう。

大見 貴秀
おおみ たかひで
麻酔科医

フリーランスの麻酔科医。常勤医からフリーランス医になった時の税制の違いに驚き、日本の税制について幅広く勉強する。フリーランスの麻酔科医として就業する傍ら、資産形成を目的として様々な事業展開を行っている。医師としての活動のほか、不動産賃貸業、茶葉通販業、法人の代表取締役として活動中。フリーランスの税制、医師や高所得者の節税、医師の資産形成などの情報発信を行っている。

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