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コラム

診療拒否が正当化、変わり始めた「応招義務」―『ブラック・ジャック』に学ぶキャリアVol.18

2020年12月2日

数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「曇りのち晴れ」より、医師の応招義務(応召義務)について考えます。

医師がストに参加、患者は…?

あるホテルの救護室で、男性患者が医師の手当を受けています。患者はゴルフ中に雷に打たれ、身体にひどい電紋が残るほどの重傷でした。ところが、医師は応急処置だけで、立ち去ろうとします。患者に付き添う幼い息子が「先生、どこへ行くの?」と驚くと、医師は「お昼からは、このホテルはストなんだ」と理由を明かしました。この医師はホテルの嘱託医で、一労働者としてストライキに参加する予定だったのです。患者の息子が必死に引き留めても、医師は帰ってしまいました。

事情を知った別の宿泊客が、山のふもとにある病院に患者を運ぼうとしますが、道中、倒木に見舞われて立ち往生。先ほどの嘱託医も足止めされていました。そこにブラック・ジャックが登場して――。

マンガの詳細、その後の展開はこちらから
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明文化された、診療拒否が正当化される時

日本の医療現場でも、何度かストライキやそれに近しいことが行われています。古くは1961年、当時の日本医師会会長だった故 武見太郎氏が中心となり、診療報酬引き上げをめぐる「全国一斉休診」を実施。1971年には「保険医総辞退」が行われました。また、最近ではCOVID-19流行に伴ってボーナスを削減された医師らが、待遇改善を求めてストライキを起こす例がありました。

このストーリーでは、ストライキに参加した嘱託医が、ブラック・ジャックから「ふざけるな それでも医者かい」と非難され、言葉につまる場面があります。両者のやりとりは、いわゆる「応招義務」を背景にしていると思われます。

応招義務は、医師法第19条第1項に定められた「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という規定です。ここで言う“正当な事由”を医療界は重く受け止め、時間外の受診や、患者からの無理な要求にも応じる慣習が続いてきました。それが過重労働や長時間勤務を招く一因になっていました。

しかし、今後は状況が変わるかもしれません。2019年12月の厚生労働省通知で応招義務の法的性質が明示されたのです。

通知によると、応招義務は医師が国に対して負う義務であり、患者に対して負う義務ではないとされました。また、勤務医が勤務先から労使協定・労働契約以上の診療を求められた場合、労働基準法等の違反を理由に診療を拒否しても応招義務違反にはならないとも示されています。

また、「診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方」も整理されています。応招義務に反するか否かの判断で最も重要なのは、「患者に緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)」で、さらに診療時間・勤務時間内か否か、患者と医療機関・医師の信頼関係も含めて検討することが示されました。

治療しないことが正当化される具体的なケースは、緊急対応が不要であることなどを前提に、▼「患者の迷惑行為」(診療内容と関係ないクレームを繰り返し続ける等)、▼「医療費不払い」(支払い能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等)、▼「入院患者の退院や他の医療機関の紹介・転院等」(医学的に入院の継続が必要ない場合の退院等)―などです。

患者の命を預かる医師には、他業界とは異なる「働き方の難しさ」がありますが、この通知によって過重労働是正に一歩近づいたと言えそうです。今後も、時代の流れとともに、医師の働き方は変わっていきそうです。

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