数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「目撃者」より、患者への寄り添い方について考えます。
「5分で再び失明」でも、手術をするかどうか
何者かが駅に置いた時限爆弾により、多数が死傷する事件が発生。偶然、犯人を目撃していた女性は、爆発によって両目を失明してしまいました。警察は、犯人を突き止めるために、彼女の目を治す手術をしてほしいと、ブラック・ジャックに依頼します。
しかし、ブラック・ジャックはきっぱりと断ります。過去に行った同様の手術では、視力が5分しか回復しなかったからです。「五分たったらまたもとにもどってしまう じゃあなんのために手術するんですかね」と、医師としての見解を述べます。警察との意見は対立し、押し問答になりますが、最終的にブラック・ジャックは考え直し、手術を引き受けることにしました。それはなぜだったのでしょうか。
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70年代の漫画が先取りした「ナラティブ・ベイスト・メディスン」
手術の直前、「見えるようになるの?」と聞く患者に、ブラック・ジャックは「ああ ほんのちょっとのあいだね」と正直に伝えます。その後、つかの間の視力を取り戻した患者が外の景色を見たがると、黙って希望を叶えます。わずかにほほ笑んで「きれいね けしきって」とつぶやき、涙を流す患者の横で、静かにたたずむブラック・ジャック。その姿は、患者の語りを受け止め、全人的な観点から医療を行うNBM(Narrative-Based Medicine、物語・語りに基づく医療)のようにも見えます。
このエピソードが描かれた1974年は、まだ医療界にEBM(Evidence-Based Medicine、根拠に基づく医療)も普及していない時代でした。EBMは1990年代初頭にカナダの医師から唱導され、医療水準を押し上げたと言われます。しかし、必ずしもすべての患者に有効ではないことがわかってきました。もともと、EBMは「科学的根拠(エビデンス)」「医療者の専門性や経験」「患者の価値観」などを統合し、多角的な視点からより良い医療を目指すものでしたが、「科学的根拠(エビデンス)」に偏重する傾向が生じました。その結果、軽症の患者では問題にならなくても、このエピソードのように治療が困難な患者には、EBMだけでは必ずしも十分な満足を得られなかったのです。
この課題を補完する意味で、1998年にイギリスの医師から提唱されたのがNBMでした。患者の個人的な物語、すなわち価値観やこれまでの人生、病気に対する気持ちなどに医療者が耳を傾けることで、お互いの信頼関係が育まれ、満足度も向上していくと考えられています。図らずもブラック・ジャックは、この流れを先取りしていたのかもしれません。
現代の医療でも、一生付き合わなければならない病気やけがは少なくありません。そうした際、治療方針の決定や患者との関わり方として、ブラック・ジャックの取った行動はひとつの参考になるのではないでしょうか。
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