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コラム

病名告知…誰に、何を、どこまで伝える?―『ブラック・ジャック』に学ぶキャリアvol.23

2021年3月17日

数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「侵略者」より、患者の「知る権利」「知らされない権利」に医師はどう応えるかについて考えます。

事実を知らされず、疑心暗鬼になる患者

重い病気で入院を続けていた少年は、ある日を境に、周囲の異変に気付きます。母親や主治医、医療スタッフたちが急によそよそしくなったことから、「宇宙からのインベーダー(侵略者)に支配されている」と思い込むのです。母親や主治医が優しい言葉をかけても疑心暗鬼になり、反抗的な態度をとります。興奮状態で暴れ回り、手が付けられない状態になりました。そこにブラック・ジャックが登場して――。

マンガの詳細、その後の展開はこちらから
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「知る権利」だけでなく「知らされない権利」をどう尊重するか

本エピソードの中で、ブラック・ジャックは暴れ回る少年に平手打ちをし、ハッキリ病名を伝えるシーンがあります。

本作が描かれたのは1975年。今ほど、病名告知やインフォームド・コンセントが広まっていなかった時代です。物語の中でも、ブラック・ジャックの病名告知に主治医は「そんなことを この子に教えてはいけません」と焦りを見せます。しかし、ブラック・ジャックは「死ぬんなら死ぬ ダメならダメとハッキリ教えたほうがこの子のためですよ」と主張します。

ブラック・ジャックの言葉で事実を知った少年は、生きる意欲を取り戻し、手術を受ける決断にもつながりました。物語は、患者の「知る権利」の重要性を諭す形で終わります。

本作品が発表された後、1981年に世界医師会総会で採択された「リスボン宣言」では、「7.情報に対する権利」において以下のように定められています。

a.患者は、いかなる医療上の記録であろうと、そこに記載されている自己の情報を受ける権利を有し、また症状についての医学的事実を含む健康状態に関して十分な説明を受ける権利を有する。
出典)日本医師会 https://www.med.or.jp/doctor/international/wma/lisbon.html

ただ、どんな状況でも情報を伝えればいいとは限りません。本作品では、事実を伝えたことが良い結果につながりましたが、場合によっては患者を追い詰めてしまう可能性もあるでしょう。リスボン宣言では、患者の「知る権利」だけでなく「知らされない権利」も尊重するように定めています。

d.患者は、他人の生命の保護に必要とされていない場合に限り、その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有する。
出典)日本医師会 https://www.med.or.jp/doctor/international/wma/lisbon.html

患者の「知る権利」「知らされない権利」の両方を尊重するには、本来ならば病名告知の前に「何を、どこまで知りたいか」を確認しておく必要があります。しかし、そのプロセスに明確な“正解”はなく、医療現場での実践は容易ではありません。

特に、本作品のように患者が子どもの場合は、心身の発達段階も考慮して、情報を伝えなければなりません。また、認知症患者の場合は、告知後の本人への精神的影響や、本人の記憶力・理解力などの事情、患者家族の状況など、考慮すべきことが数多くあります。

さまざまな難しさがある中で、患者の「知る権利」「知らされない権利」を守るためには、患者の意思を丁寧に確認することが大切になるでしょう。また、情報を伝えた後(あるいは情報を伝えない状態で)の精神的ケアや、「シェアード・ディシジョン・メイキング」など、医療者と患者の信頼関係を築く仕組みも必要かもしれません。

それらを実践するには、医師のコミュニケーション力を高めることはもとより、病診連携や院内チーム連携といった協力体制も、いっそう求められるのではないでしょうか。

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