数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「サギ師志願」より、医療費未払い問題について考えます。
「お金がないけど診てほしい」その声に医師は…
物語は、夜、幼子を連れた母親が医療機関に駆け込む場面から始まります。ぐったりした子どもを、母親はすぐに診てほしいと訴えますが、医師からは前回の診察代が未払いだと指摘されます。医師は「いつまでも待てませんよ」と言いつつも、母親の困った姿を見て診察を始めます。
そこに子どもの父親がやってきて、「うちにゃア医者にかかる金がねえんだ!!」と怒鳴り、子どもを連れて帰ろうとしました。子どもを治してほしい母親と、とにかくお金がないという父親は大喧嘩になり、医師を間に物を投げ合う大騒ぎに。
医師が一喝して喧嘩を収めますが、何をひらめいたのかブラック・ジャックに電話をして、子どもの手術を依頼します。高額な医療費を請求することで有名なブラック・ジャックは、貧しい一家にどのような対応をするのでしょうか。
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病院の平均未収金は月あたり2000万円前後
このストーリーでは、医療費未払い問題についてブラック・ジャックをはじめ、登場するキャラクターの面々がコミカルに表現し、心温まる展開になっています。しかし、現実の医療界では切実な問題です。
厚生労働省の調査によると、2019年10月単月の平均未収金額は1779万円で、未払いの平均患者数は66人、2019年11月単月では2557万円、92人という結果が出ています。未収金は、医療機関の経営に大きなダメージを与えると言っても過言ではありません。
一般的に、未収金が発生する原因は、患者の生活困窮や意図的な支払い拒否、診療に対する不満などが挙げられますが、公的な規程も関係していそうです。例えば、医師法第19条1項で定められた「応招義務」(正当な事由がなければ、診療を拒んではならないという趣旨)や、1949年(昭和24年)の厚生省通知(医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできないという趣旨)は、医療費未払いの遠因とも考えられています。
ただ、この問題に医療機関が耐える時代は過ぎようとしています。2019年12月の厚労省通知によって、「悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される」と明示されました。保険に未加入など、支払い能力の不確定さだけでは診療を拒否できませんが、特段の理由なく未払いが重なっている場合は、「悪意のある未払い」と推定される場合があります。
さて、本ストーリーの父親には、かつて医療費にまつわる辛い経験がありました。腹膜炎で倒れた際、貧しい身なりを見て多くの病院に断られた挙句、最終的に手術をしてくれた病院も退院後は多額の医療費を請求してきたのです。この出来事を機に、父親は「もうコンリンザイ 医者にはかからねえ」と思ったそうです。
医療費未払いは、患者の経済的・精神的事情が関係しているため、対応が難しい問題でもあります。医療機関としては、高額療養費制度の利用、医療費の分割払い、連帯保証人の確保などの対策を取り、医師も心配な場合は早めに医療ソーシャルワーカーにつなげるなど、組織的な対応が望まれるところです。
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