がんの第一発見者は自分──。JCHO東京新宿メディカルセンター(東京都新宿区)呼吸器内科医の清水秀文先生は、自分の健診のレントゲン画像をチェックしたときに、がんであることを悟りました。縦隔原発混合性胚細胞腫瘍という、自身も症例経験のない稀ながんに罹患した清水先生。前編では、がん発覚時の経緯と周囲の反応、治療の様子をお聞きしました。(取材日:2019年8月6日)
「CTだね」「この画像は僕です」
——がん発覚時の状況をお聞かせいただけますか。
きっかけは、院内で行なった健康診断です。放射線技師と一緒にレントゲンの画像をチェックした時に、一目で縦隔腫瘍だとわかりました。その半年前に受けた健診では、異常は認められず、自覚症状も特にない中での発覚でした。
ただ、画像を見て肺がんや胸腺腫瘍ではないことは分かったので、それよりは予後はいいのではないかと考え、それほど動揺はしませんでしたね。レントゲンの確認後、外来診療中の上司を訪ねました。「この画像、どう思いますか」と相談したところ、上司は「CTだね」と。「この画像は僕ですので、CTをお願いします」と伝えると、驚いた様子でした。同日中にCTと血液検査を実施し、胚細胞腫瘍の疑いと判明しました。妻にはその日の夕方に外来診察室へ来てもらい、CT画像を見せながら説明しました。妻も医師のため、「(治療を)やるしかないね」と冷静でした。
当院には呼吸器外科がなかったので、確定診断のための胸腔鏡検査は別の病院で実施しました。その結果、縦隔原発混合性胚細胞腫瘍と診断がつきました。私自身、治療経験のない疾患でしたので、国内外の文献をあたって類似症例を調べました。
生存率は、最初の治療次第
——縦隔原発混合性胚細胞腫瘍とは、どのような病気なのでしょうか。
精巣腫瘍が縦隔に発現した、いわば異所性のがんです。胚細胞腫瘍の原発が縦隔である場合は転移を伴う場合と同様に予後が悪いとされています。発症の割合は数万人に1人といわれています。
5年生存率は45%ですが、2年生存率もそれほど変わりません。つまり、最初の治療が重要で、それがうまくいかなければ生存率も厳しいということです。極端な話、治る時は治るしダメだったらダメ。それであれば、しっかり治るように、まずは化学療法を頑張ろうと決意しました。
——休職して、治療にあたったのですか。
そうですね。化学療法を開始するタイミングで休職しました。胸腔鏡検査実施から1週間後のことです。治療は当院で行ったので、同僚には毎日顔を合わせられる状態でした。復帰時期は明確に伝えませんでしたが、化学療法4クール後に手術という流れがうまくいけば戻れると話しました。
BEP療法を3クール実施した後、肺機能の低下が認められたため、4回目はEP療法となりました。自宅(宿舎)まで当院から徒歩2〜3分と近く、子供が通っていた小学校も目の前にあり、私も自由に外出できたので化学療法を行なっていた3ヶ月の間はほとんど入院していて、各クールの合間に数日退院する形にしました。季節は冬で、子供がインフルエンザにかかったりしていましたし、感染症で治療が延びるのが嫌だというのもありました。それに、病院にいれば仕事もできますから。4月に予定していた学会発表を別の先生にお願いすることになったので、病室でプレゼン資料を作成していましたね。
——当時は奥様が妊娠中で、お子様も小さかったそうですね。
子供は小学1年生と2歳でした。長男には病気のことを伝え、なんとなく理解した様子でした。妻は、弱音や苦労を口には出しませんでしたが、身重の体で医師の仕事と子育てを両立する中に、さらに私の病気が加わって、本当に大変だったと思います。
——化学療法中、身体的にはつらくありませんでしたか。
副作用で吐き気がありましたが、制吐剤のおかげで、一番状態が悪い時でもある程度は動けていました。ただ、体力の低下は感じました。輸血をするほどではありませんでしたが、貧血は進みましたし、倦怠感も何日かはありましたね。
そのような中、精神的に救われたのは食事面です。特に、院内のコンビニエンスストアの存在は大きかったですね。食事制限がなかったので、病院食のメニューを見て要る・要らないを選んだり、コンビニで好きなものを買って食べたりしていました。「自由に選択できる」というのは、精神的なゆとりをもたらすと実感したものです。
——その化学療法も無事に終わり、手術へ進んだのですね。
手術は、胸腔鏡検査を受けた病院で実施しました。化学療法が順調に進んだので、予後もある程度は大丈夫だろうと思っていましたが、心臓への癒着があるかも知れない点は気がかりでした。万が一の事態に備えて、メールやSNSのパスワードなどを妻に預けましたね。おかげさまで手術は成功。癒着もなさそうと聞いて、「これでなんとかなる」と思いました。
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