
順風満帆な生活から一転、晴天の霹靂のごとく襲いかかった難病──。橋爪鈴男先生は、40代でパーキンソン病を発症し、大学病院の助教授(当時)の職を辞すことを決意します。身体機能が衰えていく自分の姿に苦悩し、自殺を考えたこともあったそうです。しかし、生きる意味を見出し、再び医師として復帰するに至りました。前編では、突然の発症から大学病院の辞職を決意するまでのエピソードをお聞きしました。(取材日:2020年2月20日 ※インタビューは、資料や文書による回答も交えた形式で実施しました)
主治医の忠告に従わず、無理を重ねた結果…
——先生は、医師として脂が乗っている時期にパーキンソン病を発症したとお聞きしました。初期徴候はあったのですか。
最初に異変があったのは39歳のときでした。母校の聖マリアンナ医科大学皮膚科学教室で、主任医長を勤めていた頃です。私は悪性腫瘍の研究を専門としていたのですが、ある日、実験中にピペットを握っている右手が小刻みに震えていることに気づいたのです。一瞬、パーキンソン病の事が頭をよぎりましたが、典型症状(安静時の片側の手足の振戦)に当てはまらないですし、緊張によるものだろうと考えていました。その後も動作時振戦は続いていましたが、気に留めることはありませんでした。
しかし、その3年後に明らかな異変が生じました。カルテを書く文章が右下がりになり、文字も小さくなっていたのです。もともと筆圧が強い方でしたが、その頃には筆圧も弱くなっていて、カーボン紙の複写もまともにできませんでした。そして、右手と右足には激しい倦怠感を覚えるようになっていました。歩行時には、無意識のうちに右足を引きずるようになり、看護師からは「おじいさんが歩いているみたい」と指摘されるほどでした。 そこで初めて勤務先の神経内科を受診したところ、医師からは迷うことなく「パーキンソン病」と告げられました。その時は、診断結果を深刻には受け止めず、「薬を飲めば症状が抑えられるだろう」と軽く捉えていたのです。
——服薬しながら、医師として働き続けていたのですか。
そうですね。当時は、いわゆる“中間管理職”である助教授に昇進したタイミングだったので、なかなか仕事のペースを落とすことができなかったのです。医学の進歩に追いつくのにも懸命で、「退職すれば、築いてきたものが全て崩壊する」と思い込んでいました。主治医からは「仕事量を8割程度に制限してください」と忠告されていたにも関わらず、無理を重ね、薬も自己判断で増量してしまっていました。 すると次第に、薬効時間の短縮により症状が変動する「ウェアリング・オフ」といわれる症状が現れました。さらに、動いていた体が突然動かなくなったり、逆に動かなかった体が急に動くようになったりする「オン・オフ」症状も激しくなっていって──。運動症状が服薬で抑えられないようになる中で、外来治療を受けたり、時には入院したりしながら、大学病院の本院や関連病院での勤務を続けていました。
出向先の病院には、褥瘡治療が必要なパーキンソン病の受け持ち患者さんもいました。初診では歩いていたのに、次の受診時には病状が進行していて車椅子で来院している方、自力での体位変換が困難となり潰瘍が出現した方の姿に、つい自分の将来を重ね、落ち込んでしまうこともありました。この時ばかりは、「医師にならなければよかった」と思いましたね。

大学病院を辞めるのは、医師を辞めるも同然
——退職を決意したのは、いつのことですか。
最初に診断を受けてから9年後、50歳のときです。1年間休職させてもらった後に決断しました。その時には、満足に手足を動かすこともできず、仕事を続けることが難しい状態になっていました。 私にとって大学病院を辞めることは、医師を辞めるも同然のこと。「これまで頑張ってきたものは一体何だったのか」と、絶望的な気持ちに襲われました。満足に動かせない手足やうらぶれた姿を誰にも見られたくなくて、日曜に職場へ出かけて、コソコソと片付けを行いました。
その頃には、運動症状だけでなく、幻覚や幻聴、幻臭といった精神症状も出現していました。真冬なのに周囲にゴキブリがうごめいている様子が見えたり、見知らぬ人の「謝れ、謝れ」と叫ぶ声が聞こえたり、甘ったるい香りがするようになりました。さらには妄想も出現し、あらぬことで家族を疑い、トラブルを招くようにもなっていきました。 これ以上、妻や娘たちに迷惑はかけられない。そう考えた私は自宅を離れ、一人暮らしの80代の母の家事を手伝う名目で、埼玉県の実家に居候させてもらうことにしたのです。
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