医学部5年生の時に、網膜色素変性症を発症した福場将太先生。次第に視力が衰えていく現実に、迷い、葛藤を覚えながらも、医師の資格を取得されます。中編では、病状が進行する中、精神科医としての道を歩み始めたエピソードのほか、辞職を考えた時のお話を中心に伺いました。(取材日:2020年5月23日)
目のせいで人生が変わるなら、とことん変わろう

——二度目の挑戦で医師国家試験に合格されたあと、どのように進路を決めたのですか。
一年間の浪人生活を経て、「今の自分には社会で生きていくスキルがない」と実感しました。例えば、アルバイトでやった路上でのティッシュ配りも全然うまくできなくて──。世間の荒波に揉まれていない苦労知らずで、世の中に貢献していく力も生活力もないことを痛感したのです。目のことは不安だけれど、医師免許に頼るしかないと思うようになりました。当時は、医師として患者さんを助けたいという使命感よりは、自分が生きていくために医師の道を選んだという状況でした。 就職活動は、インターネットで医師向けの人材紹介会社を見つけて、直接コンタクトを取りました。精神科が希望であることに加え、自分は目が悪く今後見えなくなる可能性があることを正直に伝えた上で、いくつか候補を見つけていただきました。
——その一つが、現在の職場の前身だったのですね。
そうですね。北海道美唄市にある精神病院で、近隣の駅から車で20〜30分かかる町の外れの丘の上に、ポツンと建っていました。とても古い建物で、まるで野戦病院のようでした。東京医科大学とは全く違うその佇まいに、こんな世界もあるんだと驚きました。病院の方に会って話をすると、深刻な医師不足で逼迫した状態であることが伝わってきました。目のことを告げても、「全然問題ありません。ぜひ来てください」と歓迎してくださったのです。ただ、即決はできなくて……。楽観的な性格とはいえ、縁もゆかりもない土地で人間関係を一から構築することに不安がありました。豪雪地帯と聞いた友人からは「大丈夫か」と心配されました。また、当時は紫外線が網膜色素変性症に影響すると考えられていたので、主治医からも、「雪で乱反射した光が目に悪影響を及ぼすかもしれない。北海道で暮らすことで症状が進行するかもしれない」と言われました。 しかし、最終的にはこの病院での勤務を決めました。目のせいで人生が変わるんだったらとことん変わろう、と思ったんです。浪人した1年の間に、いろいろな社会経験を積めたことも大きな後押しとなりました。何よりも、病院が私を求めてくれたのが一番の決め手となりましたね。
——働き始めてから、目の状態はいかがでしたか。
勤務を始めてから1~2年で、白内障はさらに進行しました。患者さんには目のことを知られないよう平静を装い、周りのスタッフに対しても、平気なふりをしてごまかしていました。しかし、3年目に入った頃には、人の顔を見分けたり、文字を読んだりするのが難しくなっていって──。精神科の診療は会話が中心ですが、カルテや診断書などの書類作成業務も多いんです。音声読み上げソフトを導入するなど業務をカバーできるようにしたものの、さすがに厳しさを感じ、辞職が頭をよぎるようになりました。 それと同時に、病院自体も大きな転換期を迎えていました。次々と医師が辞職し、経営状態も悪化。そんな中で理事長が交代し、病院が移転してリニューアルすることが決定したのです。移転先は、より札幌に近い、江別市の駅前の繁華街でした。リニューアルを機に、最新鋭の機器を使った高度な医療が導入されれば、おそらく自分には務まらないと考えました。でも理事長は、病院に残っていた私に恩義を感じてくれたのか、一緒に頑張ろうと言ってくださって──。このように、自分の進む道に迷っていた時に出会ったのが、大里晃弘先生でした。
視覚障害を持つ医師、医療従事者との出会い
——大里晃弘先生とは、どのような方なのですか。
大里先生は、茨城県の病院に勤務されている、視覚障害のある精神科医の先生です。かつて視覚障害は、医師国家試験の欠格条項でした。大里先生は、医学部を卒業したものの国家試験を受験できず、数年間、鍼師・鍼灸師・あんまマッサージ指圧師として仕事をされていました。その後、医師法改正により欠格条項が見直されたことで、医師国家試験に挑戦。見事合格され、精神科医になられた方です。 スタッフから大里先生のことを教えてもらい、直ちに連絡を取ったところ、先生は快いお返事をくださり、私に会ってくださったのです。私の目や仕事の状況を伝えると、具体的な診察方法のヒントを教えてくれました。何よりも、同じ道を歩いている先輩がいるという事実が大きな励みとなりました。 大里先生は、視覚障害をもつ医療従事者の会「ゆいまーる」を紹介してくださいました。そこで、代表の守田稔先生をはじめ、さまざまな医療従事者と知り合いました。世の中には目が見えない医師や看護師がたくさんいて、それぞれ自分の場所で頑張っているんだと知り、力が湧いてきたのです。(後編に続く)
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