長野県で初期研修医として働いている髙村貴子先生は、国内では敵なしの実力をもつ山岳ランナーでもあります。初出場したレースでいきなり3位に入賞したのが医学部2年生のとき。ときには海外にも転戦する山岳ランナーと医学生をどのように両立してきたのでしょうか。卒試・国試を控えた6年生のときの過酷なエピソードや研修医生活との両立についても伺いました。(取材日:2020年3月23日)
71.5kmを走る山岳レースの1週間後に卒試、国試後は東医体
——6年生の10月に行われたハセツネ(編集注:日本山岳耐久レースの通称)で無事3連覇を果たして卒業試験を終え、そこから国家試験まではレースに出ず、勉強されていたのですか。
いえ、卒試の2日後にスカイランニングの日本選手権があって、それに出ました。卒試の後も月1回くらいのペースではレースに出ていましたね。結果を求めるというよりは、自分のモチベーションのため。レースをご褒美にして、レースで楽しむために勉強していました。
1月になると、さすがに精神的にも追い込まれてきたので、ほぼ走らずに国試を迎えました。国試が終わって一度燃え尽きて、そこから3月の東医体に向けてまた少しずつ走り始めていました。5年生で引退する人もいますが、私は戦力としてカウントされていたので、最後までやりました。
——いま「スカイランニング」という単語が出てきましたが、スカイランニングとトレイルランニングの違いを教えてください。
どちらもレースをする場所は山ですが、スカイランニングの方が急な山を登るイメージです。クライミングに近いところもあり、下りも急になるのでテクニックが必要になってきます。
加えて、スカイランニングの場合は、例えば5km走る中で1,000m登らなければいけない、といった定義があるのに対して、トレイルランニングにはそういう定義はありません。丘を走るだけでもトレイルランニングになります。トレイルランニングの一部にスカイランニングが入っている、というと分かりやすいでしょうか。
個人的には、トレイルランニング・スカイランニングどちらの場合でも、累積標高(縦の移動)が多めなレースが好きです。それと、同じ場所を周回するコースは性に合わないので、1周して終わるようなコースの大会に出るようにしています。
——山や岩場を薄着で走るとなると、怪我は避けられないイメージがありますが……。
怪我は多いです。骨折はまだしていませんが、膝を縫う怪我は何回かしました。去年は、膝の怪我が治るまで時間がかかりました。
レース中は集中しているので、あまり大きな怪我はしません。練習中の方が、気が緩んでいるので怪我をしやすいんです。それに、レース中はアドレナリンが出ているので怪我に気付かず、終わってから気付くことも。血を流したまま走っていることも珍しくないですね。
研修期間中に出たいレースもすべて話してマッチングに臨む
——初期研修先を信州上田医療センターに決めた理由は何だったのでしょうか。
5月に行われている太郎山登山競争というレースに出るために初めて上田に来たんですが、太郎山から病院が見えるくらい近くて——。ここならいつでも山に行けると、それだけで決めました。我ながら単純だと思いますが、山岳ランナーとして山が近くにある環境はマストだなとも考えてはいました。
——マッチングの時、研修中も競技は続けたいという話はされたのですか。
全て話しました。病院見学の段階で、先生方が私のことを知ってくださっていて、そのときに「競技はどうするの?」「このまま続けたいです」という話もしていました。
マッチングのときは翌年出場したいレースの話もして、病院からは「うまく両立してね」と言っていただきました。すごくありがたいと感じましたね。
——具体的に、どんなスケジュールで働いているのですか。
山岳レースは秋がハイシーズンなので、10月~11月は毎週のようにレースに出ています。土曜に移動して日曜にレース、次の日から仕事……というスケジュールですね。
当直は研修医同士で決めているので、1年目はその月の当直を決める研修医の先生に、土日の当直を全部平日にしてもらうなど、融通を利かせてもらっていました。同期の協力も大きいです。
いまは3月なので、山岳レースとしてはオフシーズンです。ただ、今シーズンから山岳スキーを始めたので、いまはスキーのシーズン。山岳スキーは「冬のトレイルラン」と言われている競技で、スキー道具を持って登山するイメージですね。雪があれば板を履いて登るし、急な斜面や凍っている斜面は板を担いで足で登るし、降りるときも、普通にスキーで降りるだけでなく、スキーで滑れないところは足で降りるなど、自由度が高くてとても楽しいです。もはや、1年中ずっと山に登っていますね(笑)。
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