
医師としてフルタイムで働きつつ、地域での社会活動にも尽力している吉住氏。「幅広い世代が集まる場所」をつくろうと、奮闘しています。なぜ、忙しい時間を縫って社会活動をするのか。どのような医師を目指しているのかを伺いました。(取材日:2020年1月31日)
診療と並行して「子ども食堂」を開始
──JCHOうつのみや病院に入職して1年が経ちます。日々、どのように過ごしていますか。
月曜から金曜までフルタイム勤務をしており、外来と病棟の両方を受け持っています。やはり、患者さんの容体が良くなればやりがいを感じますし、お看取りの時に家族が「よかった」と言ってくれると励みになります。
また、医師として働く傍ら、2019年夏にボランティア団体「おおるり会」を立ち上げました。居場所づくり活動として「子ども食堂」の運営と、小中高生への学習支援を行っています。 ※子ども食堂:子どもやその親、地域の人々に無料または低額で食事を提供する社会活動。企業やNPOが運営するほか、個人や任意団体による運営もある。
──なぜ、子ども食堂や学習支援を始めたのでしょうか。
実は、ヘルパー時代にも同様の取り組みはしていたのです。昼にデイサービスで使用している建物を、夜は学習塾として活用していました。そこで帰りの時間の遅い利用者さんと中高生に食事を提供して、みんなで一緒に食べていたのです。認知症の高齢者と中高生は、普段あまり接点がないと思いますが、一緒に食卓を囲むと自然と会話が生まれます。この光景を見て、高齢者は高齢者だけ、子どもは子どもだけで集まるより、多様性があったほうがお互いにいい刺激を得られると思いました。
医学部に編入したことで忙しくなり、中断していましたが、ずっと再開するタイミングを見計らっていました。研修が終わって一段落し、ありがたいことに勤務医としてある程度の収入が得られるようになったので、活動を再開したところです。

末期がん高齢者、「自分にも居場所ができた」
──地域貢献の活動を再開し、吉住先生ご自身はどのような影響を受けましたか?
医師としても、1人の人間としても“人間力磨き”の助けになっていると感じています。診療だけでは出会えない人たちに、おおるり会の活動を通して出会うことができ、確実に視野が広がりました。
子ども食堂に来ている子ども達は、必ずしも経済的に困窮しているわけではなく、家庭内の問題を抱えているケースもあります。たとえば、親は事情があって料理ができず、半額になったお惣菜ばかり食べていたという子どもがいました。時には「家出してきた」と訪ねてくる子もいます。そのような場合は私から親に連絡をとり、ケースバイケースにはなりますが、ここで過ごしてもらうこともしています。こういった家庭は、こちらから探しに行けないので、地域に開かれているこの場所をうまく利用してほしいと思います。
学習支援の活動は、近くにある獨協医科大学の学生にお願いして、小中高生の勉強を見てもらっています。異なる世代の交流になっているのが嬉しいですね。
──地域の皆さんも、活動に協力してくださるそうですね。
そうなんです。活動を始める前に、ご近所にご挨拶に伺うことで顔見知りになりました。食事をしに来てくれることもあれば、使わなくなった家電や家具を譲ってくださったり、農家の方が市場には出荷できないけど食べられる野菜を届けてくれたりもします。
お向かいのおじいちゃんは、“鍵番”を買って出てくれました。私や、協力者である夫の到着が遅れるときは、おじいちゃんが鍵を開けて、子ども達を迎え入れてくれるのです。その方は一人暮らしで、末期がんを抱えています。最初のうちは「あとは1人で死ぬだけだ」と言っていたのですが、最近では「自分にも役割と居場所ができた」ととても喜んでくださいます。これも、活動をしていてよかった、と思うことです。
おおるり会の運営費は、今は私の持ち出しですが、今のように地域の有形・無形の支援を受けながら長く続けたいですね。かつて自分が働いていた介護施設のように、多様な要望に応えられる場所に発展させたいと考えています。

在宅専門クリニックで経験を積み、いつかは自分も在宅医に
──医師としての、今後の展望についてお聞かせください。
JCHOうつのみや病院での仕事は、病院から在宅へ橋渡しをする役割です。非常に大切な業務で、たくさんのことを学ばせてもらっていますが、最終的に私が目指す医療とはどうしても医療機能が異なります。繰り返しになってしまいますが、私は高齢者が望む場所で、その人に相応しいお看取りをしたいと思っているので、2020年4月からは在宅専門のクリニックで勤務する予定です。いったん自治医科大学の医局を離れますが、当初より在宅医療を希望していたので、周りの理解はすぐに得られました。在宅専門クリニックでまずは経験を積んで、将来的には自分でも開業したいと考えています。
また、個人的な目標としては、いい意味で“医者らしくない医者”になりたいですね。子ども食堂でご飯を出しているおばさんだけれど、妙に医学に詳しくて実は医者だった、みたいなイメージです(笑)。そのくらい地域に馴染んで、気軽に相談してもらえる医師を理想としています。それを叶えるためにも、医療の現場や地域貢献の活動を通して、引き続き多様な経験を積んでいかなければなりません。
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