鹿児島県の南部に位置する種子島。島内唯一の産婦人科がある種子島産婦人科医院に、2015年7月、2人目の医師が加わりました。前田宗久氏、キャリア10年目の中堅医師です。種子島で幼少期を過ごし、鹿児島大学出身と地域に縁のある前田氏。これまでの歩み、現状の課題や今後の展望まで、お話を伺いました。
一歩踏み出すために、地域医療に挑戦
―これまでのご経歴、種子島産婦人科医院で働くまでの経緯を教えてください。
大学卒業後は、奄美大島の県立大島病院で初期研修を受けました。そこで先輩医師がエネルギッシュに働く姿に感銘を受けて、産科医の道を選びました。そのあと熊本赤十字病院で約8年勤務して今に至ります。
―地域医療に興味を持つようになったきっかけはなんでしょうか。
実は、熊本赤十字病院在職中から、将来的には母校の大学病院に戻ろうかと考えていました。しかし、地方の産科崩壊問題があって地方に興味を持ちました。「大きな病院にいるより、困っている地方で働く方が医療に貢献できるのではないか」という思いが強くなっていったんです。
熊本赤十字病院在職中に長野県北部の病院に応援に行く機会がありました。その病院はご高齢の産婦人科の先生が1人でとても精力的に働いていました。ただ1人では体力的にかなり大変そうでした。
そこで地方の大変さを目の当たりにしたと同時に「今の自分が地方の医療立て直しにどのくらい力を発揮できるか、一歩踏み出して挑戦してみたい」という気持ちがさらに高まりました。
「種子島なら、安心して働ける」と思ったわけ
―全国数ある医療機関の中で、種子島産婦人科医院を選んだ理由を教えてください。
地方で働き始めることには不安もありましたが、種子島にはある程度、それを払しょくできるような環境が整っていたんです。
他の候補先には、他院他科との連携に問題があったり、何年もお産をしていなかったりするところもありました。
ただ種子島産婦人科医院では、院長が長年お産に携わっているほか、本土の大学病院から医師が応援に来てくれる点、島内の麻酔科、小児科、外科がいざというときにサポートしてくれる点など、一定のバックアップ体制が整っています。わたしが着任する前後で助産師が1人から6人へと増員したことや、「学会開催日はフォローを頼むので大丈夫」と快諾をもらい、勉強と診療を両立できる環境の目処がついたことも大きかったですね。
―地方で働くに当たって、不安はかなり大きかったのですね。
実際に働くことを考えると、バックアップ体制や訴訟リスクなどは気になりますし、「今の自分ではまだまだ力不足ではないか」という心もとなさは、実際に現場で働いてみるまで完全には消えませんでした。ただ、不安だらけだった一方で、10年後の自分が地方の医療に対して同様の情熱を保てているとは限りません。それであれば、自分の未熟さは承知の上で、気持ちが熱いうちに挑戦してみるべきだと最終的に思ったんです。
着任にあたっては、西之表市の市長が直々に熊本まで5回ほど足を運んでくださり、そうしたわたしのさまざまな思いに耳を傾けた上で、種子島のバックアップ体制や、職員の人柄についてはもちろん、「種子島に来てほしい」という思いまで、熱心に語ってくださいました。その熱意にも心を打たれて、着任を決意しました。
種子島でできることを増やしていきたい
―今後、この島で取り組みたいことはありますか。
この島で受けられる医療の幅を広げていきたいと思っています。
熊本で働いていたときは、悪性腫瘍・腹腔鏡下手術・周産期をメインに勉強してきました。
悪性腫瘍の初期治療はなかなか難しいと思いますが、島で今まで行っていなかった術後抗がん剤治療などはできるのではと思います。また腹腔鏡の機械も島にあるので、腹腔鏡の手術もできる範囲で行うことができればと思います。
いずれにしろ、島の人が本土で治療を受けようと思うと宿を確保しなければならない分、経済的負担も無視できません。今後はある程度、島内でいろいろな検査や治療を受けられるように手を打ちたいと思います。
そのほか、個人的に取り組みたいのは中絶への対応です。島内唯一の産婦人科診療所ということもあって、当院でも中絶には応じているものの、できる限り減らしていきたいですね。いきなりゼロにするのは難しいでしょうが、島民への性教育を多少厳しくてもしっかりと行い、意識改革を図りたいと思っています。
―これから、忙しくなりそうですね。
そうですね。しかし、着任した以上は種子島を盛り上げていきたい。行政ともうまく連携をとって周産期医療を充実させて、他の島が参考にできるような体制を構築したいと思っています。
当院を見学に来る学生も多いそうなので、今度はわたしが「地方でチャレンジしたい」という方を迎える側に立って、この島の実情ややりがいなど、いろんな話を伝えていく番です。かつてのわたしのように、地方での医療に興味を持ちながらも、一歩踏み出せない医師も多いはず。もし、そうした医師がわたしの話を聞いて、「離島でもやっていけそうだ」という気持ちを持ち帰ってもらえたら、とても嬉しいです。
地域医療にご興味のある先生へ
各地で奮闘する先生お一人おひとりのご活躍によって、日本の医療は支えられています。
この記事をお読みになって、もしも「地方での勤務に興味はあるが、なかなか踏み出せない」とお考えでしたら、一度コンサルタントにご相談いただけないでしょうか。
先生のご懸念やご事情を伺った上で、地方の実情や待遇、サポート体制など正直にお伝えし、前向きな気持ちで次のキャリアに踏み出せるように最大限のご支援をしたいと考えております
先生の決断が、地域を、医療を変えるかもしれません。新天地でのご勤務・転職をお考えでしたら、ぜひお問い合わせください。