新潟県西部・佐渡島の中央に位置する、佐渡総合病院。同院で副院長を務める外科の佐藤賢治氏は、佐渡島内の医療・介護連携に注力し、ITを活用した情報プラットフォーム「さどひまわりネット」を運営して地域の課題解決に取り組んでいます。佐渡に赴任して20年 。地域医療のやりがいについて話を伺いました。
佐渡島の「最後の砦」として
―佐渡島の医療には、どんな特徴がありますか。
佐渡島は、新潟港から高速船で約1時間のところに位置する離島です。島民6万人のうち、4割は65歳以上の高齢者。島内の医師数は90人ほどで、10万人当たりの常勤医師数は、134.6人と、全国平均(224.5人)の6割にも満たない状況です。過疎化・高齢化や医療者不足といった、地方の医療機関に共通する課題を抱えています。
―そんな中、島内最大の中核病院として、佐渡総合病院はどんな役割を果たしているのでしょうか。
島の中心に位置する佐渡総合病院は、この島の救急車の85%を受け入れる、2次救急の要です。ほかの病院で対応が難しい患者さんも、ほぼ当院に紹介され、対応が難しいとなれば本土の病院に送ります。天候が悪い場合は島外搬送が難しいので、ある程度は島内で医療を完結させなければなりません。島民が受ける“この島での最後の医療”は常に当院が担っていると言っていいほど、患者さんの流れが出来上がっている。これもこの島の医療体制の大きな特徴だと思います。
―佐藤先生が佐渡島の医療に携わり、20年になると伺いました。そもそもなぜ、この島で働こうと考えたのですか。
およそ20年前、わたしはもともと新潟大学からの医局派遣医師として、半年間という期限付きで当院に着任する予定でした。ところが、約束の半年が過ぎようとしているころ、ほかの医師も佐渡島を離れることを知って、「自分までいなくなってしまったら、ここは大変なことになってしまう」と思ったんです。当初からすれば自分でも想定外の選択でしたが、それから現在に至ります。
―かなり思い切った決断をなさったのですね。
当時は医師10年目と、医師としての経験・技術に、自信が持てるようになってきたばかり。都会の大規模病院であれば、まだまだ若手扱いだったと思いますが、佐渡島は医師数が豊富ではない分、若手であっても医師個人 の裁量が大きく、診療をはじめとする日々の業務を自分の考えで進められる。そうしたところにもやりがいと魅力を感じていました。
世の中の“当たり前”を、医療分野にも導入
―2013年4月より、佐渡島の医療連携の一環として、「さどひまわりネット」を活用されています。このツールを導入したきっかけを教えてください。
もともとわたしがある程度ITの知識を持っていたこともあり、医療分野でネットワークの必要性を痛感していました。「世の中で行われていることを医療でもやれるのではないか」というのが、最初のきっかけです。
「さどひまわりネット」の目的は、医師、薬剤師、看護師といった多職種連携の“隙間”を埋めること。たとえば、たくさんの薬を服薬している患者さんが、個別の薬の薬効を覚えきれず、主治医に誤った服薬歴を伝えた結果、重複投与が発生したとします。このケースで重要なのは、複数の専門職が患者さんに接しているのに、隙間に落ちてしまう情報が存在するという事実です。
患者さんの医療情報を共有できるプラットフォームがあってはじめて、専門職が隙間をつくらずに機能分担できる。さどひまわりネットがその一助になれたらと考えています。
現在74箇所の医療機関・介護施設がこのシステムを利用しており、「なぜこういうシステムが今までなかったのか」「さどひまわりネットの情報を確認しないと、診療が不安になる」などの声もいただいています。
個人的には、患者さんの医療情報を見た主治医やコメディカルが考えて行動する仕組みを作れたら理想です。参照データとコミュニケーションツール。これが揃っていれば、使い方次第でかなりの情報を連携できます。担当する医療者が変わっても、「さどひまわりネット」を見れば、患者さんの状況はわかる…という風に連携してもらえたら嬉しいですね。
さどひまわりネットは、佐渡島内の病院・医科診療所・歯科診療所・調剤薬局・介護福祉施設をネットワークで双方向に結び、患者の情報を互いに共有できるネットワーク連携システム。それぞれの機関で治療内容、処方薬を把握し、安全な医療・介護を提供、状態に合わせて利便性の高い施設で医療・介護を受けることができる環境作りをめざしている。
診療も、新たな取り組みもチャレンジしやすい環境
―最後に、佐渡島ならではのやりがい、魅力について教えてください。
赴任の経緯でもお伝えしましたが、やはり裁量が大きいところにやりがいを感じます。佐渡島は島民6万人、医療機関は30くらいと、それぞれの顔が見える、ちょうどいい規模。診療はもちろんのこと、「さどひまわりネット」のような新しい取り組みも含めて、いろいろとチャレンジがしやすい環境だと思います。自分が居続けることで、佐渡島の医療にさまざまな貢献ができる。その実感は、赴任20年経った今も変わりありません。
「さどひまわりネット」を例に挙げても、実現できたのは、島内の医療機関の方々が顔見知りであるわたしの行動を見守ってくださったことが大きいと思っています。汎用性が高いシステムとして構築していますが、離島という物理的制約がある佐渡の地域特性が、導入ハードルを下げてくれました。
土地的な魅力は、自然が豊富で住みやすいところ。新潟県の中で、新潟市というのは雪が少ないのですが、佐渡島はもっと少ないです。平均気温を新潟市と比べると、真夏は2度くらい低くて、真冬は2度くらい高い。新潟のほかの地域よりは寒暖差が少ない。魚もうまいです。海が好きなので、赴任して翌年の夏にダイビングライセンスを取りました。
やりたいことが実現できて、その土地が持つ風土にも魅力を感じている。佐渡で医療を続ける理由は、その2つがあってこそ、だと思っています。
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