四国にも匹敵する広範な地域の医療を支えているのが、北海道北部に位置する名寄市立総合病院です。近隣の医療圏に医療機関が少ない同院では、心筋梗塞や動脈瘤破裂の患者が170キロもの距離を経て救急搬送されてくる事態も。こうした環境下に心臓血管外科を立ち上げ、最前線で20年以上にわたって診療に従事してきた和泉裕一院長に、実情を聞きました。
170キロの距離を運ばれてくる心筋梗塞患者
―名寄市立総合病院の特徴はなんでしょうか。
全国でも有数といっていいほど、非常に広範な地域から患者さんが訪れることだと思います。
当院が位置するのは、上川北部医療圏=地図中緑エリア=ですが、道北には医療機関が限られており、北隣の宗谷医療圏から170キロかけて心筋梗塞患者が運ばれてくる事態も珍しくありません。町が点在している分、広い地域に人口が分散しているというのも、この地域の大きな特徴と言えるでしょう。
隣接する医療圏からの搬入を踏まえると、当院がカバーしている地域の面積は、四国と同等と推計されます。
―広範な地域に患者が点在しているのであれば、ドクターヘリなどの活躍も大きいのではないでしょうか。
確かに、当院には年間40―50件ほどの患者さんがドクターヘリで搬送されてきます。しかしドクターヘリは、視界が悪い夜間や、冬の吹雪の中では飛べず、限界も感じています。
ドクターヘリが飛べない時、心筋梗塞や大動脈解離の患者さんが救急車で2.5―3時間も掛けて当院に搬送されてくる事態も珍しくありません。もし当院が断ると、旭川までさらに1.5時間掛けて次の医療機関へと搬送しなければならない。特に循環器の疾患は、当院が断るとかなり厳しい状況に陥ります。「可能な限り当院で対応しなければならない」という危機感は、とても大きなものがあります。
心臓血管外科の立ち上げから20余年 “地域医療を学ぶ場”に
―和泉先生が名寄市立総合病院で働きはじめたのは、どのような経緯ですか。
わたしは1980年に旭川医科大学(旭川医大)を卒業して、第一外科に入局しました。1993年、心臓血管外科の立ち上げメンバーとして、名寄市立総合病院へ赴任しましたが、旭川医大から派遣されたのはわたしを含めて2人。立ち上げ当初は院内体制が整っておらず、「この環境で心臓大血管手術ができるのだろうか」と、不安を感じたこともありました。
心臓血管外科の立ち上げは、「名寄市立総合病院を道北の医療の中心にしたい」という、当時の院長が描いた構想の中の一つでした。そうした想いも受けて、この20年以上、わたしも奮闘してきたつもりです。旭川医大や北海道大学の医局からの派遣もあり、現在当院には62人の医師が在籍しています。
―20年以上にわたって名寄市で地域医療に携わってこられて、ターニングポイントはありましたか。
当院にとっての転換点ということで言えば、2004年から始まった新医師臨床研修制度は、非常に大きな出来事だったと感じます。当院は当時から研修医教育に注力しようと手を挙げ、体制を整えており、2015年度は定員5人がフルマッチしています。プライマリケアから3次救急まで扱っている当院の環境は、豊富な経験を積みたいという若手の医師には魅力的に映るようです。
そのほか当院には、旭川医大の地域医療実習先として、医学生にこの地域における医療のあり方を指導する役割もありますし、北海道とは縁のない医師が「地域医療をしたい」とIターンしてくるケースもあります。医療者に選ばれる病院になれたことは、とてもうれしく思います。
北海道でも東京でも、「地域医療」は実践されている
―名寄市立総合病院で地域医療に従事することで、医師はどんな感触を得るのでしょうか。
「地域医療に対する考え方が変わった」と話す方もいます。「地域医療と聞いて、無医村で行われているような“へき地医療”を想像してやってきたが、イメージと違った」と。実際、当院には医師が60人ほど在籍していて、診療内容は都会の病院とさほど変わりませんし、現場の医師が疲弊しきっているというような体制でもありません。
大都市と比べた特徴があるとすれば、道北地方のように課題が見えやすい地域ほど、現場の医師一人ひとりが、地域が抱えている課題や環境を十分理解した上で患者さんとその病気に向き合わなければならない、というところだと思います。
はるか遠くから救急搬送されてくる患者さんや、医療機関が少なく遠方から通ってくる地域の患者さんを日々診療しながら、この地域におけるわれわれの使命は何か、と常に考えています。そして、現場の医師がそれを突き詰めて行動した先に、この地域ならではの医療の姿があると思います。
そもそも「地域医療」とは、文字通り「その地域に合った医療を提供すること」。名寄に「名寄の地域医療」があるように、東京にも「東京の地域医療」があるはず。名寄で患者さんと向き合った経験はきっと、どこに行っても役に立つのではないでしょうか。
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