
医師のパワーハラスメントについて考える本シリーズ。vol.5では医師499人が回答したアンケート(※)から、医療業界で起こるパワハラの原因と対策について考えます。最後に、医療業界のパワハラについての自由意見も収集しました。
※2020年10月3~11日、m3.com会員の医師を対象にしたアンケート調査。「医師のパワーハラスメント」(回答数440件)、「医師の逆パワーハラスメント」(回答数59件)をテーマにエムスリーキャリアが実施
原因は個人要因でも、解決は組織で
まず、医療業界でパワハラ・逆パワハラが起こる原因を上位3つまで複数回答で尋ねたところ、「【個人要因】行為者の資質やハラスメント意識の欠如」が55.7%で突出する結果となりました。また「【環境要因】閉鎖的な人間関係」、「【個人要因】人材不足や忙しさによるストレス」といった、“少数精鋭”になりやすい医師ならではの特徴も上位になりました。

1位に「【個人要因】行為者の資質やハラスメント意識の欠如」が挙がるのは、パワハラを明確には定義しにくいからこそと言えるかもしれません。厚生労働省によると、パワハラは「同じ職場で働く者に対して、(中略)職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。この「業務の適正な範囲」は職場・職位・能力などによってケースバイケースであるため、全国一律には定めにくいでしょう。そのため、医師の間でハラスメントへの認識が異なると、パワハラ問題として表層化しやすくなります。
次に、医療業界のパワハラ・逆パワハラをなくすための対策についても上位3つまで複数回答で聞きました。1位は「トップが正しく理解し、メッセージを発信する」で32.7%、次に「職員同士でコミュニケーションをとれる機会をつくる」(25.9%)、「しっかり機能する相談窓口を設置する」(24.4%)と続きます。
個々人の努力に委ねるのではなく、組織として課題解決に向けて取り組んでいくべきだという認識を持っている人が多いことがわかりました。

医療業界のパワハラに思うこと
最後に、医療業界、医師のパワハラ・逆パワハラについて、自由に意見を述べていただきました。皆さんは医療業界のパワハラについて、どんな思いをお持ちでしょうか。
医療業界について
- パワハラに限らず、過重労働に関しても、医者の根性論の悪弊が根底にあると思います。そういった認識の人たちがいなくならない限り、改善しないと思います(30代男性/脳神経外科)
- 命を扱う職業ですので、ある程度厳しくなるのは仕方ないのでは、と思います。それを一括してパワハラと言いかねない現状はいかがなものかと(40代男性/呼吸器外科)
- 従来の医療機関はパワハラ的な教育が当然のものと思われていたので、そこを見直すための具体案を啓蒙する必要がある(50代男性/内科)
- 内部からの改革はあり得ないので、外部から強い力で閉鎖性をこじ開けることが必要(50代男性/内科)
- 医者の徒弟制度もひどいがナースの世界もひどい。あと50年はかかるでしょう(70代以上男性/内科)
- 成績が良ければ、失敗やつまずきがほとんどなく、反省もなく医師になれる受験体制が問題。国・公立大学では性格に問題があっても、試験に通りさえすれば国家試験合格までたどり着いてしまう(70代以上男性/放射線科)
コミュニケーションの変化について
- パワハラと指導の境界が設定できないのがパワハラ。解釈の難しい点であるが、日頃からの対話と、物理的にも心理的にも開けた環境を作ることでパワハラを減らすことができる。密室や密談は良くないです(50代男性/内科)
- 一定の割合で存在すると思います。昔のようにヒトとヒトがコミュニケーションとらなくなった。ヒトとヒトが面と向かって話をする機会が少なくなったのは良くない(60代男性/整形外科)
- 電子カルテ化が進み、カルテ上での報告が主になってきた。直接、話すことがなくなってきた(60代男性/リハビリテーション科)
パワハラ防止の仕組みについて
- 経営者側が変わること、機能する第三者窓口をわかりやすく作ること。今の制度では、弁護士に頼るしかない現状です。もみ消しが業界に横行しています(40代男性/脳神経内科)
- 原因は、話をちゃんと聞いてもらえないことだと思われる。あとは官庁もハンコを減らすなど業務を簡素化するのだからもっと医療業界も簡素化できるところはしてほしい、そんなストレスも原因にあるのだと思います(40代男性/血液透析科)
- 受けた人、弱者を必ず守ってあげる仕組みが必要。そのうえで、報告できる第三者機関が信頼できるものであってほしい。これまできちんと聞いてくれた人、部門はなく、パワーバランスで部下である私が悪い、文句を言っている、とレッテルを貼られ、医局を後にしました(50代男性/外科)
- 日々診療・研究に精進して、手術成績、診療実績、論文、学会発表を行っている者を評価する社会を希望します。グループの力だけで専門医を有していないにも関わらず常勤医として勤務できるような理不尽は止めてほしい(50代男性/小児外科)
5回にわたって医師のパワハラ・逆パワハラの実態をお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。パワハラ・逆パワハラは、誰もが加害者にも被害者にもなり得ます。そして両者にとって大きな傷にもなります。パワハラ・逆パワハラに悩んだら誰かに相談したり、思い切って職場を変えたりするなど、一人で抱え込まないでいただけたら幸いです。
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