医師のパワーハラスメントについて考える本シリーズ。vol.3では医師499人が回答したアンケート(※)から、これまでに見聞きしたパワハラや、自身が加害者にならないために気を付けていることをエピソードベースでご紹介します。
※2020年10月3~11日、m3.com会員の医師を対象にしたアンケート調査。「医師のパワーハラスメント」(回答数440件)、「医師の逆パワーハラスメント」(回答数59件)をテーマにエムスリーキャリアが実施
6割が無視、悪口を見聞き
これまでパワハラや逆パワハラについて「見聞きした」と答えた人は60.1%と、半数以上を占めていました。
具体的にどのようなパワハラだったのか、エピソードを一部抜粋してご紹介します。
パワハラを見聞きした
- 患者および患者家族の前で若手医師を否定する発言を繰り返し、時によってはその場で面罵していた。わざわざカルテに若手医師の失敗としか取れない表現で記録をしていた(40代男性/小児科)
- 私の同僚医師を辞めさせようと、叱責はもちろん、主治医を持たせなかったり、本人のいないところで私たちに悪口を言ったりしていました(50代男性/外科)
- グループの酒席(スポンサーあり)への出席を強要し、毎回大量の飲酒を強要。研修の都合で出席できなかった人は、翌日からグループ全員で無視(50代女性/放射線科)
- 研究指導者が指導を放棄し、目の前にその当事者がいても無視をする、などの行動を繰り返した。被害者が上司にハラスメントを訴えたところ、「被害者の常識がないのが原因」と開き直った(50代男性/整形外科)
- 一定年齢(50歳)に達した職員に些細なことで言いがかりをつけ、降格をし、反省文を何度も書かせ、退職願を出させ、かつ「退職に賛同しない」として早期退職割増手当の支給を拒む(60代男性/内科)
逆パワハラを見聞きした
- 後輩が自身の保身のため上司の悪口を言いふらす(40代男性/耳鼻咽喉科)
- 先輩医師の書いたカルテを無断で改ざんして白紙化する(40代男性/精神科)
- 仕事を頼んでも忘れたふりをしてやってもらえない(40代男性/神経科)
- 検査現場で患者の取り違え、撮影部位間違い、伝票紛失などの初歩的ミスが頻発し、事態収拾に追われる立場の者が解決策を提案し続けるも、反発し、事実を捻じ曲げて院長に「パワハラを受けている」と訴え出た(50代女性/放射線科)
- わずかなことでもすぐに部下が「上司からパワハラ、モラハラを受けた」と訴える(50代男性/呼吸器科)
続いて、「職場でパワハラ・逆パワハラを見聞きしたことがある」と答えた300人に、その出来事が転職のきっかけになったかを訪ねると、「ある」と答えた人は57.3%でした。パワハラは職場の雰囲気や人間関係にも関わるため、被害の当事者にならずとも、自身の職場を顧みる人が一定数いるようです。
熱血指導はパワハラに取り違えられる可能性も
本アンケートでは、自身が誰かにパワハラ・逆パワハラをしてしまった、あるいは嫌な思いをさせてしまったと感じたことがあるかも調査しました。これには、12.4%の人が経験したと回答しています。
パワハラの加害者になってしまう可能性は、誰にでもあります。なぜならパワハラは本人の意図には関係なく、相手が不快に感じ、不利益や脅威を与えられたと判断すればパワハラにあたると定義されているからです。
具体的にどのような言動をしてしまったのか、一部抜粋してご紹介します。
- 看護師の前で書類を投げてしまった(40代男性/精神科)
- ナースの仕事ぶりがあまりに患者さんに迷惑と思ったことを叱った。叱られた方は受け取り方によってはパワハラと思ったかもしれないと反省(50代男性/小児科)
- 昔は普通のことと考えられていた指導でも今の時代ではパワハラと言われるかもしれない。例えば、手術中にピンセットで相手の手を叩くような行為。もちろん指導のためだが(70代以上男性/婦人科)
- 部下が仕事の選り好みが激しい方で(と私が思っていて)、適切に仕事を振り分けてあげられなかった。希望もはっきり言わない方だったので難しかった(40代男性/神経科)
- 後輩が何度も教えても病棟業務を覚えない、薬剤を間違えるので呼び出してカルテを見せながら1つ1つ説明しましたが、「研修医で何を勉強したの?」と聞いてしまいました(30代女性/放射線科)
自由回答では、他人の仕事やミスに指導をする中で感情が入りすぎてしまった、という意見が多く見られました。医師の仕事はミスが許されない緊張感もあるため、行き過ぎた言動が起きやすいのかもしれません。
NGワードは「君」「お前」
逆パワハラがしきりに叫ばれる中、自分が加害者にならないためにはどうしたらいいのでしょうか。先生方、それぞれの心掛けは次の通りです。
相手への配慮
- 相手の性格を考慮し、指導として必要のない言葉や、その場での自らの感情を織り交ぜないように注意している(40代男性/小児科)
- これを言うと、これをすると、相手がどう思うかを考える(60代男性/外科)
- 何気ない言葉が相手を傷つけることがあることを忘れないように心がける。善意のつもりが相手には迷惑になっているかもしれないと心に留めておく(60代男性/心療内科)
自身の立場を利用しない
- 上司という立場を用いての威圧的な発言は絶対にしないよう、部下であっても、同僚として対応するようにしている(40代女性/内科)
- 相手のことを「君」「お前」などという表現はしない(50代男性/呼吸器科)
感情的にならない
- 感情的にならないように気を付けている(50代男性/脳神経外科)
- 一方的に指示や注意をせず、必ず理由を説明する(50代女性/放射線科)
- 言葉を選んで丁寧な言葉、冷静な態度で、注意している(60代男性/内科)
場所や時間を考慮する
- 対面、対話の時は第三者の目があるところでオープンに行う(50代男性/内科)
- ミーティングを勤務時間以降には設定しない。勤務時間以外の研究会には参加を強制しない(50代男性/呼吸器科)
トラブルが起こらないよう回避する
- 理解する能力のない相手は避ける(50代女性/放射線科)
- パワハラなのか注意なのか世間話かの線引きが難しいので、必要のない会話はしない。ミスがあっても改善を求めず「しょうがない」とあきらめることとした(50代男性/泌尿器科)
以前なら暗黙の了解で許されていたこともパワハラと言われるようになり、自身の言動により一層注意を払っている人も多いかもしれません。vol.4ではパワハラ防止法の理解度、そして医療業界のパワハラ対策について考察します。
- まわし蹴り、叱責…医師の壮絶なパワハラ体験―医師のパワハラ調査vol.1
- 部下から「役立たず」「窓際族」…医師の“逆パワハラ”―医師のパワハラ調査vol.2
- 指導とパワハラ、線引きはどこ?―医師のパワハラ調査vol.3【本記事】
- 医師6割、パワハラ防止法「知らない」―医師のパワハラ調査vol.4
- 根性論、閉鎖性…パワハラの原因と対策―医師のパワハラ調査vol.5
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