2024年4月から施行される「医師の働き方改革」。時間外労働の上限規制が始まるため、労働時間が厳格に管理されている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は医師532名から回答を得たアンケート(※)から、医師の働き方改革の進捗や最前線で働く医師の本音をご紹介します。
※2023年3月27日~2023年4月5日にかけて、エムスリーキャリアに過去登録のあった医師を対象にエムスリーキャリアが実施
時間外労働の上限超えリスクのある医師・医療機関の実態
まず、「現在の平均的な勤務時間/週」で最も多い回答は「40~50時間未満」で、26.1%の医師が回答しました。
2024年4月から時間外労働時間の上限規制が設けられますが、A水準の上限となる「時間外労働時間20時間/週」以下で働いている医師は合計で74.6%を占めます。
一方、B・C水準の上限(時間外労働時間40時間/週)を超えそうな「勤務時間70時間~80時間未満/週」の医師は4.1%。すでにB・C水準の上限を超えている「勤務時間80時間以上/週」の医師は7.3%です。
医師の1割が、今もなお長時間労働の課題を抱えていることがわかります。
また医師の勤務先を病床数別に見ると、病床数が増えるほど平均的な勤務時間も増える傾向が見られました。大きな病院ほど高度救急や臨床研修を担うため、想定の範囲内の結果と言えるでしょう。
4割の勤務先で「医師の働き方改革」に暗雲
現在の勤務先で「働き方改革」の取り組みが行われているかどうかを尋ねたところ「行われている」と回答した医師は53.6%でした。
医師の働き方改革は本来、すべての医療機関が対象になりますが、「行われていない」または「わからない」と回答した人は44.4%と半数近くになります。
第一線で働く医師に、医師の働き方改革の取り組みや意義が伝わっていない医療機関が一定数ありそうです。
勤務先の医療機関で実施されている「働き方改革」の取り組みとしては、以下の回答がありました。
勤怠管理の徹底
当直やオンコール体制の見直し
勤務日数、時間外労働の制限
有休休暇取得の推進
スタッフの増員とタスクシフト
チーム制、シフト制、予約制、変形時間労働制などの導入
「業務」と認められなくなったケースが多数
続いて、「医師の働き方改革」の取り組みで満足していること・不満に思っていることを尋ねました。
「医師の働き方改革」で満足していること
【勤怠管理関連】
厳格な勤怠管理によってメリハリがついた(50代前半/精神病院)
時間外労働がなく希望通りに有給休暇を取れる(50代後半/クリニック)
無報酬労働を公に礼賛する人がいくらか減った(40代前半/一般病院)
【人員体制・タスクシフト関連】
主治医制から全員担当制への移行が進みつつある(年齢未確認/一般病院)
医師が2人体制になったため相談がしやすく、体調不良などの際にもサポートを依頼できる(40代後半/クリニック)
時間外のカンファレンスがなくなったので、帰宅時間が早くなった。当直明けは「いないもの」として周りがタスクシフトする習慣ができた。「持ちつ持たれつ」が全体の意識として強くなった (50代前半/一般病院)
「医師の働き方改革」で不満に思っていること
【勤怠管理関連】
時間外勤務の認定要件が厳しくなり、これまで超勤とカウントできた診療業務が認められないことがある(40代前半/一般病院)
アルバイトが制限されて、常勤先の時間外が減らされて意味がわからない(30代後半/一般病院)
難しい症例など、論文を調べながらやらないといけないが、それも自己研鑽と言う名で仕事とされないこと。そんなこというなら医師としての成長のための勉強(OJT)は、趣味ということになる(40代前半/一般病院)
【休暇関連】
以前と比較して仕事の量が減るわけではない。代休を取るために勤務日にしわ寄せが来たり、無理に休みを取ったりしないといけないこともたまにある(60代前半/療養病院)
【地域医療への影響】
救急患者を取らない風潮がでてきている(年齢未確認/一般病院)
施設、地域、診療科別などで山積する課題
そして、「行政が推進する『働き方改革』によって、医師の労働環境が改善すると感じるか」を尋ねると、「改善すると思う」とポジティブな評価をした医師が34.6%、「改善しないと思う」とネガティブな評価をした医師が56.0%でした。
最後に「医師の働き方改革」全般について、現場で働く医師のリアルな声も伺いました。
任意回答にもかかわらず、多数の率直なご意見をいただいています。
医療従事者の業務量を減らすことが真の働き方改革である。医療に従事する実働者を増やすこと、業務を分担するスタッフの増員が必須である。そのためには莫大な人件費が必要となるが、今の働き方改革なるものは、その予算が全く考慮されることなく、ただ働く時間を制限しているようにしか見えない(40代前半/一般病院/埼玉県)
クリニック、総合病院、大学病院などを一緒くたにしているために、必ずその弊害が出ます。大学病院の勤務医のアルバイトが減ることで大学病院勤務医数の減少、さらに地域の病院への外勤が減るため総合病院の勤務医の仕事増などバランスが崩れるかと思います。各医療施設形態によってその形態に合わせた働き方改革が必要かと思います。このままでは大学病院の勤務医が減り、地域医療が破綻していくと思います(40代後半/一般病院/神奈川県)
働き方改革は、大学病院やhigh volume centerなどの医師の数が確保できている病院は可能かもしれないが、中規模の市中病院では病院経営の問題もあり、なかなか難しい点がある。医療関係者だけで解決できないので、もっと市民や患者に広く情報流し、患者の受診意識を変える必要がある。また、年配の先生や開業医の先生も協力してもらう必要がある(50代前半/一般病院/神奈川県)
特に急性期病院では仕事量が減るはずはないのだから、結局は忙しくなって所得(超過勤務手当)が減るという結果になる。病院財務は改善するだろうが現場で働く者にとっては何一ついいことなどない。働き方改革の名を借りた人件費節減だと感じる(40代前半/一般病院/徳島県)
結局、都会だけの理論なので現実がついていきません。地方基幹病院で改革を推し進めるなら1.地方基幹病院の赤字がこれ以上増えないような診療報酬の改定、2.応召義務の撤廃、3.医療訴訟の禁止 この3点が同時に揃わないと絵に描いた餅です(40代前半/一般病院/北海道)
患者の状態が刻々と変化するので、対応する医療者がどうしても不規則な勤務にならざるをえない領域がある。例えば、産科、救急、定員割れの外科など。こうしたところで、勤務する医療者をどう助けるかが問題 (70代以上/一般病院/大阪府)
病院によっては、救急車を断るな、救急外来は全て診ろという方針がいまだに根強くあります。救急車の利用の大半は、緊急性がない方が多く、救急病院で働く医師やスタッフにとって負担になっていると思います。救急車に乗れる、救急外来が受診できる条件をきちんと制限することが、まずは病院関係者の働き方改善につながると思います(30代前半/クリニック/愛知県)
研究や学会活動などの自己啓発に使う時間も減り、医師・医療の質は低下すると思う(50代後半/一般病院/奈良県)
行政が行わなくても、個人で働きを制限している医師はいる。仕事を制限されたくない医師もいる。個人的にはすべての医療機関に働き方改革を画一的に行わなくても、さまざまなバリエーションがあるところから医師が職場を選びやすく、動きやすくするだけでもよいのでは、と考えます(40代前半/一般病院/宮城県)
比較的若い医師を守るという意味で働き方改革が行われているのは理解できるが、そのあおりを中堅の医師が受けている。実際にそれにより業務時間の延長が起こっているがそれに見合った報酬は与えられていないことは問題と考えます(30代前半/その他/福岡県)
改善はある一方、弊害も。働き方改革を自分ごと化できるかが鍵
医師の働き方改革を通じて「帰りやすくなった」「休みやすくなった」医師がいる一方、救急医療体制や一部の医師にしわ寄せが来るという声が多数挙がりました。
先生のお考えはいかがでしょうか。
医師・医療機関ともに、地域や診療科、施設規模によって事情や課題は異なります。
さまざまな好事例も生まれてきていますが、最終的には「自分なら」、「自分の医療機関なら」と、当事者意識を持って「医師の働き方改革」に取り組み、最善策を見つけていく必要があるのではないでしょうか。
なお、「医師の働き方改革」に関する体系的な知識の整理やおさらいがしたい方は、「【2024年4月施行】医師の働き方改革とは?ポイント総まとめ」をご覧ください。
エムスリーキャリアが行う「医師の働き方改革」に関するご支援
「医師の働き方改革」に関する情報発信はエムスリーキャリアが運営する病院経営事例集でも行っております。
合わせて「医師の働き方改革」に悩む医師への転職支援、医療機関への採用・経営支援も行っておりますので、お悩みに合わせてご相談いただけますと幸いです。