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インタビュー

社会人経て医師に 「回り道医師」たちのキャリア

2017年2月20日

医療界には、社会人経験を積んでから医学部に入り直した医師が意外に多く存在します。「社会に出てから、医療に興味を持つようになった」「医師になる夢をあきらめきれなかった」―その胸中はさまざまですが、社会に出てから進路を変更して医学部に入り直すことは一筋縄ではいきません。彼らはどのような思いで、キャリアを切り拓いていくのでしょうか。
今回取材したのは、早稲田大学出身の医師らで構成される稲門医師会で理事を務める杉原正子氏。自身もIT企業のシステムズエンジニアとして経験を積んでから医師になったという経験を持つ杉原氏は、「回り道医師」だからこそできる貢献があると語ります。

 社会に出てから感じた違和感「機械は愛せない」

―まず、先生自身が一般企業を辞めて「医学部に入り直そう」と考えたところまでの経緯を教えてください。

masako.sugihara1新卒入社したIT企業を辞めたのは、社会人6年目、システムズエンジニアとしての業務にも慣れ、取引先でも人と人のつながりができてきたころのことでした。当時のわたしは、人の役に立てることがうれしく、サービス業が向いていると感じていた半面、ビジネス上の制約もあって会社のサービスの枠組みを超えた貢献がしづらいことに、もどかしさを感じていました。
「仕事で出会う人たちのことは愛せるけれど、商材として扱っている機械のことを、生涯かけて愛することは自分にはできない」と、退職を決意しました。大学の文学の教員になろうと思い、大学院で学びながら、東京都内の高校で国語の非常勤講師として働くことになりました。

―会社を辞めてすぐ医師になろうと思ったわけではないのですね。

そうですね。医師になろうと思った直接のきっかけは、高校で非常勤講師として働いていたときに、医療系志望の生徒に小論文を教えるようになったことです。「脳死の患者さんへの臓器提供について800字で述べよ」「安楽死に関する自分の意見を述べよ」など、医療者でもすぐには書けない課題も多く、もと理系というだけで医療に疎かったわたし自身、知見を深めようと、闘病記を読むようになりました。ところが、気づけば200冊、300冊と読み続け、どんどんのめり込んでしまって―。

―そこで医療にのめり込むようになった。

はじめは自分でも不思議でした。どうして闘病記に描かれている患者さんやご家族の思いに、こんなにも共感したり、気持ちを揺さぶられたりするのだろうか、と。

しかしあるとき、母が病弱で、わたしが生まれる前から病に悩まされていたこと、母とのふれあいの中で、医療が自分にとってとても身近な存在であったことに初めて気づいたんです。自分の原体験に気づいた瞬間、「医師になって医療に貢献したい」という強い思いがこみ上げてきました。高校は進学校に通っていたため、医師になった友人はたくさんいたのですが、自分が医師になりたいと思ったのは、そのときが初めてでした。

―当時、「本当に医師になれるだろうか」といった不安はなかったのですか。

masako.sugihara2医師になりたいと考え出したのが30歳過ぎということもあって、確かに家族からは「難しいのではないか」とも言われました。ただ、やりたいと思ったら、その気持ちは止められませんでしたし、もともと理系だったので、受験勉強のイメージもわきました。医師になって、臨床家として目の前の患者さんと向き合うとともに、医療政策、医療倫理、医学教育などの課題にとことん向き合い、社会に還元していきたい―そんな思いが自分を突き動かしていました。
非常勤講師として働きながら受験対策のため予備校にも通い、山梨大学医学部に一般枠で入学しました。山梨大学を選んだ理由は、都心に出てきやすいため週末に勉強会や学会に参加しやすく、わたしと同様に社会人経験を経て入学する人も多いと聞いていたからです。現在は、医師6年目の精神科医として横須賀市の久里浜医療センターで働いています。

稲門医師会会員のデータから見えてきたこと

―現在、早稲田大学出身者でつくる稲門医師会の理事を務めていらっしゃいますが、ご自身の経験や稲門医師会の様子から、「回り道医師」のキャリアにはどのようなことが言えそうでしょうか。

稲門医師会の医師のアンケート調査で今回回答のあった66人のデータによれば、医学部入学時点の年齢の中央値は26歳でした。大学院に進んだり、一般企業勤務などで社会人経験を3-4年積んだりしてから医師を志した方が多いものの、30~40代になってから医学部に入り直した方もおり、各年代に分散している結果となりました。
出身学部は、理系が約6割、文系が4割と、文系出身者も大きな割合を占めており、学科別に見てもかなり多様です。早稲田大学が東京都にあることもあるからか、現在の勤務地は関東近郊が多いものの、「郷里に戻って働ける仕事がしたい」と医師になった人もおり、全国各地に散らばっている状況です。

―稲門医師会の医師たちが医師を志したきっかけは、どういうものなのでしょうか。

同じアンケートの結果を見ると、「人を救う仕事をしたかった」「身近に医療者・患者がいた」「学問として医学に興味を持った」という3項目が特に高い結果となっています。こうした結果を反映してか、厚生労働省の「医師調査」による、一般的な医師の割合より顕著に多かった専門診療科は、精神科、神経内科、リウマチ科、呼吸器内科、消化器外科など、「患者さんを全体的に診られる診療科」です。ちなみにわたし自身は、精神科、内科、救急科のどれに進むかで悩み、最終的には精神科を選びました。尊敬できる教授に出会ったこともありましたが、精神科は、患者さんへのアプローチや研究の方法も非常に多様なので、自分の問題意識をもとに自由に活動できると思ったのです。結局、どの診療科を選ぶか以上に、自分がどういう医師になりたいかの方が重要なのではないか、とも思いました。

アンケート結果で、逆に、一般の医師より割合が低かったのは、外科、整形外科などでした。多忙な科の医師は回答率が低い可能性があるため、今回の結果だけでははっきりしたことは言えませんが、「回り道医師」にとって、基礎的能力の習熟に長い年数を義務付けられる診療科は、ハードルが高い傾向にあります。「回り道医師は楽な科を選ぶ」という偏見を持つ方がいますが、楽な科を選ぶ人は若者にもいますし、また、「やり直すからこそ大変でも本当にやりたいことをやりたい」という声もよく聞きます。大学院(メディカルスクール)が医師養成機関となっているアメリカでは、たとえば内科・小児科の専門医資格を同時に取れるようなプログラムが構築されていますが、このように柔軟性のあるプログラムがあれば、「回り道医師」も、そうでない医師も、キャリア構築の幅が広がるのではないでしょうか。

多様性のある医師集団をつくるために

―回り道をして医師になったことで、メリットを感じたことはありますか。

アウトサイダー的な視点を持って医療に携われることは一つの強みだと思っています。もちろん、医療界の外の常識が常に正しいというわけではありませんが、医師としての働き方や院内連携、患者さんの治療やケアにおいて、もし、医療の外の世界の視点をもっと取り入れれば、状況がかなり改善されるのではないか、患者さんとご家族はもっと幸せなのではないか、と思う場面も数多く見てきました。

しかし、現状、「回り道医師」への社会的な評価は、二極化している印象です。「視野が広く優秀な人も多い」という声もあれば、「楽な仕事を欲する医師が多い」という声もあります。この理由として推測されるのは、「回り道医師」に関する一般的な情報も統計的なデータもまだ不十分であり、医療者も非医療者も状況をつかみきれていないということです。ですから、今後、現状分析をしっかりと行い、医師教育・医療業界のあり方に対し何らかの提言ができればと考えています。

社会構造が複雑化するに伴い、社会が求める医師像も、近年、急激に変わりつつあると感じます。「柔軟で、適応能力を持ったしなやかな人材」が求められ、多職種連携の重要性が注目されているいま、多様性にあふれた医師がリーダーシップを取っていくことが大切ではないでしょうか。稲門医師会をはじめ、「回り道医師」の存在が、医療界の多様性を切り拓く突破口になればと考え、気を引き締めて努力していきたいと思います。

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