1. m3.comトップ
  2. キャリアデザインラボ
  3. ノウハウ
  4. インタビュー
  5. うつ病を経験した医師が語る、心身のセルフマネジメント―宮島賢也氏
インタビュー

うつ病を経験した医師が語る、心身のセルフマネジメント―宮島賢也氏

2017年8月31日

長時間労働の是正に向け、本格的に舵を切り始めた「働き方改革」。医師については5年間の適用猶予期間が設けられていますが、研修医の過労自殺や残業代訴訟が騒がれるなど、改革待ったなしの状況が続いています。体制が整うまで時間がかかる中、ますます重要性になるのが心身のセルフコントロールです。今回は、自身もうつ病罹患経験のある精神科医の宮島賢也氏(YSこころのクリニック・院長)に、自身の体験を踏まえながら、医師のメンタルヘルスケアに関する課題と改善策を聞きました。

うつ病を乗り越え、精神科医へ

―まず、ご自身がうつ病を患われた経緯を教えてください。

宮島賢也出身の防衛医科大学校病院は、2004年の初期臨床研修が始まる前から、総合的な臨床医を育てるためのローテーション研修を行っていました。
もともと子どもから高齢者、男女関係なく診療できる医師を目指していたので張り切っていましたが、採血からカルテ書きまで、何でも完璧にしなければならないと思い込み、同期の中でも要領の悪さが目立っていました。2年目から専門を循環器科としましたが、朝から晩まで病院にいて、ポケットベルを24時間携帯する日々。当時、すべてのコールは研修医が受けていたので気が休まる日はありませんでした。その後、調子を崩して1ヶ月お休みをもらいましたが復職しても意欲が戻らず、精神科を受診したところ、うつ病と診断されました。

―率直に、その原因は何だったと思いますか。

24時間365日の過労はひとつの原因だったと思います。あとは、生真面目で責任を感じる場面が多く、もう少しマイペースに働けばよかったかなと思います。

そもそも精神疾患にかかる原因には、環境原因と根本原因があります。環境原因は過重労働や人間関係など外的な影響によって引き起こされるもの。転職などで環境が変われば、ある程度改善することがあります。わたしは、うつ病診断後に大学病院から自衛隊の病院に異動して、専門を精神科にしました。オンオフが切り替えられ、診察中も相談できる環境があったので、服薬しつつではありますが欠勤することなく働き続けました。

一方、根本原因は手付かずになりがちですが、自分の根っこにある考えのことで、遺伝や生育歴など、過去の記憶が大きく影響しています。当院にも、医師や医師のお子さんが受診されることがありますが「勉強ができないと親から認めてもらえなかった」「医者以外の職業を選べなかった」と口にする方がいます。こうした過去の経験が、現在の根本要因につながっている可能性があるのです。そのため、折を見て自分の過去を振り返り、嬉しくなかったことも含めて「これでよかった」と思うことを書き出してみると良いと思います。

明日から実践できる、習慣と考え方

―日々の忙しさに追われている医師が、具体的に気をつけるべきことは何ですか。

食生活は、工夫する余地があるかもしれません。わたしも以前はゆっくり食事ができず、コンビニのパンやおにぎり、健康ドリンクなどが定番メニューでしたが、うつ病を患ってからは野菜や果物を多めに摂るようにしています。また、当直が多いと睡眠不足になりやすいので、ちょっとした時間でも横になって休める場所をつくっておくと気持ちが楽になると思います。

―考え方の面で気をつける点はありますか。

人と比べないことだと思います。現在、当院で取り入れているメソッドに「満月の法則」というものがあります。月は、満月や三日月といった変化がありますが、三日月という月は存在しません。たまたま太陽の光が当たっているだけで、元々はまんまるですよね。これと同じことが人間にも言えて、どこかが欠けているように見えても、本当の自分はまんまるなので、そのままの自分を受け入れようという考え方です。
この法則に気づくと、自然と前向きになる方が多いです。わたし自身も「自分が患者さんを治す」のではなく「病気は患者さん自身が治す。自分はサポート役だ」と思えたとき、楽になったのを覚えています。

医師を守り、誰もが働きやすい場づくりを

精神科医―現在の医師の働き方に関して、改善すべき点は何でしょうか。

今や医師の3割が女性です。そのため、産休・育休・介護休暇のとりやすさをはじめ、これからは女性の働きやすさを基準に、医師の働き方を検討していくことが大切ではないでしょうか。たとえば、完全主治医制ではなく副主治医制やチーム制にすれば交代要員ができ、いざという時も休みやすくなります。一方、そうした複数担当制で陥りがちなのは上下関係が厳しいヒエラルキー制。できれば、医師同士はもちろん、コメディカルや患者さんと対等な関係を築きたいですね。

また、実働に見合った給与保障も大切だと思います。アルバイトをしなければ生活が成り立たない研修医がいるとすれば、本来休むべき時間も働いているので、当然疲弊します。自己研鑽は労働時間に入るのかという議論も起こっていますが、最低限の生活は守られるよう配慮してほしいです。

そして、もし、皆さんが働く医療機関で医師が倒れてしまったら、病院全体の仕組みや勤務状況を振り返るときかもしれません。「今まではできた」といった前例にとらわれず、人員状況や職員のワークライフバランスを見直す機会と捉えてもらいたいと思います。

今後のキャリア形成に向けて情報収集したい先生へ

医師の転職支援サービスを提供しているエムスリーキャリアでは、直近すぐの転職をお考えの先生はもちろん、「数年後のキャリアチェンジを視野に入れて情報収集をしたい」という先生からのご相談も承っています。

以下のような疑問に対し、キャリア形成の一助となる情報をお伝えします。

「どのような医師が評価されやすいか知りたい」
「数年後の年齢で、どのような選択肢があるかを知りたい」
「数年後に転居する予定で、転居先にどのような求人があるか知りたい」

当然ながら、当社サービスは転職を強制するものではありません。どうぞお気軽にご相談いただけますと幸いです。

エムスリーキャリアは全国10,000以上の医療機関と提携して、多数の求人をお預かりしているほか、コンサルタントの条件交渉によって求人を作り出すことが可能です。

この記事の関連キーワード

  1. ノウハウ
  2. インタビュー

この記事の関連記事

  • インタビュー

    男性医師4人が時短勤務。亀田ファミリークリニック館山院長に聞く“快諾”の理由とは?―パパ医師の時短勤務(3)

    亀田ファミリークリニック館山(常勤換算医師数16人) は、家庭医診療科医長の岩間秀幸先生を皮切りに、家事や育児を理由とした男性医師の短時間勤務が続いています。2020年は、4人目の男性医師の時短勤務が始まる予定です。クリニック管理者として見ると、マンパワーが落ちるという側面も持つ時短勤務ですが、岡田唯男院長は、岩間先生から最初に時短勤務の相談をされたときどのように感じたのでしょうか。社会的にはまだ多いとは言えない男性医師の時短勤務を快諾する理由とは?

  • インタビュー

    社員の4割がリモートワークの会社で、産業医は何をする? ―産業医 尾林誉史先生×企業の語り場 vol.3

    株式会社Kaizen Platformは2013年の創業時から従業員のリモートワークを実施。日々従業員の4割はオフィスに出社していません。そうした環境下で人事・労務スタッフはどのようにアプローチするのでしょうか? HR部部長の古田奈緒氏と、同社の産業医を務める尾林誉史先生に実情を伺いました。

  • インタビュー

    産業医10名を1拠点に集約!産保先進企業の働き方―日立健康管理センタ産業医鼎談(後編)

    産業医歴1年目の若手から経験30年超のベテランまで、常勤医10名ほどが集まる日立健康管理センタの産業医、林先生・渡辺先生・朝長先生の3名へのインタビュー後編。

  • インタビュー

    臨床との違いは?常勤産業医の働き方―日立健康管理センタ産業医鼎談(前編)

    産業医歴1年目の若手から経験30年超のベテランまで、常勤医10名ほどが集まる日立健康管理センタ。医師のキャリアとしては多くない「常勤産業医」の働き方について、同施設の産業医3名に聞きました。

  • インタビュー

    42歳で食事本を上梓し相次ぐ講演依頼、開業へ―医師による、医師のための健康ライフハックVol.4(後編)

    ヒトでのエビデンスに裏打ちされた食事術を解説した本『医師が実践する超・食事術-エビデンスのある食習慣のススメ-』(冬樹舎、2018年)の著者である稲島司先生。後半では、著書の担当編集者である佐藤敏子さんのコメントを交えながら、本を上梓したことで変化したキャリアや今後の目標について語っていただきます。

  • インタビュー

    循環器内科医師が実践、エビデンス重視の食事術―医師による、医師のための健康ライフハックVol.4(前編)

    巷に溢れる数々の「健康的な食事術」。玉石混合な情報が飛び交う中、エビデンスに裏打ちされた食事術を紹介する話題の本があります。その名は『医師が実践する超・食事術-エビデンスのある食習慣のススメ-』。今回は、著者であるつかさ内科院長の稲島司(いなじまつかさ)先生にインタビューを実施しました。

  • インタビュー

    酒好き肝臓専門医が一押しする飲み方(後編)―医師による、医師のための健康ライフハックVol.2

    肝臓専門医として『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社、2017年)を監修し、お酒の飲み方のスペシャリストとしても注目を集めている浅部伸一先生(アッヴィ合同会社)。2017年から外資系製薬会社の開発マネジメントを行うかたわら、地方での訪問診療も精力的に行っている異色かつバイタリティ溢れる医師です。後編では二拠点生活から見えてきた地方と都市の治療の違い、そして健康を維持しながらお酒と付き合うためのポイントを伺いました。

  • インタビュー

    お酒をライフワークにした肝臓専門医(前編)―医師による、医師のための健康ライフハックVol.2

    肝臓専門医として『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社、2017年)を監修し、お酒の飲み方のスペシャリストとしても活躍されている浅部伸一先生(アッヴィ合同会社)。消化器内科としての研さんを積んだ後、国立がんセンターやカリフォルニア留学で肝炎ウイルス・免疫の研究活動を行い、2017年からは外資系製薬会社の開発マネジメント職へ転身しました。前編では、肝臓専門医になった経緯から製薬業界に転出した理由について伺いました。

  • インタビュー

    心臓血管外科医が伝授!集中力を保つ術(後編)―医師による、医師のための健康ライフハック Vol.3

    バイパス手術を中心に高度の技術を要する心臓血管手術を年間300件以上もこなし、「心臓手術のスーパードクター」として注目されている、東京女子医科大学の新浪博士先生。国内で一流の外科医として活躍するかたわら、タイやミャンマーでも精力的に医療支援活動を行っています。後編では日本と東南アジアにおける医療の関わりや、日々難しい手術に従事している新浪先生が集中力を保つための秘訣を伺いました。

  • インタビュー

    付加価値を身に着けた心臓血管外科医(中編)―医師による、医師のための健康ライフハック Vol.3

    高度な技術を要する心臓血管手術を年間300件以上もこなし、「心臓手術のスーパードクター」として注目されている、東京女子医科大学の新浪博士先生。海外で心臓血管外科医としての実績を積んだ後、天野篤先生と出会ったことがひとつの転機になります。中編では、天野先生から受けた影響や、ナンバーワン医師として患者と関わる際に大事にしていることを伺いました。

  • 人気記事ランキング

    この記事を見た方におすすめの求人

    常勤求人をもっと見る