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インタビュー

男性医師4人が時短勤務。亀田ファミリークリニック館山院長に聞く“快諾”の理由とは?―パパ医師の時短勤務(3)

2020年2月19日

亀田ファミリークリニック館山(常勤換算医師数16人) は、家庭医診療科医長の岩間秀幸先生を皮切りに、家事や育児を理由とした男性医師の短時間勤務が続いています。2020年は、4人目の男性医師の時短勤務が始まる予定です。クリニック管理者として見ると、マンパワーが落ちるという側面も持つ時短勤務ですが、岡田唯男院長は、岩間先生から最初に時短勤務の相談をされたときどのように感じたのでしょうか。社会的にはまだ多いとは言えない男性医師の時短勤務を快諾する理由とは?(取材日:2020年1月21日)

勤務時間が短くなっても長期間、働いてもらいたい

――貴院では、岩間秀幸先生が家事や育児のために2015年から3年間、時短勤務をされています。男性医師の時短勤務は貴院で初めての事例だったそうですが、岩間先生に時短勤務を相談されたとき、どのように感じましたか。

時短勤務は女性医師では何人も実績がありましたから、性別が変わったからと言って、管理者として特別困ることはありません。うちの医師には、勤務時間は短くなったとしても長く働いていただきたいと思っているので、岩間先生の時短勤務はためらいなく承諾しました。

――男性医師の時短勤務に抵抗はありませんでしたか。

私も20年前に、育児休暇を取ろうとして断念した経験がありますので、岩間先生が時短勤務を選択された気持ちはよくわかります。

当時医師になって7年目でしたが、そのうち卒後1年間は米軍病院に、5年間はアメリカにいたので、男女がともに育児をし、ともに働くという姿が当たり前だと捉えていました。
アメリカには当時、夫婦で同じ研修病院を選択し、家庭医の研修を受けている同僚カップルもいました。家庭医の専門医を取るには3年間の研修が必要なのですが、その夫婦は2人で子育てをしながら6年かけて研修をしていました。最初の年は夫がフルタイムで研修し、妻が子育てをする。2年目は交代して妻がフルタイムで研修し、夫は数コマの外来を残したまま育児、家事の担当になる、その次の年は交代して……という形で、結局彼らはそれぞれが外来を6年継続できるという得もしたのです。同僚たちも彼らを特別な夫婦として見ておらず、普通のこととして受け止めていました。

そんな社会から日本に帰り、自分も子どもが生まれることになったのですが、当時勤めていた職場に育児休暇を取りたいと伝えたら、「育児休暇の取得は、共働きの場合に限る」という職場の規約があったことを理由に断られました。うちは妻が専業主婦で、私もそのときは「妻は家にいるし、一理あるな」と納得してしまったのですが、今は日本も時代が変わりましたね。

――岩間先生が時短勤務を始めるにあたり、話をされたことがありましたか。

性別に限らない話ですが、時短勤務の方が働きにくくなるのは、現場の不公平感が生まれたときだと感じています。医師の場合、当直や時間外勤務などがありますので、そこに対して同僚の不満が生まれないように配慮したいと思いました。特に岩間先生の場合は男性医師で初めての時短勤務でしたので、うまくいかないと次が続きません。
事前にしっかり岩間先生と相談し、不公平感が出ないように、勤務時間に合わせて給与も調整することになりました。

多様な医師が働く職場の方が面白い

――岩間先生は時短勤務を経て、フルタイム勤務に復帰後、後期研修プログラムの責任者になりました。時短勤務中にプログラム環境の整備や書類作成を進めたということでしたが、上司としても狙いがあったのでしょうか。

もともと研修プログラムの責任者は私だったのですが、私の方から岩間先生に「特にこの仕事を」とお願いしていたわけではありません。
岩間先生が時短勤務だったタイミングは、ちょうど新専門医制度に向けて、うちのクリニックも、研修プログラムを整備しなければならないときでした。しかし、みんな通常業務がありますので、書類作成などには手がなかなか回らなかったんです。そんな中、彼が家事や育児の合間に、率先して業務を進めてくれました。結果として、彼がプログラムのことに一番くわしくなったので、私も安心して彼に責任者を譲ることができました。

――貴院は時短勤務に限らず、医師が柔軟な働き方をしやすいクリニックだと聞いています。

もともと働き方に幅があるんです。うちのクリニックは常勤医師以外にも、非常勤医師が家庭医だけで13人と多く、中には月1日、2日という働き方の人もいます。その13人の勤務時間を合わせても常勤換算で0.75人分と、1人分にならないくらいです。

ほとんどが当院の後期研修修了者で、本人たちの希望で継続して勤務してもらっているんです。家庭医は後期研修が終わると、診療所などの小さな職場に就職することが多いので、他の家庭医と定期的に学ぶ機会や相談する場を持ち続けたいという動機があるようです。そういうわけで、色々な働き方をしながら、お互いを尊重するという風土はあるかもしれません。

そういう土壌がある中で、岩間先生の時短勤務が始まりました。その後、彼に続く男性医師たちがいて、もうすぐ4人目の男性医師の時短勤務が始まる予定です。

――それだけ多くの人の多様な働き方をマネジメントするのは大変ではないですか。

たしかにマネジメントの複雑さは増しますが、それを面倒だとはねのけて1だったものが0になるか、0.5にするかの選択ですね。医師を新規で雇用するコストは大きいですし、働き始めてもうちのクリニックに慣れるまでには時間がかかります。多様な働き方をしながらでも長く働いてもらえるように、組織や管理者が包容力を持つ方がいい。もしかしたら、そんな噂を聞きつけて、フルタイムかやめるかしかなく時短が認められないために、ほかの病院やクリニックで働くことをあきらめていた医師が、うちで働きたいと思ってくれるかもしれません。

もちろん、多様な働き方を実現するにはマネジメント力が必要です。フルタイム医師1人と、合わせてもフルタイム1人分にも満たない13人の非常勤医師を比較すると、管理が簡単なのは間違いなくフルタイム医師1人ですよね。
一方で、毎日メンバーが固定化されている職場より、13人の多様な医師が出入りしている職場の方が面白いという考え方もできます。

鎖の強さは、一番弱い部分の強さで決まりますが、これは組織も同じです。
フルタイムの人を1とするなら、0.5の人も大事にできないと、そこから組織は弱くなりま
す。また時間的には1でも0.4ぐらいの仕事しかできない人や、時間的には0.2でも0.6ぐらいの役割を担ってくれる人もいます。組織づくりの観点からも、時間という物差しだけで判断するのではなく、仕事内容や貢献度も踏まえて、柔軟な働き方が尊重されるクリニックでありたいと思っています。

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