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インタビュー

「あいつは臨床ダメ」を覆した仕事術(前編)―医師による、医師のための健康ライフハック Vol.3

2019年3月10日

バイパス手術をはじめ、高度な技術を要する心臓血管手術を年間300件以上こなし、「心臓手術のスーパードクター」として注目されている、東京女子医科大学の新浪博士先生。医学部卒業後は大学院で研究活動を続けながら、東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所外科に入局。その後も、アメリカやオーストラリアへ留学し、最先端技術に触れながら心臓血管外科医として腕を磨きます。前編では、心臓血管外科のスペシャリストになるまでの経緯を伺いました。(取材日:2018年11月19日)

手先の器用さを活かし、命にかかわる仕事がしたい

―まず、医師の道を選ばれた理由を教えてください。

小学生の頃、父と同い年の叔父が開業歯科医だったので「歯医者になって跡を継げばいい」と母が勝手に言っていました。なぜかというと、私は手先がすごく器用だったから。プラモデル作りが好きだったし、夏休みの工作ではいつも賞をいただいていたので、不器用な兄(現サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長・新浪剛史氏)とは対照的に「あなたは器用だから、手に職を持った方がいい」と家族や親戚から褒められていました。

とはいえ、私の身近に医師がいなかったので、はじめから医師になりたいとは思っておらず、手先を使う医療系の仕事で、命に直接かかわる仕事がしたいと漠然と思っていました。そんな矢先に出会ったのが、小説『白い巨塔』。当時私は高校生で、医療の「イ」の字もわかりませんでしたが「外科医になって財前五郎みたいな教授になりたい」と感化され、憧れました。私が医師になったのはそんな稚拙な理由です(笑)。仕事に就くためのきっかけは必要ですが、モチベーションなんて何だっていいんですよ。

—その後、進学した群馬大学の医学部では、どんな学生生活を過ごしていましたか。

2年生までは数学、物理、ドイツ語をはじめとする教養がメインでした。受験勉強がそれなりに大変だったから、最初の2年間は遊ばせてもらおうと思って医学には一切関わらず、剣道部の活動や同級生との飲み歩きをして過ごしていました。

3年生で医学の登竜門である解剖学の実習が始まり、4年生になってやっと解剖学教室に出入りするようになりました。医学は臨床系(内科、外科、小児科など)と基礎系(生化学、生理学、解剖学など)に分かれていて、私が研究に興味を持ち始めた頃に、東京大学医学部から赴任してきた解剖学の石川律先生と出会いました。今でも私のメンターになってくれている石川先生とは、抄読会を開いたり、お酒を飲みながらいろんな話をしたりしましたね。4年生の夏には、兄がアメリカにあるスタンフォード大学へ留学することになったので、私もついていきました。その時は石川先生がスタンフォードの研究仲間を紹介してくださり、現地の先生や医学生の実験の手伝いをしながら解剖学の知識を深めることができました。

—医学部卒業後は解剖学の研究を続けるために、大学院に進学されたそうですが。

はい、研究を続けるために東京女子医科大学の大学院に進学し、同時に東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所外科に入局しました。解剖学の中でも細胞生物学を専門にしていましたが、正直、基礎医学は「本当に頭いい人でないと無理、僕の能力では難しいな」と痛感しました。その頃から手先の器用さを活かして心臓血管外科か脳神経外科に進みたいという意志が強くなっていきました。

一流の外科医になるために、視野を海外へ広げる

—国内で研さんを積むのではなく、アメリカに留学して、心臓の専門医として研究を深めたきっかけを教えてください。

基礎医学は向いていないと思っていた頃に、石川先生が「こんな記事が出ているよ!」とニュース雑誌『TIME』の記事を見せてくださって。その内容は、重症心臓に自分の骨格筋を巻いてサポートする、いわゆる補助人工心臓が始まったというニュースでした。私が大学院で研究していたテーマが筋肉だったので、このニュースは私の研究と興味が合致しました。それで、骨格筋の心臓補助を研究するためにアメリカ(デトロイト)へ留学。約2年間で10編くらいの英語論文を書くことができ、高い評価もいただきました。

しかし帰国後、同級生や先輩たちから「アイツは、研究はできるけど臨床は全然ダメだ」とレッテルを貼られてとても悔しかったことを覚えています。日本は専門医が多いので、自分にまわってくる手術の数はたかが知れている。「このままでは、自分は一流の外科医になれない」―そう感じて再度海外へ目を向け始めました。

—臨床経験を積むために2度目の留学先として、オーストラリアを選んだ理由は何でしょうか。

医学雑誌の「留学体験記」に載っていた南淵明宏先生(心臓血管外科医)の手記に影響を受けたことと、オーストラリアではすでに骨格筋を心臓に使う臨床を行っていたからです。

そもそも心臓病は、食生活や遺伝的な要因もあり、アメリカやヨーロッパに住む白人に多い病気です。オーストラリアも欧米と同じ傾向があり、人口は日本の7分の1でも手術数は日本の約半分という実績がありました。だから心臓手術を経験するには最適な環境だったのです。

―実際に留学されて、いかがでしたか。

最初に入ったメルボルンの施設は、心臓移植のメッカだったので移植の手術は十分に経験できましたが、それ以外の一般的な手術はやらせてもらえなかったので満足はできませんでした。そこでシドニーにあるロイヤルノースショアホスピタルという施設へ移り、バイパスをメインに手術の腕を磨きました。天才外科医ドン・ロス先生に臨床上のメンターになっていただき、いろいろと教えてもらえたのが光栄でしたね。

—オーストラリアで多数の手術を経験されて、気づいたことはありますか。

外科医は件数にこだわるべきということです。

シドニーの病院は外科医が少なく、70人くらいしかいませんでした。これにはちゃんとした理由があり、医師が多いと一人当たりの症例数が少なくなって医師の技術レベルが下がってしまうからです。当時は「ミニマムナンバー200」と言って、一人の医師が年間200件以上こなさないと手術の腕を維持できないという考え方がありました。一方、日本の心臓血管外科医の年間手術件数は平均で約30件。そんな環境で外科医はどうやって技術を維持できるのでしょうか。

だから私は件数にこだわって「300件位やっていれば世界の水準に達する」と主張しています。そうやって実績を積んでいると「あの先生のところに行けば大丈夫」と、患者さんから来てくれるようになります。現在も年間600件近くの手術実績があり、所属している東京女子医大の中で200件、外部で100件、残りの300件は大学の所属スタッフが対応し、難しい部分を私が担当しています。

―新浪先生が得意とするバイパス手術のメリットは何でしょうか。

医療費が安くなり、手術の時間も短縮され、患者さんへの負担が軽減できることです。こうしたメリットが認知されてきて、日本でも最近やっと専門医の導入が検討されるようになりました。しかし、私たちの時代は技術的な試験もなかったのでセルフトレーニングをする必要があり、到底、欧米先進国の医師と戦えるレベルではありませんでした。

子供の頃から手先が器用だったことで医療の仕事に興味を持ち、小説『白い巨塔』に感化され外科医を目指したという新浪先生。より高い知識と臨床技術を求めてアメリカやオーストラリアで留学経験を積んだバイタリティから、後にスーパードクターとなる素質を備えていたといえるでしょう。中編では、心臓外科医の名医・天野篤先生との出会いから一流の外科医になるまでの経緯を紹介します。

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