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インタビュー

「何のために医師になるのか」医師の卵たちの憂鬱への処方せんは?―正木稔子氏(Doctors’ Style代表)

2016年12月12日

「自分が医師に向いているのか分からない」「どんな人生を歩んでいくべきか迷っている」―医学生や若手医師が抱える等身大の悩みに応じるべく、全国を行脚してキャリアイベントを開催しているのが、正木稔子氏(Doctors’ Style代表)です。
自身も医師として悩み多き日々を送ってきた一方、相談相手がいないことに苦しんだという正木氏。「同じように感じている医学生や医師はきっといるはず」という素朴な問題意識で2014年からはじめた数人規模の“名もない小さな会”は大きな反響を集め、いまや多い時で70-80人が集まる全国規模のイベントに成長しています。
臨床、研究、家庭生活やプライベートの充実――人生を歩む上で遭遇する数多くの出来事に、どのように向き合っていくべきか。正木氏が伝えたい思いを聞きました。

「何のために医師になるのか」医学部で感じるギャップ

―医学生・若手医師は具体的に、どんな悩みを抱えているのでしょうか。

一概に言えない面はありますが、「自分が何のために医師になるのか、これからどうしたらいいのか」と悩む医学生・若手医師は多い印象です。「親の期待に応えるために医師になった」「成績が良かったから医学部に入った」と、半ば周囲に流されるように勉強を頑張り続けた末に医学部に入学したけれど、あるときふと違和感を覚えてしまう。「医師とはこうあるべき」という高い理想と自分の現状に、ギャップを覚えてしまうというケースです。

01-big医学部進学者には優秀な方が多いので、多少ギャップを感じたとしても、努力すれば成績や技術は向上させられます。膨大な勉強量で近視眼になり、本来の目的を見失ってしまうことも多いのです。それでも勉強さえできれば、悩みが「ない」かのように学年を上がっていくことは可能です。「そもそも何のために医師になったのだろうか」とふと思ったとしても現場に出ていない状態では重大な問題ではないため悩みに蓋をしてやり過ごせてしまいます。この話題を医学生に振ると彼らのいろんな思いが噴出しますね。

医師になって仕事がつらい時でも、「医師とはこういう仕事なのだから、弱音を吐いてはいけない」という暗黙のプレッシャーの中、周りに相談できず息苦しくなってしまう。ときにその息苦しさに押しつぶされそうにもなるけれど、多くの方にとって「医師をやめる」という選択肢は現実的ではありません。逃げ場がない状況なのに、「結局自分が人生で何をしたいのか」を突き詰めて考える時間もゆとりもなく、プライベートだって、決していつも順調なわけではない――そんな方は多いのではないでしょうか。

 「人生は思い通りにはならない」離婚を機に気づいたこと

―どうして、そんな医学生や若手医師の相談に応じるようになったのですか。

わたし自身が、周囲に悩みを相談できなかった医師の一人だからです。

02もともと親の期待を受けて医師になったということもあって、かつてのわたしは、自分が医師であることをなかなか肯定できませんでした。もちろん、「患者さんが笑顔になってくれてうれしい」とやりがいを噛みしめる場面も多かったのですが、“患者さんのため”だけを思ってがむしゃらに頑張っても、その思いが常に報われるわけではありませんし、疲れたときや、患者さんとの関係がうまくいかないときなど、ふと「望んでこの仕事を選んだわけではないのに」という気持ちがこみ上げてくる瞬間もありました。

ただ、わたしがどんな気持ちでいようが、患者さんは次から次にやってきますし、それを拒否することもできません。外科系を選択したので、体育会系の男性社会の中で、弱音を吐くことも、女性ならではの悩みを打ち明けることもできませんでした。当時はそうした環境にどこか違和感を覚えながらも、受け入れるしかないのだとも思っていました。

こうした気持ちを整理したのが医師4年目、離婚を経験したときでした。わたしにとってははじめて、人生が思い通りに行かなかった瞬間でした。そのときに「もっとよく人生について、考えておけばよかった」と後悔したんです。学生時代に先輩から結婚生活のことや人生について、話を聞いて、考えておけばよかった。成功体験も失敗体験も何でも教えてくれるような先輩がいてくれたら、自分は何か違ったかもしれない、と。

03学生時代から、「何年目に専門医を取ろう」というような“キャリアパス”はわたしの中にあり、実際思い通りに進捗させられていたのですが、結婚や出産といったライフイベントは、相手がいることでもあって、思い通りには進まないのだと痛感しました。“医師としてのキャリア”だけではなく「一個人としてどう生きたいか」を誰かに相談しながら考え、結婚が決まったときに仕事と家庭生活の優先順位も含めて、改めて人生設計すればよかったのですが、結婚当時研修医だったわたしには、「仕事が第一、家庭はどうにかなる」という漠然とした思いしかなかった。キャリアをコントロールできているのと同様に、家庭も自分でコントロールできると勘違いしていたんですね。だから歯車が狂って、離婚につながったのだろうと思います。

勤務医時代、周囲で自殺者が出ていたこともあり、医師を取り巻く環境には疑問を持っていましたし、結婚や出産に悩んでいる女性医師の姿も数多く見てきました。「わたしたちだってプライベートの悩みもあるのに、それを普通に話せる場がなぜないんだろう?医師には、若いうちに人生について考える機会が必要ではないか」という問題意識自体は持っていたので、「せめて後輩の医学生や若手医師には、そういう場を提供したい」という思いが、日に日に高まっていきました。

はじまりは、「小さな名もない会」

―その思いを行動に移したきっかけはなんだったのですか。

あるとき知り合いの医学生に、わたしの医師としての成功や失敗をざっくばらんに話してみたんです。そうしたら、「そういう等身大の医師の話をもっと聞きたい」と言ってもらえて。その医学生は、毎週のように足を運んでくれ、わたしの医師としてのキャリアに対する思いに熱心に耳を傾けてくれました。わたしは医局には属していないけれど、だからこそ彼に伝えられることもあると思って、医療の現実、医師の本音などを包み隠さず話しました。やがて彼は友人を連れてきてくれ、それがまた評判を呼んでどんどん医学生が集まって――これをより形にしようと、医学生主催のもと“名もない小さな会”としてイベントがはじまりました。現在ではわたしが主催者を引き継ぎ、ゲスト講師も招き、全国各地でイベントを開くほどになっています。

 

img_7613_cap参加者の中には、医師からの話を聞いて「実は自分が医師になっていいのか、ずっと不安だった」「医師として成功するためには、結婚生活や、出産や育児といったプライベートを犠牲にしなければならないと思っていた」と、これまで誰にも明かしたことのない思いを語ってくれた人もいました。医学生は医師に対して、高尚な人だと隔たりを感じていて、医学生が語る“あるべき医師像”は、ときに「理想が高すぎる」とも思います。しかし、その思いはすごく純粋で――医療現場の実情を知って忘れかけていたわたし自身の“志”を鼓舞されているような気持ちにもなるんです。わたしは彼らに恥じない存在でありたいし、彼らの情熱を応援したい。それが、この活動を続ける最大のモチベーションになっています。

「やらされている感」で医師をするのはもったいない

―全国でキャリアイベントをはじめて2年以上経ちますが、Doctors’ Styleのイベントは、医学生や医師にとって、どんな意味を持っているとお考えですか。

Doctors’ Styleのイベントが医学生や若手医師にとって、「自分の人生をポジティブにとらえるためのきっかけづくり」の場になれたら良いと感じています。これから医師としてどうなりたいのか。今後の人生をどう楽しく生きていくのか――若いうちにしっかりと悩み抜くための材料と、いざという時に相談に乗ってもらえるメンターに出会える機会を提供したいと思っています。イベントには幅広い年代の医師をお招きしています。医師の方からは「わたしなんかが学生さんに話してあげられることなんてないのでは?」とよく言われますが、医学生はありのままの医師の話を聞きたがっています。終了後「学生さんがわたしなんかの話を熱心に聞いてくれてうれしかった」と言ってくれる医師もいます。医学生はもちろん、医師にも気軽に話しに来てほしい。あえて飲み会の形式にしているのはそのためです。

04なにより、「やらされている感」で医師をするのは本当にもったいない。どんな職業でも同じことですが、主体的に仕事をするとやりがいや楽しみは倍増します。どんな経緯で医学部に入ったにせよ、今の環境をつくりだしたのは過去の自分の決断です。裏返せばこれからの人生をつくっていくのは、今の自分の決断なのだから、医学生や若手医師には、心に引っかかるものから目をそらさずにこれからどんな風に生きていきたいのかを考えて欲しいと話しています。その判断材料として、いろんなパターンの医師を見ること。これから何十年も医師をやっていくんです。先は長いから、焦らず着実に進んでほしいですね。

もちろん、かつてわたしが味わったように、人生は思い通りにはいきません。いくらしっかりと人生設計をしたところで、思わぬ出来事にさいなまれることもあると思います。ただ、思い通りに行かなかったとき、「なぜ自分が医師をやっているのか」という原点を持っていると踏ん張る力になると思いますし、人生に行き詰ってしまったとき、「そんなこと気にしなくても大丈夫だから」と肩の力を抜いて相談に乗ってくれる先輩がいてくれれば、ある程度のことは乗り越えられると思うんです。

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