薬剤師から医師へ異色のキャリアチェンジを果たした佐藤英之氏。鹿児島県の調剤薬局で働いた経験などから、地方医療における医師不足や、これに伴う患者の選択肢の少なさについて危機感を抱いていました。これまでの経験を活かし、佐藤氏が歩もうとしている道とは――。(取材日:2019年9月22日)
医療過疎地で抱いた危機感
――なぜ、薬剤師から医師になろうと思ったのでしょうか。
薬剤師だった頃、鹿児島県指宿市に開業した脳神経外科クリニックの門前薬局に勤務しました。指宿市周辺には病院が少ないため、脳梗塞など何かあれば40kmも離れた鹿児島市内まで救急車で運ばなければならない状況でした。そのため、常々危機感を持っていました。その半年後には、鹿児島県薩摩郡宮之城町(現さつま町)へ赴任。町内で唯一の小児科医院が院外処方を始めるため、門前薬局の立ち上げに加わりました。その医院は、多い時には1日で200人程診ることもあり、地方における医師不足の深刻さを痛感しました。この経験は、医師になろうというきっかけになりました。
その後は、宮城県古川市(現大崎市)の病院で勤務をしましたが、医師不足は同様で、このような地域の役に立てないものかと考え、ならば自分が医師になろうと、より決意を固めたのです。
異国の地で医師への挑戦
――国内ではなく、ハンガリーの国立セゲド大学医学部へ進学された理由は何でしょうか。
当初は、国内の医学部に学士編入で進学しようと思っていたのです。仕事をしながら受験勉強をしていましたが、予想以上に難しく「仕事を辞めて予備校に通う必要があるのかもしれない」と思うようになりました。そんな矢先に、ハンガリーの大学で日本人の募集を始めるという記事を見つけたのです。もちろん、英語で医学部の授業を受けれるのか、卒業できるのか、卒業後日本の国家試験を受けられるのだろうか、と不安はありました。しかし、子供の頃タイにいたことがあり、またいつか海外で生活したいとも思っていたので、これは絶好の機会だと思いハンガリーへ渡りました。
――帰国後に国家試験を受け、現在に至るのですね。
そうですね。ただ、帰国後の半年間は忙しかったです。海外の大学を卒業した人が国家試験を受けるためには、まず厚生労働省へ書類申請をする必要があります。ハンガリーの大学は卒業を6月、8月、10月と自分で選べるのですが、書類の申請期限が7月末なので、まずは6月に卒業して帰国、その後申請まで1カ月程度しかなく、間に合うか心配でした。
厚労省の書類審査に通ると、日本語診療能力調査があります。以前は単純な日本語の試験だったようですが、最近は日本人でも落ちるくらいの難易度に変わり、しっかりと準備する必要がありました。並行して、研修先を決めるための病院見学もしなければならず、かなり慌ただしかったですね。それを終えると、国家試験です。私は国家試験後に結婚式を挙げる予定だったため、薬剤師のアルバイトをしながらその準備と勉強をする時間を確保するのに苦労しました。大学を卒業した年度の国家試験では不合格になってしまいましたが、翌年には無事合格することができました。
医師不足の地域で、介護面にも寄与していきたい
――専門として、総合診療科を選んだのはなぜですか。
医師が少ない地域で、社会的背景等さまざまな要素を含めて患者さんを診られるようになりたいと思ったからです。薬剤師は、その患者さんが服用している全ての薬を把握することから全科横断的に健康増進に関わります。服薬コンプライアンスの向上を考える上で、家族状況や社会的、経済的な環境にまで目を向けていくことは非常に重要になります。加えて、医師と患者、医療従事者間の架け橋となり連携を強化する役割もあります。それらの薬剤師的な視点を持ちつつ、鹿児島県で経験した医師不足の地域で役に立つ医師になるのならば総合診療科が最もしっくりときたのです。
――今後、どのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか。
まずは医師としての技術を上げることが最優先です。力をつけてから、医師不足の地域を中心に、医療と介護の境目を低くする活動にも力を注いでいきたいと考えています。医師不足の地域では近くに病院はなく、診療所があっても病床数は少ない。そのため、患者さんを自宅で診るケースが多く、介護のニーズが高いのが実情です。そのため、地域の介護力をより強化しつつ、地域医療と介護が密に連携していくことが重要だと思います。現在、介護職員向けの勉強会を行うなど、できることから少しずつ始めているので、それを地道に続けていきたいと思っています。外来、在宅医療、介護施設など、さまざまな分野で働く方々が連携し、包括的に診る地域医療を実現することで、医師不足の地域を救う──そのために必要なスキルやコミュニケーション力を身につけていきたいですね。
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