北関東最大、50万人超の人口を有する栃木県宇都宮市。市内外に急性期病院が複数あり、在宅医療のニーズが高まっているこの地に、2016年4月、在宅医療専門クリニックが開院しました。院長の月永洋介氏は、「在宅医療も可能な限り治療から緩和ケアまで高い質を継続すべき」と考え、専門医の在宅医療への参入を奨励しています。月永氏が在宅医療専門クリニックを開業した想い、地域で担っていきたい役割についてお話を伺いました。(取材日:2017年9月13日)
このままでは、退院した患者さんの行き場がない
―泌尿器科医としてキャリアを歩む中、なぜ在宅医療専門クリニックを開業されたのですか。
地域医療の重要性が認識され始めた2008年、地域医療に携わるようになったことが大きな転機となりました。当時わたしは医師5年目。順天堂大学の医局に在籍していましたが、関連病院に転籍して、診療部長として泌尿器科を立ち上げ、全て1人でこなすことになったのです。そこで、患者さんが病院に長期入院できない実情や、治療が終わった患者さんを退院させたくても、退院後の受け皿である在宅医療の人手がまだまだ足りない状況を見て、一念発起しました。「体力のある若い医師が、在宅医療にもっと進出しなければならないのではないか。それならば、自分がその1人になろう」と思い、開業を決意したのです。
―開業地として、宇都宮市を選んだ理由を教えてください。
家族の生活にも影響が出てくることを考え、妻の実家がある宇都宮市に決めました。24時間365日対応でクリニックを運営しているので、何かあったときには子どもたちを預かってもらえますし、頼れる身内の存在が心強いですね。
また、宇都宮市周辺には自治医科大学附属病院や獨協医科大学病院、済生会宇都宮病院といった大病院が多く揃っているものの、在宅医療の受け皿がまだまだ不十分でした。人口50万人を超える中核市なので在宅医療のニーズは高く、病院としても退院後の受け皿を求めている状態で、在宅医療専門クリニックを始める環境として非常に整っていると感じました。
看護師の存在に助けられ、気付いたこと
―開業から1年半。どのようなところに苦労されましたか。
あまり苦労を苦労と思わない性格なのですが、あえて言えば、開業当初に看護師を雇わず、事務とわたしの2人で全ての業務に対応していたことでしょうか。資金面の問題もありましたが、当初は医師が1人いれば診療は十分回せると考えていました。しかし、開業して数カ月後に看護師が週1回手伝いに来てくれるようになったことで、そうではないことに気付かされたのです。彼女が1人入っただけで効率がグッと上がり、わたしは診察・診断に集中できるようになりました。恥ずかしながら、その時初めて、勤務医時代も看護師がいるから診療に集中できていたのだと思い知らされましたね。
―看護師の重要性を認識できたことで、クリニックに変化はありましたか。
この経験があったからこそ、看護師教育に注力すべきだと気付くことができました。当院は現在、看護師5人という体制を敷いているので、常勤医1人でも、200名の患者さんを診ることができています。
医師は、野球でいう監督。たとえば、在宅医療に熟知した看護師がアセスメントをプレゼンしてくれることで、医師はそれに応えていくだけで済み、結果的により多くの患者さんを診ることができる―。というように、在宅医療に精通した看護師たちがナースステーションのように機能すれば、スムーズに在宅医療に参入できる医師が増えるのではないかと考えています。病院勤務が長い医師は多くの臨床経験があるので、在宅医療においても質の高い治療ができると思いますし、言うなれば、それがわたしの理想とする在宅医療でもあります。
―なぜ、臨床経験豊富な医師が在宅医療に取り組むことが理想だと考えるのですか。
治療歴を意識しながら緩和ケアも行っていくべきだと考えているためです。患者さんにとって信頼できる人は、たとえ医師であってもそんなに多くはいません。信頼関係ができている医師に最期を看取ってほしいと思うのは、ごく普通のことだと思います。ただ、現実的に考えると急性期病院の医師にそこまで求めることは難しい。ですから、わたしを含め、高い専門性と経験を持つ医師が、在宅診療医として治療の質も維持しながら緩和ケアも取り組むべきだと考えています。その方が、患者さんにとって退院しても病院からの継続性を実感できるからです。
「あの在宅クリニックに頼もう」と言われる存在に
―今後は、どのようなことを目標に据えていますか。
大きく3つの目標があります。1つ目は、さらに治療の質を上げていくこと。実際に現在も「手術と抗がん剤治療以外は全てできます」と説明していますし、必要に応じて積極的な治療も行っています。治療の質を上げていくことで周辺の急性期病院から「あの在宅クリニックに頼もう」と依頼されやすくなり、治療から緩和ケア、お看取りまでを切れ目なく診てもらえる患者さんが増えるからです。
2つ目は、在宅医療でもここまでできることを学会などでアピールすること。在宅医療は治療ができない人が行きつくところという認識を払拭し、これまでの経験を活かしていきたい専門医かつ、在宅医療に興味を持っている医師の参入障壁を下げていきたいですね。
そして3つ目は、患者さんの数を2000人くらいまでに増やしていくこと。そのためにも、看護師の教育をさらに進めていきつつ、臨床経験豊富な医師を各科で増やしていくことが必須。体制をしっかり整えて、どんな疾患に対しても、治療から緩和ケアまで連続的に診ていける診療モデルを構築したいと思っています。
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