患者に寄り添う訪問診療を行いながら、エンドオブライフ・ケア協会の理事として看取りに関わる人材育成にも取り組む、めぐみ在宅クリニックの小澤竹俊氏。在宅療養支援診療所が制度化された2006年に開業してから、10年以上にわたり、在宅医療の第一線で活躍されています。団塊の世代が75歳を迎える2025年に向け、地域、そして日本全国の在宅医療を支えようと意気込む小澤氏に、在宅医のキャリアについて伺いました。(後編)
病院は数値、在宅では表情を重んじる
―ご自身の経験を踏まえ、病院勤務医と在宅医の違いを教えてください。
在宅医はすべての責任を負う覚悟が必要だと思います。専門外の科目も診なければなりませんし、点滴も看護師がするとは限りません。病院で行っているような説明が援助にならないことも多い。
患者さんがいるのは、病院ではなく生活の場なので、病院勤務医から転向した場合は頭を切り替える必要があるでしょう。たとえば、病院は管理をするために数値を判断指標としますが、生活で大事なのは顔の表情。診療で数値が悪くても表情が穏やかでさえあれば、良い医療を提供していると言えるのです。
―小澤先生自身が患者さんとどのように関わっているのかを教えてください。
患者さんとの関わりで最初に意識するのは「苦しんでいる人が自分の苦しみをわかってくれる人がいると嬉しい」ということ。具体例をあげて考えてみましょう。
病状 末期がん
家族構成 ご主人、12歳と10歳の子どもと4人暮らし
現在の様子 痛みはないが、母親として家事ができないことや子どもの行事に参加できないこと、親より先立つことに不憫な気持ちがあり、ふさぎこんでいる。
わたしの診療では、反復、沈黙、問いかけという技法を使ってコミュニケーションをとります。その人の苦しみをともに味わい、信頼関係を構築したうえで、どういう場面で穏やかな表情になるのかを探っていきます。そして、わかってきたのは次のようなことです。
痛みや息切れが少ない/自宅でご主人や子どもたちと過ごせる/大好きな庭を眺める/
お気に入りの音楽を聴く/子どもたちに自分が人生で学んで来た教訓を伝える/
ご主人に子どもたちの面倒を委ねる/お風呂に入れる/
得意だった料理(オムレツ)があったことを家族が忘れないでいる
そして、医療介護の専門職だけでなくご家族も含めて、今挙げたことを意識して関わっていきます。医師は痛みを和らげる、福祉用具の担当者は大好きな庭を眺めるためにベッドの調整をする、子どもたちは庭の花を摘んでくるなど。これがわたしの現場で起こっていることです。
患者さんの生活と向き合うことで、自分が「患者さんにこうしてあげたい」と思う医療が提供できるようになりましたし、検査や医療機器がなくてもある程度のクオリティで医療が提供できると実感しています。たとえ困難な事例でも、診療を通して患者さんが変わっていくとやりがいを感じます。
立ち食いそば屋に問う「夜中に出前できますか?」
―患者さんの細かな点にも向き合っているのですね。そうした魅力があるなかで、在宅医に転身する際のハードルは、どのようなところにあるのでしょうか。
先ほども言ったとおり、勤務医よりも責任範囲を広げる覚悟ができるかどうかが大きいでしょう。在宅医の夜間往診は、駅の立ち食い蕎麦屋さんに「夜中に出前できますか」と問いかけているのと同じ。日中忙しく走りまわるのはもちろん、皆が寝ている、ゴルフをしている、海外旅行に行っている、そんな時でもお酒を飲まずに家で待機。いつでも呼ばれる準備をして地域に骨をうずめることに、どれだけの医師が「分かりました」と言えるでしょうか。共感する医師は6割くらいいるかもしれませんが、実践する医師は少ないでしょう。10年以上続けられる医師はもっと少ないかもしれません。
思うに、志を持ち、誠実に夢を語れる医師は「4%」ほど。わたしはこの4%に入る自信を持って在宅医療と向き合っています。わたし自身の取り組みをもって、在宅医の魅力を紹介していきたいですね。
2025年は負け戦? 医師として、時代とニーズに応えること
―これから在宅医を目指そうとしている医師にメッセージをお願いします。
これからの医師は、時代や国民のニーズを察して、それらに対応した医療をすべきだと考えています。漠然と、自分が学んできた医療をやりたいというのは、今後通用しないかもしれません。
そもそも在宅医を目指す人には、何かしらのきっかけがあったはずです。そのとき、患者さんの力になりたいと思ったのであれば在宅医はそんなに難しくありません。必須資格もなければ、特別な手技もいらない。必ず道は開けると思います。
―小澤先生の今後の目標を教えてください。
患者さんと誠実に向き合い、どんな病気でも、どこに住んでいても、安心して過ごせる社会を目指しています。そのためには、自分の訪問エリアだけで良いと思ってはいません。クリニック内、そしてエンドオブライフ・ケア協会(以下、ELC)の人材育成を通して、全国で看取りができる人を輩出したいと思っています。2015年から始めたELCの養成講座には延べ1600人が参加。うち医師は2%で30人くらいですが、1人の医師が変われば30人の看護師が変わり、300人の介護士が恩恵を受け、3000人の患者さんが救われると思っています。2025年は亡くなる人が圧倒的に増える一方で、まだまだ在宅医が足りません。今からでも仲間を増やして社会を変えていきたいと思います。
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