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インタビュー

睡眠の専門医が語る 治療の魅力と快眠のコツ―医師による、医師のための健康ライフハックVol.1

2018年11月29日

井上雄一

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疾患概念が上陸したときから「睡眠」に着目し、30年以上にわたって日本の睡眠治療を牽引する井上雄一先生。理事長を務める睡眠総合ケアクリニック代々木では、専門とする精神科からのアプローチだけでなく、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、神経内科などとの連携で総合的な治療を行っています。今回、井上先生には今日に至るまでのキャリアと不規則な勤務で寝不足になりがちな医師へのアドバイスを伺いました。(取材日:2018年11月2日)

精神科医が「睡眠」を専門にしたわけ

―精神科医でありながら、「睡眠」という専門領域に進まれた理由を教えてください。

大学院で研究テーマを選ぶとき、精神科領域の中でも「睡眠」は生理学的検査などで結果が定量化しやすいことに魅力を感じました。わたしが医師になった1982年前後は、ちょうど欧米から睡眠時無呼吸症候群(SAS)の概念が持ち込まれた頃。教授から「一時の流行りかもしれないから今のうちにやっておいたほうがいい」と言われ、新しい領域に飛びついたのが始まりでした。それが思いの外患者数が多く、いつの間にかここまで続けている感じです。当時入会した日本睡眠学会の会員番号は200番代。2018年現在は3500人を超えるなど、睡眠に関する臨床・研究はともにさかんになってきています。

―大学院で研究活動をした後、開業するまではどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。

17年ほど鳥取大学医学部に所属した後、1999年に順天堂大学へ移りました。これは単純に、関東のほうが研究者や症例数が多かったからです。その後2003年に、公益財団法人神経研究所附属代々木クリニックの院長を拝命し、2011年には独立して今に至ります。そのほか2008年には東京医科大学で睡眠学講座を立ち上げ、2015年からは世界睡眠学会の事務局長を務めるなど、診療6割、研究や啓発活動に4割くらいで働いています。

―臨床と研究を、両輪で続けるメリットは何でしょうか。

臨床では身についた方法論がすぐに実践できること、研究では臨床で生まれるクリニカルクエスチョンに問い続けられることだと思います。当院は専門クリニックのため、年間延べ4万人程度の患者さんが来院されます。当然ながら症例には事欠きませんし、臨床・研究問わずに意欲的な若手医師と接する機会が増えるのでいい刺激になっています。

目に見える成果がやりがい

井上雄一

―あらためて睡眠医学では、どのような治療を行うのかを教えてください。

症状に応じて、適切な治療を組み合わせます。薬物治療、精神面からアプローチする認知行動療法をはじめ、光療法や身体のリズムを整える運動療法など生活指導を交えることもあります。睡眠は他の精神疾患と比べても治療の成果が目に見えやすく、何かしらのかたちでプラスの結果がついてくることにやりがいを感じますね。

―総合的な治療を行うにあたり、どのようなスタッフと協力していますか。

医師は精神科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、神経内科の専門医にご協力いただいています。私は長年、睡眠時無呼吸症候群を研究してきましたが、睡眠にまつわる疾患は90種類以上あるとも言われているので、とても精神科だけでは対応できません。

また不眠症は精神科、睡眠時無呼吸症候群は耳鼻咽喉科や呼吸器内科、運動障害であれば神経内科など、医師の専門領域ごとに得意分野が異なります。そのため当院では、予約電話を担当する専門スタッフを配置しています。このしくみのおかげで、初診の段階で、患者さんの主訴に合った専門医が治療にあたれるようになりました。

ほかにも、カウンセリングを行う臨床心理士や検査を行う臨床検査技師、マウスピース作成を行う歯科医などとも連携しています。開業のときに最も苦労したのは、これまで挙げたような人員をそろえることでしたね。

―これまで治療をしてきた中で、印象に残っている患者さんとのエピソードはありますか。

むずむず脚症候群(レストレスレッグズ症候群)を患った、40代女性の患者さんが印象に残っています。脚は掻きむしって傷だらけ、そのうえ不眠によるうつ状態がひどく、希死念慮も訴えていたので死の危険を感じるほどでした。私のもとに来るまで5カ所以上ドクターショッピングをしていて、別の精神科で処方された抗うつ剤が、むずむず脚症候群を悪化させる悪循環に陥っていました。私がその患者さんに治療をしたら、たった数日でむずむず脚症候群はもちろん、うつ病まで寛解。本当にあっという間に治ったので、ドラマチックな変化を感じた出来事でした。

―最後に、井上先生の今後の目標を教えてください。

睡眠に関する教育体系の整備に貢献するとともに、臨床と研究を通して、クリニカルクエスチョンに答え続けていきたいです。また、世界睡眠学会、アジア睡眠学会などの活動をはじめ海外諸国とも共同研究をして、睡眠の人種差を明らかにしながらそれらに合った治療法を模索していきたいとも思っています。

【井上先生からの「睡眠」ライフハック術】

―医師の場合、「睡眠」で悩みがちなことは何ですか。

働きすぎによる「睡眠不足」、仕事のストレスを引きずった「不眠症」などが考えられます。慢性的にそういった症状が続けば、不安障害やうつ病といった精神疾患はもちろん、心筋梗塞や糖尿病などのリスクも高まると言われていますから、気付いたらなるべく早めに対処すべきです。ここ最近で「睡眠負債」という言葉が話題になりましたが、睡眠不足は寝だめなどで解消することが難しいので、日々ツケをためないように気をつけたほうがいいでしょう。

―井上先生は、自身の「睡眠」で心がけていることはありますか。

規則正しい生活をして、7時間程度は寝るようにしています。だいたい夜は23時に寝て、朝は6時に起きるのが身についていますね。もし忙しくて睡眠不足になってしまったときは、休憩時間に10~20分くらいの仮眠をとります。ただ、睡眠時間や休憩時にすぐ眠れるかどうかは体質や年齢によっても変わってくるので、自分で適正値を知っておくと良いでしょう。

特に、医師はエラーを起こさないためにも無理は禁物。ニュースなどでまれに取り上げられる医療事故や指示書の書き間違いなどは、医師の睡眠不足が原因になっていることもあるようです。

―仕事を続ける中で睡眠不足を感じているとき、休みの日はどのような眠り方をすればよいでしょうか。

よく言われていることですが、休みだからといってお昼過ぎまで寝てしまうのはよくありません。もし睡眠不足を解消したいのであれば、起床時間は変えずに、寝る時間を1~2時間早めることをおすすめします。それだと眠れない人は寝る時間を1時間早め、起きる時間を1時間遅くするなど前後で調整して時差ができないようにするとよいでしょう。

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