2018年度診療報酬改定では「医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進」が改定の基本方針に盛り込まれました。「これからさらに多職種が入り混じり、医師の働き方も大きく変わる」と強調するのは、国際医療福祉大学大学院教授の武藤正樹氏。後編では、医療業界における働き方改革にスポットを当てて、2018年度診療報酬改定が医師の働き方にどんな影響を及ぼすのか紐解いていきます。(前編・後編の全2回)
さらに加速する「医師の働き方改革」
――2018年度改定の基本項目には「医療従事者の働き方改革」が盛り込まれましたが、この点に関してはどのような変化が考えられるでしょうか。
常々言われている医師同士のタスクシェア、多職種へのタスクシフトがどんどん進むと考えられます。実は、医師の働き方は医療チーム全体の働き方にもつながっている。医師でなくてもできる仕事は特定看護師(Nurse Practitioner)や薬剤師に役割分担されていくでしょうし、管理栄養士やリハビリスタッフ、検査科の臨床検査技師なども部屋に閉じこもってばかりはいられません。これからの病棟は、多職種がどんどん入り混じっていくでしょう。
加えて2018年度改定では「医師事務作業補助体制加算」 が引き上げられたので、医療クラークの活躍にも期待したいところです。わたしが週2回の外来を続けていて思うのは、とにかく同意書関連のペーパーワークが多く、患者説明にとても時間がかかること。医師の労働時間を集計したある調査 によると、日本人医師の5人に1人はペーパーワーク専門とみなされるほどの事務作業量を抱えているそうです。日本は諸外国と比べても1ベッドあたりの職員数が少ないので、多職種で協力して、いかに医師の負担を軽減できるかを考えるべきだと思います。
――労働基準監督署による立ち入りをはじめ、医師の長時間労働も問題になっている中、制度やしくみの面からはどのようなアプローチをしたら良いと考えられますか。
わたしは医師も労働者だと考えていますから、管理者による安全管理が必要だと思います。
1986年~89年に留学したアメリカでは研修医の労働時間が制約されており、ERでは12時間シフト制が取り入れられていました。シフト制の利点は、引き継ぎ時に医師同士のディスカッションができること。適度に他人の目が入ると1人で抱え込まずに済むので、結果的に治療の標準化や安全性担保につながっていたように思います。こうしたしくみを日本でも導入していけば良いのではないでしょうか。
ちなみに24時間365日の過酷さは在宅医療も同じで、2018年度改定では「継続診療加算」 (在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料)が新設されました。これは在宅療養支援診療所以外の診療所が、他の医療機関との連携で24時間の往診・連絡体制を構築すると評価されるもの。すでに高い専門性を持つ開業医の皆さんが、少し空いている時間に訪問診療や往診に行くだけでも、在宅医の労働環境が改善するのではないかと思います。
上記に加えて「オンライン診療料」 も新設されたので、ICTの活用はますます広まっていくでしょう。まずは対面診療を原則の上でオンライン診療を取り入れることが許されましたが、今は患者家族が遠方に住んでいることも多いので、手術の同意確認や退院時カンファレンスなどにも徐々に取り入れられていくのではないでしょうか。
――これまでのお話を踏まえて、あらためて2025年を担う医師たちへのメッセージをお願いします。
今、臨床の最前線にいる先生方に忘れずにいてほしいのは「医療は何のためにあるのか?」ということ。医師という専門職とはいえ、ニーズのないところで頑張っても意味がありません。
先述したように、これから鍵を握るのは総合診療医だと思います。もちろん若い頃からその道を目指しても良いし、わたしのように一定の専門性を高めたうえでキャリアチェンジをしても良い。わたしはもともと外科出身ですが、37歳の時、ニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学して価値観が大きく変わりました。時代の流れに合わせ、2025年だけでなく団塊ジュニアが高齢化する2040年も見据えた対策を立ててほしいと思います。
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