2018年4月に改定された診療報酬。介護報酬との同時改定で2025年に向けての大きな節目となりましたが、医師の働き方もひとつのターニングポイントに差し掛かっています。中でも、いま急性期病院で働く医師全員が10年後も同じ場所で働き続けられるとは限りません。そこで今回は医療政策の政府委員等を歴任されている武藤正樹先生(国際医療福祉大学大学院 教授)に、勤務医がおさえておきたい2018年度診療報酬改定の内容について伺いました。(前編・後編の全2回)
急性期縮小に伴う、働き方の変化は避けられない
――2018年度診療報酬改定の目玉のひとつに「入院医療の新評価体系」が挙げられると思います。“医師の働き方”に焦点を当てた時、どのような影響が考えられるでしょうか。
地域医療構想に基づく病床再編で、医師が働く病院も大きく変わっていくでしょう。ご存知の通り、地域医療構想では全病床134万床(2013年時点)から119万床(2025年)を目指して病床削減を進めています。一見すると大変革に見えますが、すでに9万床が空床、残り6万床は介護医療院への転換が見込まれているため、数字上の大きな影響はありません。
しかし、今後は手術、検査といった医療資源をそれほど必要としない高齢者が増えるため、高度急性期と急性期は30万床以上が絞り込まれていきます。その代わり求められるのが、ポストアキュートや急性増悪患者を受け止めるサブアキュート機能。その代表格が「地域包括ケア病棟」になるわけです。数としては6万床(2017年6月1日現在) のところが、2025年には30万床にもなると予想されるほど。つまり、これまで地域密着型や広域型で急性期を担ってきた病院は地域包括ケア病棟機能にシフトし、高度急性期・急性期は施設集約化されていくのではないかと思います。
――高度急性期・急性期の施設集約化には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
施設集約により、手術の安全性向上や長時間労働の改善が見込めると考えています。
たとえば、食道がんについてのある調査 では疾患センターで手術をした方が、予後が伸びるというエビデンスがあります。実際、年数回だけの手術体制とコンスタントに週2回行う手術体制では、後者の手術成績が高くなるのは一目瞭然でしょう。さらにセンターには複数の医師が常駐するため、医師1人で24時間365日対応しなければならないこともありません。ちなみに2018年度からは、急性期の評価手法となる「重症度、医療・看護必要度」が4000区分以上にも及ぶDPCデータへの置き換えでも判定可能になったので、高度急性期・急性期の治療実績評価は年々シビアになると予想しています。
――高度急性期・急性期の施設集約化が進むと、住民のアクセシビリティが悪くなるように思いますが、その点は地域包括ケア病棟がカバーするのでしょうか。
その通りです。個人的には、これからの地域包括ケアシステムの中心を担うのは、地域包括ケア病棟を持つ200床以下の中小病院かつ訪問診療等もできるところだと思います。とはいえ、それぞれの地域や病院規模に合わせて、地域包括ケア病棟のあるべき姿は変わるのかもしれません。
実際、すでに多方面からの導入・転換が進んでいます。10対1から転換してポストアキュートを担うところもあれば、在宅患者を受け入れるサブアキュートを強化しているところ、療養病床から転換して長期療養に強みを持つところも。今後も病床が急増するとなれば、さまざまなバリエーションが出てくるのではないでしょうか。
――ちなみに長期療養フェーズについては、どのような変化がありますか。
こちらは10万床ほどの削減が進んでいきます。療養病床 として生き残るには看護配置20対1、医療区分2・3の該当患者割合をクリアしなければなりません。その基準に至らないのであれば減算を受け入れるか、2018年4月に創設された介護医療院へ転換していくことになるでしょう。気を付けたいのは、介護医療院は医療施設ではなく介護保険施設になること。そのため、医療施設からの転換を行う場合は、新たに“生活の視点”を取り入れる意識改革が必要になりそうです。
――これまでの話から、病床削減と機能分化がさらに進むことが見えてきました。今後の変化を踏まえ、これから求められる医師像を教えてください。
具体的に申し上げるならば、わたしが期待しているのは200床以下の中小病院に勤める総合診療医です。一方、たとえ総合診療専門医でなくても、循環器専門医は心不全、精神科医は認知症ときちんと向き合わなければならない時代が来ます。
これまで急性期フェーズを担ってきた先生の中には「地域包括ケア病棟=2軍落ち」という印象を持たれる方がいるかもしれませんが、今後はそこが日本の先端医療になっていくのは間違いありません。慢性疾患患者の再入院率を減らしたり、いかに地域で見守るかといった疾病管理術を考えたりする医師こそ、今後必要とされるのではないでしょうか。
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