沖縄県立中部病院には、初期研修・後期研修一貫の離島診療所医師養成プログラムがあります。3年間の本島でのカリキュラムを終え、2016年4月より、沖縄本島から約360km離れた北大東島で勤務を始めた小澤萌氏。今でこそ地域住民密着型の医療に大きな魅力を感じていますが、医師になろうと思ったきっかけは国際協力への興味でした。どのような経験を経て、今の道を選んだのでしょうか。
国際協力を通じて、医師の道へ
-沖縄県立中部病院での研修を経て、どのように感じましたか。
とにかく充実した研修で、多くの患者さん、先生方、コメディカルから学ばせていただきました。沖縄の素晴らしい自然と独特の文化に魅了される一方、沖縄の抱える経済格差・健康格差について考えた3年でもありました。沖縄県は全国平均に比べて貧困層が多く、健康格差が激しいと聞いてはいましたが、そのことを肌で感じました。自活するもギリギリの収入で暮らす方、屋外で暮らす方など、診療を通じて、患者さんの生活状況を目の当たりにする機会が多々ありました。少しでも改善できるよう試行錯誤してみましたが、入退院を繰り返す方は多かったです。
多くの患者さんが集まる県立中部病院では、common diseaseからそうでない症例まで幅広く診ることができました。当直回数が非常に多かったので、必然的に経験が増えました。また、担当させていただく入院患者さんも非常に多かったため、他院では地域連携室が行う退院先の調整を研修医が対応することもありました。
その地域に住民と共に暮らし、彼らの生活を見据えた医療に携わったことで、「みなさんの健康を守るために自分はいる」という責任感が生まれ、結果として自己成長につながったと感じています。
-小澤先生は国際関係論を学ばれてから医学部へ入学されています。そのきっかけは何だったのでしょうか。
大学1年生の時に、旧ユーゴスラビア地域の難民支援ボランティアに行き、医師を志すようになりました。ボランティアに参加したのは、幼少期から国際協力に興味があり、将来は国連やNGOで働きたいという思いがあったためです。私が行った旧ユーゴスラビアのクロアチアとマケドニアは、異なる民族、宗教、言語、文化を持つ人々が混在している地域です。紛争が起こるまで仲良く暮らしていた村人たちが、民族の違いによって殺し合いを始め、多くの方々が巻き込まれ犠牲になりました。そのような人たちを何とか助けたい、1人でも減らしたいと思い、国連など国際機関を目指していましたが、ボランティアを通して世界共通の技術である医学を身に付けて助けていきたいと思うようになり、医学部受験を決意しました。
目指すのは、健康水準の向上
医学部入学後は勉学に励む一方、国際保健の学生団体「jaih-s」に参加して精力的に活動していました。団体としては日本の国際保健に関心ある学生への機会提供を行う一方、自分自身もホンジュラスへ研修に行ったり、ミャンマーとタイの国境付近にあった難民支援病院を見学したり、ケニアの地方で草の根的に保健活動を推進するJICAプロジェクトの研修に参加させていただきました。これらの経験から、健康水準の向上に取り組み、難民保健に携わりたいと思うようになりました。その第一歩として、総合的に診る技術を身につけるために家庭医療の分野に進むことを決めました。
-沖縄県立中部病院を研修先に選んだのは、どのような理由からですか。
沖縄県立中部病院は忙しい研修病院として有名でしたが、そこで忙しそうに働く先輩方が熱心にとても楽しそうに仕事をされていた姿が印象的だったこと、将来海外で働くことを視野に入れている方が多く働いていることなどがあります。何より、沖縄という土地柄に魅力を感じていました。沖縄は、日本の中でもさまざまな文化と社会・経済背景を持つ人々が混ざり合って暮らす地域だと考えたため。この特性は、将来的に携わりたい旧ユーゴスラビアに共通するものがあります。
また、沖縄は一昔前まで長寿の県と言われていましたが、近年は生活習慣病の方も増えています。食生活の変化も影響していますが、そこに対して介入の余地は多いと考えています。このような地域住民の健康水準向上に取り組むことで、経験を積んでいきたいと思ったことも理由の一つです。
「住民の健康問題」に注力したい
-現在携わっていらっしゃる沖縄での地域医療と、将来的に携わりたい国際協力。一見、両者は遠いもののようにも見えますが。
そうですね。しかし両者は、少ないモノ・ヒト・カネの中で画策せねばならないこと、予防医学が重要であることなど共通点が多くあり、これから従事する離島医療の経験は国際保健にも必ず生きると考えています。将来的にはやはり国際保健に携わりたいと思っていますが、離島を終えた後に公衆衛生を本格的に学ぶべく大学院へ進学するか、このまま日本の地域医療に携わり続けるかはまだ非常に悩んでいます。元々は国際保健を志し、今このような道にいますが、日本の地域医療に非常に魅了されているのも事実で、離島医療をやりながら次の道を考えたいと思っています。
-このたび赴任した北大東島では、どんなことに取り組んでいきたいですか。
沖縄本島での研修期間中は病院での臨床がメインだったため、改善の余地がある住民の健康問題のような保健の分野にはなかなか介入できませんでした。北大東島でも臨床にこだわりながら、保健分野にも重点的に取り組んでいくのがとても楽しみです。
北大東島は沖縄の中でも小さい離島ですが、岸壁工事など建設業が盛んなため、生産人口の多さが特徴です。季節労働者が多いため他の島より高齢化率は低いですが、彼らの中には沖縄本島や本州から来る単身赴任の方が多いです。この属性をふまえると、生活習慣病の予防が、健康を守る役目を担うと考えています。一方で、高齢者もいらっしゃいます。本島との行き来が乏しい分、島内でできる限りのことをしていかなければ高齢者の方の負担になる可能性があります。限られた医療資源を活用して、何ができるのかをしっかり考え、取り組んでいきたいです。
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