刑務所や少年院などの矯正施設で医療を行う「矯正医官」。その業務については、表立って報道されることがほとんどないため、ご存知の方はごくわずかではないでしょうか。『知られざるニッチキャリアの世界vol.1』では、この矯正医官をご紹介します。お話をうかがったのは、全国に8つある矯正管区のうち、東京管区で矯正医官を務める岩田要先生です。大学でがんの基礎研究をしていた岩田先生が、なぜ矯正医官という新たな道を選んだのか。矯正医官の仕事とはどのようなものなのか。待遇ややりがいはどうなのか、等々。その実態に迫ります。
知らない世界に、興味をひかれた
――矯正医官になられる前は、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。
東京大学大学院で、リンパ管の研究をしていました。ただ、最初から研究者を目指したわけではなく、1999年に東京大学医学部を卒業したときは、外科医を目指していました。当時は臨床研修制度必修化前でしたから、大学病院に1年いて、そのあと都立病院に3年、大学病院に戻って1年と、計5年間は外科医としてキャリアを重ねていたのです。
ところが、大学院に進もうとしたときに、同級生から「おもしろいことをやっている研究室があるから来ないか」と誘われて。それが基礎系の分子病理学教室で、そこに大学院を修了するまでの4年間と、その後も助教として居残ったので合計10年間余り在籍していました。

――どんなきっかけで、矯正医官になろうと思われたのでしょうか。
研究室の雰囲気もよかったし、研究自体もとても楽しかったのですが、研究が煮詰まってきたことや、身内が病気をしたこともあって……。優秀な後輩もどんどん入ってくるし、いつまでも同じ立場にはいられない、という気持ちもありました。
そんなときに、地下鉄の駅で矯正医官募集のポスターを見たんです、EXILEのATSUSHIさんの。研究者の性分なんでしょうね、新しい、珍しいものにひかれるという。それを見てすぐに問い合わせの連絡をして、刑務所へ見学に行きました。
――見学なさって、どんな印象を受けましたか。
まず、設備を見て「普通に診療できそうだな」と思いました。CTはありませんが、エコーも内視鏡もレントゲンもある。これならやっていける、と。基礎研究をしながらも、アルバイトで夜間の当直をしていましたから、「エコーがあれば何とかなる」というのが自分の中にあったんです。それに、挨拶に顔を出した際の医局の雰囲気がすごくよかった。それで決心しました。これが4月で、半年かけて業務の引き継ぎなどをして、入職したのが2016年10月です。
意外?! 30代、40代の医師が多い
――研修などはあるのでしょうか。
仕事をしながら研修を受けます。真っ先に国家公務員としての心構えを教わります。矯正医官は法務省管轄ですから、法令遵守は特に厳しく言われます。矯正医官になってから、自転車で一時停止を必ずするようになりました(笑)。そのほかに、施設内の他の部門の幹部職員から、その部門の役割についての講習も受けますし、管区内の新人医官に対する合同のレクチャーもあります。
――年齢的には、どの辺りの先生が多いのでしょうか。
私が今いるところでは、60過ぎの先生もいらっしゃいますが、30代、40代の先生が過半数です。ただ、地方によっては、定年退職後のセカンドキャリアの先生が多いところもあると思います。
スキルとしては、ほかの先生もおっしゃっていましたが、全科当直ができる人であれば大丈夫だと思います。自分で対処できるかどうかを見極めて、対処できないものについては外部の手を借りる、という判断も含めてですね。
17時で帰れることに、戸惑った
――矯正医官になられて、戸惑ったことなどはありますか。
いちばん戸惑ったのは、17時に帰されることでした。研究をしているときは、細胞やマウスの世話がありますから、土日も区別ありませんし、実験データを取る時間に合わせて夜間でも研究室にいなければなりません。それが17時には「必要がないなら帰ってください」と言われる。冗談のようですが、「こんなに日が高いうちに帰っていいんだろうか?」と、初めの頃は不安になりましたね。
――ご家族は、今のお仕事について何かおっしゃっていますか。
「矯正医官になろうと思う」と最初に言ったとき、妻は特に何も言いませんでした。私の仕事だから私が決めればいいと、信頼してくれているのでしょう。今は、私に時間的なゆとりができた分、妻にもゆとりができたと思います。家族でいっしょに過ごす時間も増えましたし。おかげで、家に居やすくなりました(笑)。
中編では、矯正医官の仕事の実態をうかがいます。
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