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「減酒でもいい」 その考えを広めたい―私の専門外来Vol.4~減酒外来(後編)

2018年12月21日

2017年5月に国立病院機構 久里浜医療センターに新設された「減酒外来」。その名の通り、お酒を減らす治療方針で患者さんを診る外来です。後編では、立ち上げ時に苦労したこと、具体的な治療内容、今後の展望などについて、外来担当の湯本洋介先生にお話を伺いました。(取材日:2018年12月7日)

治療方針は患者自身の意思を尊重

――減酒外来の具体的な患者層について教えてください。

アルコール依存症には至っていなくてもアルコールに関する問題を抱えていたり、実際に問題を起こしていたりする方が約8割、アルコール依存症の方が約2割いらっしゃいます。

性別でみると男性が圧倒的に多く、この1年で男性が81人、女性が11人受診しています。年齢層としては男性の平均が48.6歳で、男女とも40代がほとんど。いわゆる、働き盛りの年代ですね。数としては男性のほうが断然有病率が高いのがこの病気の特徴でもあります。
アルコール依存症の方は、休職中だったり、無職だったりする方が約3割という統計が出ていますが、減酒外来に訪れる方は、ほとんどみなさん仕事を持っています。アルコール依存症の方は家族に連れられて不本意に来院するのに対して、減酒外来に来る方は、ほとんどお一人です。ご自身で問題意識を持って来る方が多い印象ですね。受診動機で最も多いのが、ブラックアウトといって記憶をなくしてしまうこと。これが頻繁に起こることを自覚して、心配になって訪れるのです。

――具体的な診療内容はどのようなものですか。

まず、診断をつけるところから始まります。アルコール依存症の基準としてはICD10というものがあります(下図参照)。これが6項目のうち3項目該当すれば、アルコール依存症と診断しています。

依存症か依存症未満かを判定して、依存症の方には「最終的に断酒に持っていきましょうね」と話します。それから、目標立てをします。お酒をどうやって減らしたいか、お酒の量をどれくらいにしたいか、飲む頻度・休肝日をどれくらい作るかといった、いわば“減酒計画”を立てるところからスタートします。従来は目標を「断酒」に決めていましたが、減酒外来ではご本人の意志に重きを置きます。
次に、その目標を実行に移す意識変革のために、日記をつけてもらっています。いつ、どれくらい飲んだか、レコーディング方式で記録をつけていくだけでも減酒効果はあります。日々の酒量を客観的にチェックすることが大切なのです。
ただ、どうやってお酒を減らしたらいいかピンとこない方もいますので、お酒の減らし方を書いたリストも配布して説明しています。そのリストの中から、一つ、二つからでもいいので取り入れられそうなことをやっていきましょうと勧めています。そのうえで、2ヶ月に1度くらい来院していただき、飲酒記録をもとに、飲み過ぎにブレーキをかけているのです。(下記参照:実際に配られているシート)

「減酒でもいい」という考えを広げたい

――外来を立ち上げてまだ1年ほどですが、苦労したことはありますか。

アルコール科では、「断酒しかない」というメッセージを込めながら患者さんと向き合うのが当たり前でした。しかし、減酒外来は「減らしてもいい」という今までとは違った治療方法なので、わたしたちの許容度も広げる必要がありました。まず、自分の中での折り合いをつけることが最初の問題でしたね。
ご家族は断酒を望んでいても患者さん本人が減酒を望んでいる、というように、家族内で目的が異なる場合の調整に苦慮することがあります。最終的にはご本人が希望する方向にご家族も変わっていくので、ご本人の意向を尊重しましょうと提案しています。ただ、どんな方にとってもお酒を止めることが健康度としては一番高いので、断酒を目標としながらやっていきましょうという方向になります。「一番いいのは断酒」というメッセージを伝え続けるのがいいと思っています。

――収益面ではいかがでしょうか。

アルコール科も初診と通院両方で行い、特に初診は時間をかけて行っています。減酒外来でも、その方法に変わりはありません。再診や2回目以降の診療も、アルコール科の外来継続治療と変わらないので、負担が増えるものではないと感じています。
もともとのアルコール科への受診数は変わっていませんが、減酒外来を受診する方が増えた分、トータルの来院者数は増えています。今まで病院にかからなかったアルコール依存症未満の方たちが来院することで、減酒外来は収益性を上げるひとつの役割を担えているのではないかと考えています。断酒ができなかった人も「減酒ならできるかもしれない」と来院するようになり、患者さんに対する門戸が広がったように感じています。

――減酒外来の今後の展望をお聞かせください。

「減酒でもいい」というコンセプトが広がればいいと思っています。他の医療機関ではあえて「減酒」と銘打っている外来はありませんが、ニーズはあるはずです。
この考え方が当センターから広まっていって、お酒に対する問題を感じたら、気軽に「病院に相談にいってみようかな」という空気や風潮が自然とできればいいですね。「アルコール問題でも医療機関にかかりやすいんだ」というイメージを持っていただけると、うれしいです。

――最後に、新しい分野の外来を立ち上げたいと考えている医師へのメッセージをお願いします。

立ち上げの話を聞いたとき、批判を受けるのではないか、と思いました。今まで断酒のサポートを求めて来院した方たちにとっては、肩すかしをくらったように捉えられるのではないかと感じたのです。今でも「減酒なんてあり得ない」という声もありますが、「お酒を減らしたいな」という軽いレベルの方たちが一定数いるのも事実。実際に、アルコール起因の事故や怪我などの問題も起きているわけですから、その方たちに介入できるのは社会的にも意味があると思います。
何事も新しく立ち上げるのは賛否があって、批判もあります。けれども、今まで誰にも相談できなかった、医療機関に踏み出せなかったという人たちの救済に、確実につながると思っています。わたし自身、「減酒外来」を担当するようになってみて、今までとは違ったタイプの方たちに会えたり、アプローチ方法を考えたりできています。そんなところに面白さとやりがいを感じています。

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