アフリカでの難民支援NGO、東証一部上場企業勤務を経て、医師になった谷川朋幸氏。公衆衛生、国際保健への関心から、聖路加国際病院公衆衛生大学院に進みました。現在は、自宅で治療ガイダンスを受けられる「治療アプリ」を研究・開発する株式会社CureApp (https://cureapp.co.jp/)の最高医療責任者(CMO)として、治験や薬事申請などを進めています。多彩なキャリアを築く谷川氏が、自身の道を選択する上で重視してきたことは何でしょうか。(取材日:2019年 11月 13日)
※前編はこちら:日本初の“治療アプリを目指す最高医療責任者の異色キャリア―谷川朋幸氏(株式会社CureApp)
医療機器のように医療現場での活用を想定し、高度なソフトウェア技術と医学的エビデンスに基づき、自宅等での治療ガイダンスを可能にするアプリ。これまで医療者が関わることの難しかった診察以外の時間帯に、医学的なフォローを行い、意識・習慣に対して行動変容を促すことで、治療効果を上げる仕組みを目指している。「治療アプリ®」は株式会社CureAppの登録商標。
国際保健へのキャリアを描き、公衆衛生大学院へ入学
――呼吸器内科の後期研修を受けた後、聖路加国際病院の公衆衛生大学院を修了されていますね。
後期研修が終わり、医師としてようやくスタートラインに立ったといわれるタイミングです。その後は、呼吸器のサブスペシャルティを極める、大学院に博士号を取りに行く――など、さまざまな選択肢が浮かびました。でも、なぜ自分が医者になったかと振り返ると、やはり公衆衛生に興味があったから。中でも国際保健がやりたかったので、国立国際医療研究センターや結核研究所などでの公衆衛生のキャリアへつながることを思い描いて、公衆衛生大学院を探しました。
海外の公衆衛生大学院への留学を考えていたのですが、聖路加国際病院での後期研修が終わるときに、ちょうど聖路加に公衆衛生大学院ができたんです。国内とは言え、講義はすべて英語でしたし、家族と暮らしながら、アルバイトをしつつ、勉強できるのは魅力的だと思いました。疫学や統計など、初めて本格的に公衆衛生を学びましたが、やはりとてもおもしろかったです。
CureAppとの出合いは1本の記事
――現在勤務されている株式会社CureAppと出合ったのはどのタイミングですか。
大学院に入学して半年がたったころ、たまたま「治療アプリ」の研究・開発を進めているCureAppの事業に関する記事を読んだんです。「アプリで治験をしている奇特な会社がある」と思ってチェックを入れていたら、それがCureAppに通知される仕組みになっていたようで、声をかけてもらいました。CEOで医師でもある佐竹(佐竹晃太氏)に会ったとき、「うちで臨床研究をしませんか?」と誘われました。
――CureAppにどのような印象を受けましたか。
佐竹が持つ「アプリで治療する未来を創造する」というビジョンは、最初は周囲からなかなか理解されなかったはず。前例がないことに挑むハードルは、僕の想像以上に高かったと思うんですが、佐竹は果敢に取り組んでいました。またCureAppには、そのビジョンに共鳴する人たちが集まり、本気で実現できると信じています。そのチャレンジ精神を心から面白いなと思いました。大学院で学んでいる公衆衛生の知見を企業の臨床研究に生かせることも魅力でしたので、「仲間にしてもらえるならぜひ」と、臨床研究のオファーを受けました。
――臨床研究はどのように進めたのですか。
夜や週末は大学院で座学を受け、平日の日中はCureAppからの委託として研究を進める、とても刺激的な日々でしたね。さまざまな医療機関を回り、医師に研究の趣旨を説明して治験参加者を募ってもらったり、外部のベンダーさんと交渉したり――。短期間で患者さんに研究に参加してもらい、質の高いデータを得るためには、どれほどの労力と資金が必要なのかを知りました。
自分1人でデータベースを使い研究していたら、コストはあまりかからないけど、インパクトも小さい。一方で、CureAppでの研究は「このタイミングまでにこんな結果を出す。そのために、いつまでに書類を揃えて、いつまでに資金を集めなければならない」と、常にスピード感が求められます。そのダイナミズムにわくわくしました。研究はいい結果が出て、無事に論文として発表もできました。
大学院修了後CureAppに入社し、治験や薬事申請を担当
――大学院修了後の進路はどうされたのでしょうか。
2019年4月から、週1日は訪問診療クリニックで働いて臨床に出ていますが、それ以外はCureAppのCMOとしてフルタイムで勤務しています。所管している業務としては、臨床試験の企画や治験などの臨床開発、薬事申請や保険適用、学会や行政との関係構築などです。書類の作成やレビュー、会議などに時間を割くことが多いですね。スピード感をもって、事業を前に進めていく大切さを痛感しています。もちろん苦しさやつらさ、うまくいかないことはありますが、それらの課題を乗り越える過程で、仲間の絆も感じますし、いい緊張感や充実感を持ちながら仕事ができています。
――週1で訪問診療をされていますが、臨床を続けていらっしゃるのはなぜですか。
最初に、CEOの佐竹から「臨床は続けたほうがいい」とアドバイスされたんです。CureAppの製品の最終ユーザーは、患者さん。会社の業務のみに集中すると、営業先やベンダーさん、お仕事を依頼している先生とばかり接していて、患者さんの存在を忘れてしまう恐れがある。佐竹からは「臨床を続けることで、『いまCureAppでやっていることは、患者さんのためになっているか』ということが定期的にリマインドされる」と言われました。実際、臨床に従事させて頂く時間は初心を忘れないという意味で大事な機会になっています。
キャリアを選ぶとき、「わからないところ」に飛び込んできた
――これまでの人生で、さまざまな選択肢の中から、自分の進む道を選ぶときに重視してきたことはありますか。
基本的には「わからないところ」に飛び込んできました。振り返ってみると、わくわくするかとか、自己成長があるかとか、新たなチャレンジができるか、ということを重視している気がします。
もう一つ、家族の存在も大きいです。人生の節目節目で、自分のことだけでなく、「家族の中で、自分はどうあるべきか」ということも考えています。
僕は、医学部時代に学生結婚をして、亀田総合病院での初期研修医1年目で長男が生まれました。妻は東京で働いていたので2年目は、千葉県で単身赴任をしていましたが、「家族として固まっていたい」と思ったので、後期研修先は東京の病院を探しました。その後、大学院在学中に2人目も生まれています。
現在は会社としても「治療アプリ」の保険適用を受けようという正念場ですので、仕事に割く時間が多いです。それでも、臨床メインの時期に比べると、今の方が融通が利く働き方ではありますね。この前のゴールデンウィークは、医者になって初めてすべての連休が取れたことが新鮮でした。勤務日も、夕方に「いまから子育てタイムで一時離脱します」と職場を離れることもあり、働き方を自分でコントロールできる環境になりました。
――今後はどのようなキャリアを考えていますか。
CureAppはいま、ビジョンを語るだけでなく、成果を出さなければならないフェーズに入っています。個人としては明確に先のキャリアを定めているわけではないのですが、まずはちゃんとCureAppで事業を成功させることに集中したいと思っています。
国際保健への思いは今もあり、プライベートでは医師として、ボランティアベースで日本に来た難民の方々の支援をサポートしています。
CureAppの事業は、医師や医療といったリソースが少ない環境をソフトウェアの力で補うことで、医療の均てん化を実現する可能性があります。その延長線上には、僕が興味を持っている国際保健があるかもしれない。CureAppはアメリカに進出したばかりですが、今後市場をさらにグローバルに広げていく中で、自分の興味と会社の方向性が交わる範囲も広がっていけばうれしいなと思っています。
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