大学の基礎研究者から、矯正医官にキャリアチェンジした岩田要先生。矯正医官になるまでの経緯をまとめた前編に続き、今回は矯正医官の仕事の実際について伺いました。
犯罪を犯した人たちを、診療する
――市中の病院と、診療に何か違う点はありますか。
受刑者だからといって、体のつくりが違うわけではありませんから、医療行為としては特に違うところはありません。まあ、薬品は後発品がある限り後発品を使う、といったことはありますが。
刑務所はいわば社会の縮図のようなもので、社会が高齢化すれば受刑者も高齢化しますし、外でインフルエンザがはやれば中でもインフルエンザがはやります。今は受刑者も高齢化が進んでいて、糖尿病などの生活習慣病や、腰痛などの整形外科的な病気のある人が増えています。
――受刑者ならではの病気などは、特にないということでしょうか。
受刑者にはさまざまな刑務作業をさせていますから、作業中のケガなどには注意を払って対応しています。時おり受刑者同士のけんかによるケガもあります。また、精神科の先生であれば、依存症の患者が多いといったことがあるかもしれませんが、私は外科系ですから、その辺は正確には把握していません。
――診療中に受刑者から暴行される、といった危険性はないのでしょうか。
軽く手を出された、という話もあることはあるようです。診療の際には必ず刑務官や法務教官が付き添っていて、医師と受刑者の間に立っていますし、准看護師の資格を持つ刑務官も配置されています。何かしようとしても彼らが素早く制圧して、医師には手を出せない体勢が取られているのです。
ただ、たとえば朝のラッシュ時に、ホームの最前列に並んでいたとしたら、後ろから押されないかどうか、誰でも気をつけますよね。でも実際には、押されて線路に落ちるなどということは、滅多にありません。それと同じで、ある程度の注意は必要ですが、神経質になる必要はないと思っています。
人として認め、しかも淡々と
――特に忙しい時期などはあるのでしょうか。
年に1回、受刑者全員の定期健康診断をしますし、対象者のがん検診もしますから、そのときは忙しくなります。業者に見積もりを出してもらって、いちばん安いところに検査を発注して。
刑務所などの矯正施設は、入所するときに必ず健康診断をして、結核などの感染症がないかどうかを調べます。これは矯正施設ならではですが、そのあとの健診は学校や自治体で行なっているものと基本的に同じです。
あとは、インフルエンザがはやる時期は忙しいとか、市中の病院と同じですね。
――診療時の対応の仕方に、コツなどはありますか。
相手を見下さず、かと言って思い入れし過ぎず、適切な距離を保ちながら淡々と診療に当たることでしょうか。「受刑者のために尽くしたい」というようなナイーブな動機で診察にあたると、特定の受刑者に手厚くしてしまったり、相手につけ込まれて籠絡(ろうらく)される危険にもつながりうまくいかないように思います。
また、あらかじめ刑務官から話を聞いて、状態を把握しておくことも大事です。時間の節約にもなりますし、詐病を見抜くこともできますから。「足が痛い」と言っているのに、庭に出て運動していた、とか。その場合も、「嘘をついているんだろう!」と責めたりせず、「まあ、こんな調子でやってみよう」と、穏やかに収めます。
重要なのはコミュニケーション能力
――スタッフには、どのような職種の人たちがいるのでしょうか。
医師のほかに看護師、准看護師、薬剤師がいて、大型の施設には診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士などもいます。医師に関しては、常勤は1人だけのところもあれば、十数名いるところもあります。私は曜日によって、医師が複数名いる施設と1人の施設とで診療していますが、常勤医師1人で管理している施設は、常に気が休まらないという意味で、やはり大変だと思います。
――矯正医官に求められる資質を、どうお考えになりますか。
市中の病院では医療職が大多数ですが、矯正施設では大多数が刑務官で、医療職は少数です。したがって、ほかの職種の人たちといっしょにやっていくための、コミュニケーション能力が非常に大事です。
また、所内で対応できない場合は外の病院に患者を出しますが、ただでさえ「刑務所からの診察依頼?」と敬遠されがちですから、そこでもコミュニケーション能力が要求されます。もちろん、患者である受刑者とのコミュニケーションも重要。矯正医官に欠かせない資質は、コミュニケーション能力だと、私は思っています。
後編では、気になる待遇ややりがいなどについてうかがいます。
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