
形成外科医と医療系メタルバンドのボーカルという二足の草鞋を履くババロア先生によると、医学部とメタルには、意外な親和性があるそうです。医師とバンドマン、双方のプロとして多忙な毎日を送る先生に、今後の展望を伺いました。(取材日:2019年5月28日)※前編はこちら。
医師とバンド、どちらが欠けても自分ではない
――現在、専攻医1年目。形成外科医の仕事だけでも、かなり忙しいのではないでしょうか。
平日は6時半に家を出て、24時頃に帰宅しています。それ以降の時間や、通勤時間を作曲や練習、SNSでの広報活動といったバンド活動にあてています。土日も他の病院で働いているので、何もない日は1カ月に4日くらい。そこにバンドの仕事を入れていますね。体力的には正直きついので、通勤電車で睡眠時間を確保する日々です。
ありがたいことに、ライブ出演のお誘いもたくさんいただくのですが、私の仕事が入っていない日、かつ自分たち主催のライブの日程とも重なっていないものしか受けられていないのが現状です。
――かなり大変そうですね。それでも、どちらも休まずに続けている理由とは?
自分にしかできないことをやらないと、後悔すると思ったんです。私が調べた限りでは、女性医師でメタルバンドのボーカリストという人は、他にはいません。
医療関係者からは不謹慎だと言われることもありますし、音楽関係者からは医師だけやっていればいいのにとか、医師の道楽だとか言われることもあります。以前は、私自身も医療とメタルという、一見相反することをしている葛藤があって――。最近は自信もついてきて、認めてくれる人も増えてきたので、両方ともプロとして頑張りたいと胸を張って言えるようになりました。医師の自分と、バンドマンの自分、その両面を持つのが「私」だと思っているので、どちらか欠くことは想像できないですね。
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――バンド活動をする上でこだわりについて教えてください。
Anatomyは、医療系メタルバンドというコンセプトで活動しています。そのため、ホームページの新着情報は診療情報、新しい楽曲やリリースについては新薬、ライブはオペ執刀、ライブの場所はオペ室、チケット代は診療代、開始時間は執刀開始という表現にしていて、私の決め台詞も「おだいじに」と、世界観を作り込んでいます。バンドのオフィシャルTシャツ―オペ着も、バンド名を臓器になぞらえたデザインになっています。
曲に関しても、自分自身が医師であることをバンド活動で生かすべく、非医療従事者でも聞いたことがある言葉だったり、医療従事者には分かるフレーズだったりを盛り込んだ歌詞を作るようにしています。
――アニサキス症をテーマにした曲もありますね。
そうなんです。「アニサキス」というタイトルの曲で、海に住んでいるアニサキスが人間に恋をして、その人の胃の中に入り、内視鏡治療されてしまう前にその人の胃壁に最後の口づけをするというストーリーになっています。他にも「Virus」という曲は、ラブソングのようでいて、歌詞の中に“僕に触れるその手で他の誰にも触れないで”と接触感染の注意喚起を潜ませていたり、ウイルスに抗菌薬は効かないことを“同じstrategyじゃ戦えないよ”と表現していたりしています。
決して、病気について茶化しているわけではないんです。私自身も病気をしていましたし、病気と闘っている方たちを見てきました。楽曲を通じて、1人でも多くの人に医療への理解を深めてもらいたいと考えています。私たちの楽曲を聞いたリスナーが「このフレーズの意味はなんだろう?」と調べて、それまで知らなかったことを知ってくれたら本望ですね。
なお、現在の最新曲「分岐」は、私が医師を選ぶかバンドを選ぶかという分岐点に立ったときに両方選んだという決意と、血管の分岐をかけていて、歌詞の中に動脈の分岐を覚える語呂合わせが入っています。意味が通るかっこいい言葉にしつつ、語呂合わせにもなっていないといけないので、作詞はすごく大変でしたが楽しかったですね。
メタルも医学部も「スポ根」
――医師、そして、バンドとしての今後の展望を教えてください。
形成外科医としてはまだ1年目なので、引き続き勉強して、まずは一人前の形成外科医になること。もちろん、専門医も取得したいと思っています。ライブの後、病気になったときに医師にお世話になったことを思い出したと話してくださるお客様がいました。私も患者として入院していたときのことは今も覚えていますし、きっと忘れないと思います。その方に寄り添った医師のように、今後いい意味で患者さんの印象に残るような医師になりたいですね。
バンドとしては、メジャーレーベルとの契約です。ただ、医師の仕事を休んでツアーに出る、ということは考えていないので、できる範囲にはなってしまうと思うのですが、メジャーシーンで活動できるようになりたい。「売れたいならポップスの方がいいよ」とよく言われますし、自分でもそう思います。それでもメタルを続けるのは、音楽としてかっこいいのと、自分ができないことに挑戦するのが好きだから。メタルは体力的にもハードで、曲も難しくて、ミュージシャンの人たちも気難しい人が多いジャンルです。けれども、そこで戦って、自分の限界を乗り越えて、可能性を広げていきたい。それに、テンポが速く難しい曲を練習して自分のものにしていく過程が医学部に似ていると思うんです。
――メタルが医学部に似ているとは?
例えば、医学部の試験範囲は、教科書1冊全てということが頻繁にあります。そのたびに「覚えられない!」と言いながら、無理矢理それを克服すると、次からは、それより薄い教科書1冊なら余裕で覚えられるようになる――。そうやって自分を鍛えていく感覚が、メタルと似ているんですよね。
メタルには不真面目なイメージがあるかもしれませんが、バンドのメンバーも周りの人たちもすごく真面目に練習して、音楽と向き合っています。世界的なメタルバンド・Slipknot(スリップノット)のギタリストの「部屋で8時間は練習しろ、友達を失うまで出かけるな、酒は有名になってからだ」という名言があるのですが、そういう「スポ根」気質が好きなんです。
――言われてみれば、共通する部分がありますね。
私にとって、医学部を受験すること自体が「限界への挑戦」でした。難しいと思うことでも、努力を重ねて挑戦すれば、道が拓けるということを医学部受験と医学生生活で学びました。今、医師としても、バンドマンとしても、自分を徹底的に鍛えていく時期に差し掛かっていると感じています。双方の仕事に良い影響を与えられるよう、ますます精進したいと思います。いつか、医療系のイベントでライブ活動をしたいですね。音楽を通じて、多くの人に医療や健康を少しでも意識してほしいですし、それは医師兼バンドマンの私だからできる社会貢献になるとも考えています。
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