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コラム

本当に進む?医師の「働き方改革」 医師の労働環境はどう変わってきたか

2017年4月5日

少子高齢化に伴う労働人口の減少、ライフスタイルの多様化や女性の社会進出―こうした中で日本人の働き方を見直そうと、国を挙げて「働き方改革」が進められようとしている昨今。こうした波は医療業界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
今回取材したのは、働きやすい病院評価サービス “HOSPIRATE”を運営するイージェイネット代表の瀧野敏子氏。勤務医として働いてきた視点を活かしながら、10年以上にわたり医療機関の働きやすさを評価してきた瀧野氏に、医師の労働観や労働環境の変化、今後の見通しについて聞きました。

「制度があるだけ」では本当の働きやすさを見抜けない時代に

―日本全体で、働き方が見直されつつあります。まず、医師の労働観や労働環境は、昔と比べてどのように変化しているとお考えでしょうか。

イージェイネット代表の瀧野敏子氏

多くの方が実感しているところかもしれませんが、昔のように24時間滅私奉公して患者さんを支えるのではなく、自分のプライベートも大切にしたいという医師が増えている印象です。日本の社会全体でワークライフバランスの重要性が叫ばれる中、医師も例外ではないということだと思います。かつて医学部に入るのは1000人中1.4人程度(1960年)だったのが、2015年には7.7人程度にまで増加。医学部入学の敷居が下がり続けている中、価値観、働き方が多様化するのは、ある意味当然かもしれません。

こうした医師側の動きに呼応するように、医療機関の様子も昔とは大きく変わりました。
産休・育休といった制度はもちろん、院内保育所や職員食堂といったハード面においても、職場環境はかつてと比べて飛躍的に充実しています。イージェイネットが働きやすい病院評価サービスを始めたおよそ10年前は、こうした仕組みがあるだけで「働きやすい医療機関」だと評価されていましたが、現在は、「実際に院内保育所は利用されているか」「産休・育休を利用する人としない人との間の不公平感解消のためにどんな工夫をしているか」など、実運用に踏み込んだ配慮が及んでようやく「先進的な病院」と評価されるような状況。働きやすい環境づくりのための制度を備えた医療機関が増えているからこそ、せっかくの制度が形骸化しないよう、われわれの評価指標についても、バージョンアップを検討しています。

働きやすさをはかる4つの指標

―イージェイネットでは、どのような項目で医療機関を評価しているのでしょうか。

評価項目は大きく、トップのコミットメント、ソフト面、ハード面、コミュニケーションの4つ。これらについて89の質問事項をもとにヒアリングしています。

―4つの評価項目について、詳しく教えてください。

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まず、1つ目の「トップのコミットメント」について。トップがビジョンを示し、その実現に向けた体制構築に本腰を入れなければ、職場環境は変わりません。一昔前はトップがビジョンを明文化すること自体、あまり一般的ではありませんでしたが、今はホームページを見れば、その病院の理念や経営方針が分かるようになりました。経営者の意識も、大きく変わりつつあると感じます。

ただ、もちろん「ビジョンを持っている」だけでは実効性に乏しいため、昨今イージェイネットでは、「トップがどのような仕組みをつくって、末端の職員にまで思いを伝えているか」を意識して評価するようになっています。われわれが過去に視察したところ、院長と全職員が年1回20分の面談を行っているという医療機関もありましたし、職員がパソコンを開くと、経営理ビジョンや理念が投影されるように設定している医療機関もありました。

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2つ目にソフト面について。産休、育休といった人事制度があることはもちろんですが、先ほどもお伝えした通り、「それらが本当に機能しているのかどうか」「利用する人・しない人で不公平感が生じていないか」といった項目まで確認していかないと、本当の働きやすさは見えてきません。特に後者の不公平感については課題になりがちで、明確な答えを持っている医療機関はまだまだ多くない状況です。時短勤務職員とフルタイム勤務職員でどのように給与や休暇を調整しているかなど、不公平感解消のために労務管理で工夫していることなどをヒアリングしています。

このほか、昨今は出産・育児だけでなく、介護休暇などのニーズが急激に高まっていますし、精神疾患やがんから復職した職員への対応を求められる医療機関も徐々に増えているようです。育児は比較的、休まなければならない期間が明確ですが、介護や持病を抱えた方々は、いつ何が起こるか分からないため、「休みたいときに休める雰囲気・マンパワーがあること」が大切になってきます。
過去の視察では、入職前の面談で「病院の方針として、さまざまな働き方を望む職員を支援しており、助け合いながら業務を進めてもらいたいが、賛同してもらえるか」と確認している医療機関もあり、入職の時点でスタッフの認識を揃えておくというのも大切なポイントと言えるのかも知れません。

手術

3つ目にハード面について。この項目では、トップのビジョンや、ソフト面での配慮が、医療機関の設備にどう反映されているかを確認しています。職員用の仮眠室や院内食堂・カフェテリアなど、休憩時に利用できる設備は昔に比べると、かなり一般的になりましたし、ラーニングセンターをつくって職員の長期的なキャリア形成を支援する医療機関も増えています。

この項目もやはり、全国的にかなり改善されている印象ですが、視察を行っていて興味深いのは、医療機関の方針や地域性によって、必要なハードは微妙に異なってくるということ。たとえば、「『子どもを夜中に病院に預けて働けるようにする』のではなく、子どもを持つ職員には夜勤をさせないようにシフトを整えることが大切」という方針で、あえて24時間保育所をつくらないという結論に至った病院もあります。時流に乗って便利そうな設備を整えていけばよいというわけではなく、職員のニーズを見極めながら設備に落とし込んでいくことが求められているように感じます。

医師11

最後に、コミュニケーションについて。1つ目のトップのコミットメントとも多少関連するのですが、経営層の思いを伝える場があることに加え、現場の声を経営層に伝えられる仕組みがあるかどうかを評価しています。目安箱や職員満足度アンケートを用いて現場の声を吸い上げている医療機関は増えており、一見着手しやすそうな項目ではあるのですが、こちらも「経営層と現場スタッフをつなぐコミュニケーションツールがあるだけ」では不十分。「現場スタッフからくみ上げた声に、どう対応するか」が課題になりがちです。われわれが視察している中でも、医療機関から「ほかはどうしているんですか」と聞かれやすいのが、この「職員の声への対応策」となっています。

もちろん、現場の声をくみ上げたとしても、経営者としてはそのすべてを実現できるわけではありません。イージェイネットが過去に視察した中では、「院長にメールでいつでも現場の意見や考えを発信できる」という体制を整えている医療機関や、職員旅行の道中のバスで院長の隣に15分ずつ現場スタッフが座り、相互交流を図っているという医療機関がありました。経営層と現場スタッフ、どちらか片方の声を一方的に伝えるのではなく、双方の思いをすり合わせるようなコミュニケーションの場づくりが大切と言えるかもしれません。

働きやすさと医療貢献、どう両立させる?

―日本全体で進められている「働き方改革」ですが、医療現場は特殊な労働環境にあるため、改革の効果が限定的になるのではないかという声も上がっています。

医師の労働環境は見直されるべきだと思いますが、確かに大前提として、やはり一般企業のサラリーマンと医師では、労働観が異なるとは思います。勤務中か否かにかかわらず、「目の前の困っている患者さんがいたら、助けたい」というのが医療者としての根本の思いであり、モチベーションでもあるはず。また、そもそも潤沢に医師がいるわけではない状況下、すべての医師が定時退社にこだわると、日本の医療がなりたたないということは、おそらく現場の医師であれば誰もが実感しているところではないでしょうか。

加えて、経営層の人材に対する認識も、一般企業と医療機関では異なります。
企業は、新しいサービス・人員を拡充させることで、組織としての成長曲線をある意味青天井で計画できますが、医療機関は診療報酬が決まっているため、地域ニーズによって収益が頭打ちになるポイントが明確で、増員したからといって経営上それがプラスに働くとは限りません。もちろん、人口の多い都市部で急性期の専門外来を立ち上げたりしたら増益につながるのかもしれませんが、それが難しい地域では、地域ニーズに応じた医療を、限られた人員で実践していかざるを得ない。「スタッフ同士が助け合えるような職場をつくるためには、増員が必要」という認識は、どこの院長も持っていますが、腰が上がりづらい状況です。増員して働きやすい環境を整えられる医療機関と、整えられない医療機関が2極化してしまっているのが現状のように思います。

―労働者、雇用者双方のマインドが、医療現場と一般企業とでは大きく異なる。

そう思います。

医師_聴診器01

しかし、だからと言って「24時間患者さんのために」という時代に戻れないのも事実です。医師の価値観、周辺環境の変化もありますし、幅広いバックグランドを持った医師が活躍できる体制を整えなければ、今後の医療需要には対応できません。もちろん、働きやすさだけを求めて入職し、患者さんの信頼を損ねたり、現場の連携を乱したりしてしまうことがないよう、医療者に啓発していくことも大切だと思いますが、患者さんのために頑張りたいという思いを持った職員が、やりがいを感じながら働き続けられる環境をつくっていかなければ、この国の医療は自壊していくと感じます。

「医師として倫理感を持って働くほど、ワークライフバランスが崩れていく」、「家庭生活を充実させるためには、仕事を辞めざるを得ない」―そんな、医療の倫理感と働きやすさが両立しえない状況を脱し、医師としてのキャリアも、プライベートも並行して充実されられるような環境。それを実現するために、医師の労働環境に真正面から向き合わなければいけないときが来ているのではないでしょうか。

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