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コラム

「6日働き6日休む」医師も まるで天国?豪州医師の働き方―海外の医師はこう考える vol.3

2018年8月29日

森 臨太郎(もり・りんたろう)
オーストラリアで働いていたとき、驚いたのが「休みやすさ」だ。医師たちが、お互いを自宅に招きあってBBQをしたり、手つかずの自然が残る森や砂漠や海のそばに行ってキャンプやハイキングを楽しんだり――それこそオーストラリアの”lay-back”の文化を享受できたように思う。なぜ、オーストラリアではこうした体制が可能だったのか。現地で考えたことを紹介したい。

「6日働き6日休む」医師も オーストラリアでの働き方

同僚やその家族との交流会での一枚(右から3番目が筆者)

オーストラリアでは約3年間、小児科医として仕事をした。最初の二年半はアデレードという都市にある母子病院で中堅のRegistrarという立場で、残りはキャンベラの総合病院でConsultantという少し上の立場としてかかわった。

オーストラリアの医師の職位は、英国のそれと近く、このConsultantとRegistrarのほかにResident (RMO: Resident Medical Officer)がいて、大まかに言ってこの三層構造である。著名な教授も病院の診療科の部長も、みなConsultantという意味では同列であるが、診療現場においては、それぞれの階層間にある溝は大きい。

私の診療の専門は新生児医療であるため、集中治療という側面からも、シフト制で勤務していた。Registrarは5-6名で、同じ職階のFellowが1-2名であった。Fellowは研究業務を日常的に行いつつ、診療のシフトを少し負担するというイメージである。

Registrarのシフトは、3日の日勤(朝8時から夕方6時)に続いて、3日の夜勤(夕方6時から朝9時)があり、その後6日の休暇があった。時折、週1回の外来シフトを担うこともあった。この3日日勤・3日夜勤・6日休暇の12日ローテーションで回すと、実は4人の新生児科医がおれば、24時間365日をカバーすることができる計算になる。

ただ、新生児診療においては例外もあった。出産はいつ・どこで起こってもおかしくないため、救急搬送が日常茶飯事。2-3日に1回ぐらいのペースで対応に迫られる搬送がある。広大な面積を持つオーストラリアの場合は、この搬送を救急車で行うことはむしろ珍しく、飛行機やヘリコプターで行う。また、緊急のハイリスク出産や多胎の出産などがありえ、実際は1人では対処できない。アデレードではこういった場合の「サブ」の人員として、Consultantがついていた。実際には、こういった緊急事態には教育的配慮もあって、Registrarが対処し、通常業務や緊急事態への支援にConsultantがカバーするというイメージである。

現地では飛行機が、救急車の役割を果たしている(筆者提供)

Consultantは、夜勤は行わず全体を見て指示を出すという役割であり、シフトは月単位であった。Consultantのシフトは、新生児集中治療室1か月に続いて、準集中治療室1か月、研究期間が1か月(場合によってはそのあと休暇)、といった3-4か月ローテーションで回す。そうすると最低3人の上級新生児科医がおればカバーできることになる。ちなみにRMOはまだ小児科の総合的な研修中の医師であり、「新生児」といった専門性を得る前の医師であるため、戦力としてはみなされず、夜勤シフトもなく、担当のRegistrarのお手伝いをするというイメージであった。

5~6週間の長期休暇、医師それぞれの過ごし方

病棟で、同僚たちと(筆者提供)

オーストラリアでは、労働時間が厳しく管理されており、シフト制を組んでいる労働者は年間で6週間、通常勤務をしている労働者は5週間の休暇を取る必要がある。この休暇を取る圧力はかなり強く、ほとんど義務である。

こういった長期休暇を考慮すると、Registrarは4人では足りないので、5人が定数であった。妊娠中や子育て中の医師などパートタイム医師が入る場合もあるので、その場合は6人となる場合もあった。

時間外に勤務すると、時間外の給料を支払う必要が出てくるため、診療科の運営上難しくなることもあり、また時間外勤務を多くさせている事実が分かると、厳しい目にさらされることもあり、シフトが終わったら、状態が悪い児がいても、申し送りの途中であっても、帰宅を促される。

このようにして半ば強制的にオフの時間を確保するよう促される現地の医師たちであるが、冒頭に記した通り、各々がオフの時間を非常に楽しんでいるように見受けられた。医師同士の交流も非常に盛んだったし、自然の中で1人のんびりと過ごしてリフレッシュするのも難しくない。当時の私は日本で新生児科医として忙しく勤務した後だったこともあり、まるで天国にいるような、あるいは物足りなくて遊びまわっているような気分であった。

とはいえ、休暇の間に、多くの中堅医師がしているのは、資格試験のための勉強であったりもする。オーストラリアでも専門医試験は難しく、相当に勉強する必要があり、大きな子ども病院では、こういった資格試験のためのセッションや勉強会などの機会が多くあった。

いずれにせよ、一度こういった働き方に慣れてしまうと、その心地よさからなかなか抜け出せない。英語圏であるため、最先端の医学研究に関する情報も迅速に伝わってくることから、研究や勉強などに情熱を向ける知的好奇心や動機も維持され易かったほか、豊かな暮らしを維持できることへの満足感は大変大きく、正直なところ、「診療をするならオーストラリアに戻りたい」と、今でも思う。

6日間の連続休暇を可能にするもの

なぜオーストラリアでは、このような労働環境を実現できたのか。

「日本よりもはるかに医師の人数が多いのではないか」との見方もあるだろう。確かに人口当たり医師数は日本以上だと報告されているが、オーストラリアの国土面積は日本の20倍以上。各地に医師が点在している分、必ずしもすべての病院において日本以上に潤沢に医師がいるわけではない。実際、私の勤務していた病院は中堅医師5人、上級医師3人という構成であったが、日本のスタンダードと比べても、かなり少ないものと思われる。ここまで少ない人員で豊かな労働環境が確保されているのは、シフト制のような合理的な枠組みが徹底されているところに背景がある。

一般的に、シフト制で問題になるのは、診療の連続性である。ただオーストラリアでは中堅医師たちは主治医にならず、上級医師が主治医であるため、全体方針は上級医師が決めるという役割がはっきりしている。そのうえで、根拠に基づく医療が浸透しているため、「標準的な診療のあり方」に関しての総意があらかじめできているため、実際の現場で連続性については、さほど、大きな問題にならない。

こういったシステムの背景にあるのは、合理的な考えに基づくシステム作りと、役割の明示化である。このため、子育てをしていたり、研究をしたりしているため、診療へのコミットを通常より減らしても、充分に貢献できる制度になっている。

筆者が勤務していた小児科の様子(筆者提供)

また、専門医に取るためには、州単位での専門医研修プログラムに入る必要があるため、場合によっては僻地の診療をこなす必要があり、こういったプログラムの定数はさほど多くなく、またConsultantのポストもさほど多くないため、競争原理が働き、僻地における医師の配置も、地理的事情を勘案しても何とかなっている。

「医師の労組」で矢面に立たされ、学んだこと

最後にもう一点、私が現地で経験した象徴的なエピソードもご紹介したい。

居心地の良い労働環境を整えているオーストラリアは、労働組合が強い国でもあり、医師にも労働組合がある。日本の医師の感覚からするとピンとこなかったが、研修中の医師(中堅医師もこのカテゴリーに入る)も労働組合に入って、使用者と交渉することは珍しくない。

私が現地で働いていたときも、国の制度の変更のため、シフト制の細かい点が見直されることになった。当時、私は2年目のRegistrar。他の同僚は、1人のオーストラリア人を除いてすべて南アジア出身の外国人であった。制度改定の結果に基づき、シフトの組み方の変更する旨の通達があった。実は、シフトの組み方変更はどの中堅医師からも歓迎されておらず、中堅医師同士で批判が交わされ、中堅医師は、「みんなで集まって部長に反対しよう」ということになった。そこで、部長との話し合いの場が設定されることになった。事前には、こんなことも要求しよう、あんなことも要求しようと盛り上がっていた。ただし――ふたを開けてみれば、話し合いの場に出席したのはなんと私だけであった。

中堅医師たちは毎年毎年1年契約であり、大変競争が激しい。「外国からやってきて、ボスからにらまれると来年の契約が取れない、という不安があった」ということをあとで同僚から聞いた。もちろん表向きの欠席の理由は立派なものであったが。

私だけ矢面に立たされたが、意地があったので、皆の意見を代弁し、取り持ちつつ、妥協しつつ、意見も取り入れてもらい、皆がそれなりに納得する方針転換となったと自負していたが、一方で、ボスからは煙たがられ、来年の契約はないだろうと覚悟していた。

その年の終わりに近づき、契約更改の時期が来て、ボスからの呼び出しがあり、戦々恐々としていったところ、驚いたことに、キャンベラでConsultantポストが空いているから、行かないか、という話であった。

意見の対立があっても、それを踏まえてしっかりと議論できることが重要であって、意見の対立に伴う感情的なしこりはむしろなく、逆に評価されることを実感し、驚いたとともに、こういう合理的な社会に感謝した。

一人の人間として充実した暮らしをすることと、そのために合理的なシステム作りがされていることが、世界でも住み心地の良い国として挙げられている理由のように感じ、一方で、日本が見習うべき点も多いように感じた。

森 臨太郎
もり りんたろう
国立成育医療研究センター政策科学研究部長/コクランジャパン代表

1995年岡山大学医学部卒業(同大学院博士課程修了)。淀川キリスト教病院小児科・新生児科などで勤務。2000年に渡豪し、アデレード母子病院などで新生児科診療に従事。2003年に渡英し、ロンドン大学熱帯医学大学院で疫学・公衆衛生学を修めた後、英国立母子保健共同研究所に勤務。出産ケア、小児の尿路感染症の英国国立医療技術評価機構(NICE)診療ガイドラインの作成にも携わった。帰国後、東京大学大学院国際保健政策学准教授などを経て、2012年より現職。2014年、コクランジャパン代表に就任。

【提供:m3.com Doctors LIFESTYLE

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