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コラム

中国の病院で見た衝撃 現地“中医師”から学ぶこと―海外の医師はこう考える vol.1

2018年8月9日

森 臨太郎(もり・りんたろう)
中国の病院では、西洋医学だけではなく、中国医学(中医学)も一般的なアプローチ手法となっている。診断や治療の体系そのものが異なる2つの医学が、どのような距離感や関係性をもって、共存していけるのか。先日訪れた北京中医医院で、各部署での診療を見学させてもらいながら、考えていた。

中国医療を支える、「中医師」たち

中国の医療現場において、中医学(中国の伝統医学)の存在感は大きい。

中医師になるためには、中医師になるための大学に入学し、修士レベルの学位を取得しつつ、国家試験に合格する必要がある。中医学の教育では、西洋医学の勉強も相応なレベルまで要求されるため、日本の鍼灸師などの資格とは、距離感がある。一方で、中医師に話を聞くと、問題として挙げられがちなのが「海外では活躍しづらい」こと。もちろん中医師の資格を取れば、中国国内で中医師として働くことは可能だが、他の国で働くにはハードルが高く、西洋医学の医師の資格よりもさらにそのハードルは高い。中国も国策として、在外で通用する資格制度を進めているが、西洋医学に比べると、それぞれの国で伝統医学に対する考え方が異なり、それが法規や制度に影響するため、行える医療行為におのずと制限がかかる。それでも彼らが中医師を志した背景には「包括的に人の体を見て、人の体に自然に存在する治癒力を活かす伝統的な医学の在り方を追求したい」という思いがあるからだと聞いた。

西洋医学を志向する病院でも、中医学を志向する病院でも、その両方の専門家や施設を持つことが多いため、日本の医療現場に比べると、はるかに西洋医学と中医学が同格で融合している印象である。中医学病院でも西洋医学の医師がおり、MRIなどの画像診断や、各種検査ができ、集学的な医療が提供できることが多い。中医師も、それぞれの専門に分かれる。いわゆる「漢方」を駆使する専門家や、鍼の専門家、小児では按摩の専門家など、専門性が高いのも特徴である。

患者は、最初から中医学を希望して受診することもあれば、西洋医学を希望して受診して、その後中医学を紹介されることもある。そういう意味では、日本よりも伝統医学の地位が高く、西洋医学を志向する医師にとっても、受け入れられていると考えられる。

韓国でもそうだが、中国においても、伝統医学分野では根拠に基づく医療(Evidence-based medicine)が盛んである。それぞれの国においても、グローバルレベルにおいても、こういった伝統医学が「認めてもらえない」という思いが強いためが、積極的にランダム化比較試験や系統的レビューといった研究が行われており、コクランレビューも多く出版されている。

中医師の診療を見て覚えた“衝撃”

現地での見学風景に話を戻すが、北京で中医学の小児科における按摩法を見学した際、図らずも驚いたことがあった。中医師が赤ちゃんの寝つきを良くしようと行っていたマッサージ方が、わたしが昔、地方都市で小児医療の研修を受けた際に、先輩医師から伝授されたマッサージと非常によく似ていたのである。当時の先輩医師は、中医学を学んだ経験があったわけでもなかったはず。それでも、両者がまったく似たアプローチで赤ちゃんに向き合っていたことは、私にとって非常に印象的な出来事だった。

「中医学では、西洋医学と診断や治療の体系そのものが異なる」と言われる。ただ、この「体系」は西洋医学であれ、伝統医学であれ、究極には個々の医師によっても異なるのではないか。そのときふと思った。そういえばわたし自身も、新生児科医として仕事をしていた時、五感で集中治療を受けている赤ちゃんの病態を感じ取りつつ、「その時しかない」というタイミングで次の診療行為を繰り出す、という「感覚的」な医療を提供していた時期があった。独善的ではあるが、治療成績は良かったように思う。こういった「アート」な医療には、言語化や数値化が難しいものの、その医師の頭の中には一つの「体系」が存在しているように思う。

アプローチは違えども、根幹は同じ

突き詰めていくと、「西洋医学」とか「伝統医学」という分け方はさほど重要ではないはうだ。一人の個人である患者と、一人の個人である医師が対峙した時に、その患者の病の状態に対して、どのように処すべきかは、病の状態と、その医師の持つ「体系」との対話なのだろう。

ただ、こういった個別の医療の集合体である医療現場が、集団として、制度としてとらえられたとき、集団としても個人としても、安全性を担保する方法、経済性を担保する方法、最大限にその効果を上げる方法を考慮する必要がある。

「アートな」医療が独善的にならないために、検査がある。検査結果の異常値を集めてきて、病態を構築するのではなく、対話の中で、医師の中にある一般化された体系を基に生み出された、その患者の病の状態への理解は、もしかすると大きな誤りである可能性もあることを踏まえると、「検査」をすることで、その理解が誤りでないかどうかを「客観的」に検証する態度が必須であり、それが「科学的態度」である。

ランダム化比較試験の結果で有意差を持つものをすべて集めてきて、その分野の診療方針を構築するのではなく、もともとその分野で存在している一つの医療体系に対して、検証結果として示された個々のランダム比較試験や系統的レビューの結果をぶつけて、必要であればその体系を修正するというのがおそらくは正しい方法であろうと考える。

そう考えると、中医学において、ランダム化比較試験でその体系について一つ一つ検証することは必須の態度となる。そのようなことを繰り返しながら、いつしか、「西洋医学」と「伝統医学」という区分けがなくなり、一人の患者さんに対して、最適な医療が提供されるようになるのが理想かもしれない。医療の歴史は科学の歴史よりも長い。

森 臨太郎
もり りんたろう
国立成育医療研究センター政策科学研究部長/コクランジャパン代表

1995年岡山大学医学部卒業(同大学院博士課程修了)。淀川キリスト教病院小児科・新生児科などで勤務。2000年に渡豪し、アデレード母子病院などで新生児科診療に従事。2003年に渡英し、ロンドン大学熱帯医学大学院で疫学・公衆衛生学を修めた後、英国立母子保健共同研究所に勤務。出産ケア、小児の尿路感染症の英国国立医療技術評価機構(NICE)診療ガイドラインの作成にも携わった。帰国後、東京大学大学院国際保健政策学准教授などを経て、2012年より現職。2014年、コクランジャパン代表に就任。

【提供:m3.com Doctors LIFESTYLE

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