東京・上野にある永寿総合病院・整形外科は1994年より国内初となるバレエダンサーを対象とした専門外来を開設し、足部や足関節などに起こるダンサー特有の傷害を約四半世紀にわたって診療し続けています。
同外来を開設したのは、当時バレエダンサーのケガや障害の第一人者だった故小川正三医師。その後、体調を崩された小川医師に代わって98年に後を継いだのが、元整形外科主任部長の平石英一医師です。日本整形外科学会認定専門医、日本足の外科学会評議員、日本靴医学会評議員を務める足部や足関節の整形外科疾患を専門とし、日本人ダンサーの健康、QOL、トレーニング、パフォーマンスの向上を目指す日本ダンス医科学研究会の理事の1人でもあります。この20年間、原則週1回の専門外来で年間約170人前後のダンサーたちの治療にあたってきました。今回は、世界から日本人バレエダンサーが集まるようになった外来の軌跡について取材しました。
バレエダンスとケガ・故障は隣り合わせ
日本は世界有数のバレエ大国で、バレエ人口は40万人もいると言われています。 “お稽古事”として習う人もいれば、プロのダンサーを目指して海外のコンクールでの上位入賞、さらに留学して本場である欧米などで活動するなどレベルはマチマチですが、練習などによって足などのケガや故障と隣り合わせであることは共通しています。
特定非営利活動法人芸術家のくすり箱が2012年、プロフェッショナルなバレエ団16団体を対象に調査した結果によると、バレエによるケガや故障で治療経験のある人は、95%に上っています。特にバレエでは、トウシューズを履いたときのつま先立ちや180度の開脚など無理な体勢が祟って足関節、股関節などのケガや故障が多く発生します。
「データをとると足首や足でだいたい65%で、次いで股関節や膝が多く、ほかにも腰椎や胸椎、肩などもありますが、8割以上が股関節からの下肢に集中しています」と平石医師。さらにバレエ特有の動きに加え、「疲労」や「オーバーユース(使いすぎ)」など、過度な練習が原因で徐々に障害が進行していくケースが多いといいます。
「当外来に来る方も、1時間半くらいのレッスンを週5回くらい行っている人が多いですね。コンクール前になると土日も練習ということも珍しくありません。練習の積み重ねで身体のどこかに負担がかかり、痛みが生じてくるわけです」と平石医師は説明します。
足の外科を診る医師が少ない
いわば、足のケガや故障はバレエダンサーにとって“職業病”ともいえますが、なかでも多いのが足関節後方インピンジメント症候群や、足の疲労骨折です。
足関節後方インピンジメント症候群は、踵を上げ足の指全体で体重を支えるデミ・ポアントや、トウシューズを履き、つま先で立ったポアント姿勢など、足関節を強く底屈させたときに、足関節後方の踵骨や距骨、軟部組織がインピンジ(衝突・挟まる)して痛みが生じます。足関節後方に過剰骨の1つである三角骨や距骨後突起の骨折や骨挫傷等で痛みが誘発されることもあり、三角骨障害では同時に足の親指を曲げる腱(長母趾屈筋腱)の障害を起こすことも少なくありません。
また、疲労骨折は身体の一部に継続的に負荷がかかることによって生じる骨折であり、バレエで好発するのは、足の甲の部分の第2中足骨の疲労骨折。フェッテやピルエットなどの回転やジャンプなどによって繰り返し衝撃が加わることで骨に亀裂が生じたりする障害です。疲労骨折は脛骨でも多く発生するほか、稀に腓骨でも足関節よりやや近位に発生し、膝周辺の腱障害、半月板損傷もジャンプを繰り返すなどの過度の負担で発症します。
小川医師がバレエダンサーの専門外来を立ち上げたのは、こうした医療機関が当時、ほとんどなかったからです。「小川先生自身、バレエが好きで、著名なバレエダンサーも診療していました。多くのダンサーたちを診るなかで、足の整形外科の分野を開拓し、ひっぱってこられたと思います」(平石医師)。
先述のNPO法人の調査では、ケガや故障などの際にどのようなことに困っているかを尋ねていますが、治療やリハビリでは「良い医師やトレーナーがわからない」「治療内容に不満・治療効果がでない」「医師のバレエの動き・活動への理解不足」などが数多く挙げられ、ダンサーたちの治療などへの不満や不安が浮き彫りになっています。小川医師から平石医師に引き継がれても、同外来はダンサーたちの数少ない拠り所となり、その活動を今なお支えているのです。
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