大学時代に出会った離島医に憧れて、沖縄県立中部病院の離島医養成プログラムを通じて伊平屋(いへや)診療所で3年間経験を積んだ金子惇氏。現在は、東京の診療所に所属しながら、医療資源の少ない環境で離島医が島民の健康を守り続けることができる理由について研究しています。金子氏がここまで離島医療に惹かれる理由とは、何なのでしょうか。
離島医療をアカデミックに考察
-現在の取り組みについて教えてください。
東京都小金井市にある、むさし小金井診療所に勤務する傍ら、東京慈恵会医科大学大学院で離島医療の質を評価・検証するための研究に取り組んでいます。
―なぜ、離島医療をテーマに研究をしようと思ったのですか。
わたし自身が離島で働いていたころ、「なぜ離島医は、こんなにも医療資源が乏しい中で島民の健康を維持できるのだろうか」と疑問に思ったからです。離島は医師数の面でも、医療機器の面でも、都市部に遅れをとってしまいがち。にもかかわらず、大きな病院に紹介しなければならないような重症患者さんの割合が都市部より少ない印象があったんです。
実際に研究を進めてみても、わたしが赴任していた伊平屋島は、診療所を受診する住民の割合自体は都市部よりも高かったものの、大病院への紹介を擁するような重症者は、都市部よりも低い傾向にあった。つまり、離島医がかかりつけ医としての機能を十分に発揮し、重症化に至る前に患者さんに介入できている可能性が見えてきたんです。
伊平屋島に限らず、沖縄県には「自分が最後の砦である」という責任感を持って、夜間・土日問わず患者さんと対峙し続けている離島医が数多く存在します。彼らの診療の質を、スコアシートや患者さんへのアンケートなども考察しつつ、科学的に検証したい。そうすることで、離島医療に興味を持ってくれる学生や若い医師を増やしていけたらうれしいですね。
島民の負担が少ない医療を
-そもそも、どうして離島医療に携わろうと思ったのですか。
大学5年生の時に出会った、小笠原諸島の離島医に憧れたからです。
当時の小笠原村の診療所に勤務していたのは、長年の経験を持つ離島医と、自治医科大学卒後4年目の若手医師。自分とあまり年齢の変わらない若手の方が、内科も小児科も産婦人科も1人で診ており、とても楽しそうに診療していたことが印象的でした。その姿を見て、「離島医療に携わりたい」と思い、後期研修で沖縄県立中部病院の総合診療科コースに設けられていた「離島診療所医師養成プログラム」に進むことにしたのです。
-伊平屋島で勤務されていた時は、どのようなことをなさっていたのですか。
1年目は、診療はもちろん、本土では未経験だった慢性疾患の診療方法を学んだり、薬剤管理を手作業からエクセル管理に移行するなど、業務整理を行ったりしていました。
2年目以降は、島の課題が見えてくるようになり、その改善に取り組みました。たとえば、島の妊婦さんが妊婦健診を受けるには、船で本島まで行かなくてはなりません。往復の交通費、場合によっては宿泊費など、診察を受けるための経済的負担が大きい状況でした。島内の妊婦さんが多かったこともあり、経済的負担を少しでも減らせるよう行政の方と話し合い、船代に助成金を出すという提案を進めてもらいました。また島内には、子どもが4~5人いる家庭が少なくありません。そのため、自己負担が増える任意の予防接種の受診率が低くなりがちでしたが、こちらも行政に働きかけ、助成金を出してもらえるようになりました。
あらゆる基礎力を身に付けられる場
-いずれまた、離島に戻りたいと思いますか。
そうですね。家庭の事情もあるため、すぐには難しいですが、ゆくゆくは、長期的に離島医療に携われる機会を見つけていきたいと思っています。
東京にいる現在でも、月に1回開催される沖縄の離島医による事例共有会に参加したり、伊平屋島の「ムーンライトマラソン」の大会ドクターを務めたりするなど、関わりを持ち続けています。しばらくは現在の関わり方を継続しつつ、離島医が休暇や勉強で不在になる際に代診医として協力していきたいと考えています。
-最後に、金子先生が考える地域医療の魅力を教えてください。
「小医は病を癒し、中医は病人を癒し、大医は国を癒す」という言葉がありますが、人口があまり多くない地域では、その全てを若いうちから経験することができます。小児科から内科、整形外科など多様な疾患を診ることができますし、患者さん本人のことだけでなく、周囲のこともよく分かります。コミュニティが小さいので、行政との距離も近く、地域全体で何かを変えようとするときに取り組みやすい。プライマリケアの基礎を身につけたり、行政と連携して取り組みを進めていく基礎力を養ったりするために、地域医療は最適の場であり、そこに魅力があるのではないでしょうか。地域医療で身につけた能力を、他の地域や都市部で応用していくこともできますからね。
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